第906話 炭酸を飲む猫
「お帰りなさいませ」
と、なぜかダークエルフのメイドさんズに迎えられた。なぜに?
「遠征メイド隊の教育が整いましたので、現場に出すことにしました」
なに一つ、ミタさんの言っていることが理解できないが、背後のメイドさんズはミタさんの配下ってのは理解した。
言って聞くようなミタさんでもねーし、オレの行動が制限されるわけでもねー。好きにやってちょうだい、だ。
「こいつらを風呂に入れて、新しい服を着せてやってくれ」
「畏まりました。レータ、ハルフィー、サラン、任せます」
「「「はい。畏まりました」」」
ささっと三兄弟の背後へと回り込み、ささっと風呂場へと連れていった。
……メイドって、そんな動きを要求される職種だったっけ……?
なにか違うものへと教育したような気がしないではないが、うちのメイドはそう言うものなんだろう。いや、知らんけどよ。
「ゆっくり話せる部屋はあるかい?」
勝手知らない他人の家。ってか、客の身で勝手に動いて大丈夫なのか?
「カティーヌ様より許しを得ています」
許すなよ! 自分んちだろうが!
いや、好き勝手しているオレが言ってイイことじゃないがよ。
なんかどうでもよくなったので、すべてをミタさんに任せた。
案内された部屋は、上等な客室で、上等なソファーや上等な家具が揃えてあった。あ、下等な描写ですんません。
「好きなところに座──れねーか。まあ、気に入ったところで丸くなれ」
「完全に猫扱いかよ。いや、猫だけどさ……」
なにか通じる感性に、キャラが被っているように感じるのは気のせいだろう。他人の空似だ。
向かいのソファーに腹這いとなる茶猫。なんか温いって顔になってるな。
「なんか飲むか? 牛乳と羊乳ならあるぞ」
「……猫だけど、猫扱いしないでくれ。人としての矜持をなくしそうだからよ……」
別になくしてもイイだろうよ。オレもどうせなら猫に転生して毎日食っちゃ寝したいもんだぜ。まあ、食うにも困る野良猫はイヤだけどよ。
「矜持を大切にしたいと言うなら大切にしたらイイさ。で、なにを飲む? なんでもあるぞ」
オレやプリッつあん、そして、ミタさんの無限鞄を合わせたら大抵のものは出せんだろう。
「ペ○シが飲みたい」
いきなり変化球をぶっこんで来やがったな。誰か持ってる?
「只今ご用意致します」
メイドの一人がお辞儀をし、部屋を出ていった。え! 用意できんの!?
しばらくして出ていったメイドさんが戻って来た。盆にサンゴー缶のペプ○を載せて。
「カイナーズホームの宅配サービスを使いました」
あ、ああ。そう言や、そんなのあったな。つーか、そんなサービスして儲けがあるのか?
「お待たせしました」
テーブルに置かれたペ○シ。で、どーすんのよ? と見ていると、なんとも器用に歯でプルタブを開けやがった。
……ってか、プルタブ式なんて久しぶりに見たよ……。
「ペプ○だー!」
本当に器用な猫だな。缶を両手(前足か?)でつかんで飲みやがったよ。
長靴を履いた猫ならぬ炭酸を飲む猫。童話どころか笑い話にしかならねーよ。
「猫の器官的に炭酸とか大丈夫なのか?」
よくゲップも出さずに飲めるよな。
「おれにとってペ○シは命の水。五臓六腑に染み渡るのさ!」
安上がりだな命の水だな。ってのはヤボか。オレにとってコーヒーが命の水だしな。
「お代わり!」
その体でよく飲むものだ。あ、オレも飲みたくなったから一缶ちょうだい。
久しぶりに飲むペプ○。こんな味だったっけ?
炭酸ジュースなんて夏しか飲まなかったし、どちらかと言えばコーラ派だ。ペ○シの味なんて忘れたわ。
「……旨かった……」
腹を上にして、懐かしさに涙していた。
「それはなにより。欲しけりゃ言いな。ケース単位で用意してやるからよ」
どうせ不安になるくらい安いだろうし、ペ○シで手懐けられるんなら安いもの。ケースどころかパレット単位で買ってやるよ。
「……今さらだが、どうして助けてくれるんだ……?」
起き上がり、不審な目をオレに向けて来た。
「家族を守り抜いた男がカッコイイと思ったからさ」
「……カッコイイ? おれが……?」
キョトンとなる茶猫。体もそうだが、表情筋もどうなってんだよ?
「ああ。最高にカッコイイぜ」
きっと前世の自分がキライで自信が持てず、周りから否定され続けたのだろう。自分のしたことがどれだけカッコイイことかわからないのだろうよ。
「カッコイイ男が見てくれを気にしてんじゃねー。カッコイイ男は黙っていたってカッコイイものさ」
まあ、大半の人は愛らしいと思うだろうけどよ。
「……ありがとうございます……」
なぜか泣きながら土下座して感謝を口にした。
オレの知らない物語を経て今がある。ならば、受けてやるのが男ってものさ。
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