第907話 アグレッシブ
静かに泣く、茶猫を黙って見守る。
できることならしばらく一人(いや、匹か?)にしてやりたいが、コミカルな動きがおもしろく、つい見とれてしまったのです。
趣味悪っ! とか言わないで。自分でもわかってるんだからさ。でも、見ててスゲーおもしろいんだよ。
……しかしほんと、人間臭い動きをする猫だぜ……?
背中にチャックとかねーか探ってみてー!
そんな気持ちと戦いながら残りのペプ○を飲みきる。ゲプッ。
炭酸で膨れた腹を擦ってると、ドアが開いてダークエルフのメイドとこの城のメイド……って言うか侍女さんが入って来た。
「お話中申し訳ありません。カティーヌ様がお話したいとのことです。お通ししてもよろしいでしょうか?」
と、侍女さん。公爵夫人自ら来んのかい。
「あいよ。通してくれ」
来たものはしょうがねー。客の身で家人を追い払うのは失礼だしな。
「お話中、申し訳ありません。カレットより牙ネズミが出たと聞いたのですが、本当でしょうか?」
第三夫人の問いを華麗に茶猫へとパスした。
「え? おれ!?」
「しゃべった!?」
互いに驚く猫と人。コミカル~。
「まあ、一番コミカルなのはベーだけどね」
見れば押し車の上でお茶をするメルヘン。人の心の呟きに突っ込まないでください。ってか、いつの間に姿を現した!?
「ベーの力を使うのは難しいけど、解くのは意外と簡単よ。なんで?」
知らんがな。まだ、共存ってなんだろうって問いにも答えが出てないんだからよ。
「──ではなくて! ベー様、どうなのですか?」
「オレが知るわけねーだろう。バイブラストに来たの最近だし、牙ネズミなんて今日、耳にしたんだからよ」
オレ、この中で一番の部外者だよ。
「なのになぜか中心にいるこの不思議。ベーは謎ね」
謎の生命体に謎扱いされるオレ。納得いかねー!
「……牙ネズミは全て退治したのか?」
とりあえず、メルヘンは放置だ。おっと、いつもじゃんって突っ込みはノーサンキューだぜ。
「いや、全てはしてない。牙ネズミはすばしっこくて繁殖力が高いからな。ただ、一万匹は殺したと思う」
牙ネズミがどんなものか知らんが、普通のネズミだって一万匹殺すなんて至難の技だ。
「どう倒したかは口にするな。それは、お前やお前の家族を守る力だ。誤魔化すなり隠蔽するなりしろ」
「ベー様! 牙ネズミは疫病を撒き散らす魔獣です。殺す手段があるなら教えてください」
「じゃあ、訊くが、バイブラストはどう対処して、どう対応した? 今はどう対策している?」
その問いに第三夫人が押し黙る。
そりゃそうだろう。二度も滅びかけてるんだからな。
「過去の教訓をまるで活かしちゃいねー、とは言わない。こうして立て直しているんだからな。だが、三度、ことは起こった。まず、やるべきことは、実状調査じゃねーの? 役所に下水道を管理する部署があんだろう? こいつらは仕事をしてるって言ってたからよ」
だが、第三夫人の顔からして、どうもそうじゃないようだ。
「まさか、役所にそんな部署はねー、とかは言わねーよな?」
いくらなんでもそこまで愚かじゃねーよな?
「……役所には下水道管理の部署はあります……」
ありはするが有効には動いてねーってことか。
「上から下に命令して、下は対処も対応も対策も他に任せた、ってことか。そりゃ三度も起こるわ。つーか、それで滅びねーのが奇跡だわ」
バイブラスト、どんだけ運がイイんだよ。神の加護でもあんのか?
「第三夫人がやるべきは、まあ、多々あるが、上から下に命令がいくようにするより、下から上に情報がちゃんと上がるように組織的改革しろ。四度目は滅びるぞ」
「……はい。そのように進めます……」
「それと、牙ネズミを狩った者には懸賞金を与えるとか、下水道を定期的に掃除するとか、月に何度かは下水道を見回りするとか、それらをできるように役所と部署の改革もな。国はいつだって足元から崩れるぞ」
村人のオレが言っても説得力はねーが、土台が大事なのは全ての共通点。崩れるのがイヤなら土台はしっかりと築け、だ。
「……わかりました……」
いろいろ反論したいことはあるだろうが、それらを抑え込み、右の膝を軽く曲げ、貴婦人の一礼をして部屋を出ていった。
「ミタさん。コーヒーちょうだい」
「はい。どうぞ」
さっと出されたコーヒーを受け取り、香りを楽しんでから口に含んだ。
「……悪い顔してるわよ……」
失敬な。これはイイアイデアが浮かんだときの笑顔です。
「商売は奥が深いな」
前世の記憶がありながらそのことに気がつかないんだから、オレに商売の才能はねーや。
でもまあ、今生のオレはアグレッシブ。思いついたらゴー! だ。
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