第900話 納得いかねー!

 金ももらったので、買い物へと出かけますか。


「歩いていくのですか!?」


 馬車を返したオレにナルセイラがびっくりした。


「わたしは、自分の足で歩いて買い物をするが好きなのでね。では」


 サラリと流して商会を後にした。


 この辺は商人街の中心なのか、大きな商店が目についた。


「あんちゃん、ここでは買わないの?」


 商店を眺めるだけのオレに、サプルが不思議そうに尋ねて来た。


「この身なりじゃ売ってくれんからな」


 大きな商店は金持ち相手に商売をしているし、たぶん、顧客が固定していると思う。そんなところに村人スタイルの者がいっても追い出されるのがオチだ。


「父様の紹介状を出せばいいのじゃないの?」


 紹介状なんてあったんだ。言えよ、そう言うことはよ。いや、気にもしないオレもどうかと思うがよ。


「もうあんな固っ苦しいのはごめんだ。オレは気軽に買い物したいの」


 大きな商店を外から見て回り、おもしろそうな店には結界チェックをつけて行く。


「しかし、食い物関係の貿易商が多いな」


 まあ、領地自体が内陸部にあり、森と湖に囲まれた地だ、畑になる土地は少なく、外からの輸入になるだろうが、どうやって稼いでいるんだろう? 食料を外に握られるなんて喉元にナイフを突き立てられているようなもの。搾取されたりしねーのか?


「バイブラストとは畑が少ないからね。どうしても他領から買わなくちゃならないのよ」


 公爵令嬢(笑)の割には世間話のことに詳しいじゃねーか。つーか、レディ・カレットは、ちゃんと令嬢としての教育を受けてんのか?


 なんて思いはしたが、まあ、あの親にしてこの子あり。思うがままに生きたらイイさ。


 あっちこっちと見て回っていると、いつの間にか住宅街へと入っていた。


「へ~。ここら辺は煉瓦造りなんだ」


 煉瓦造りの家は、うちの国にもあるし、結構昔からあるものだが、煉瓦を作るのに大量の薪が必要となるため、そんなに普及はしてなかった。


 バイブラストなら薪があるから普及していると考えがちだが、煉瓦を作るより木材のほうが安い。金持ちならいざ知らず、庶民なら木造を選ぶだろうよ。


「昔、大火事になって煉瓦造りになったって先生から聞いたことがあるわ」


 ほ~ん。令嬢教育はともかく、バイブラストのことは学んでんだな。感心感心。


 煉瓦造りの家々を眺めて歩いていると、どこからかイイ匂いが漂って来た。昼の用意をするには早いよな?


 匂いを辿っていくと、道の両脇にたくさんの屋台が並んでいた。なんだこれ?


「住宅街に屋台とは、摩訶不思議だな」


「バイブラスト──と言うか、アムレストに住む者は外で食べる人が多いらしいわ。煙突に税をかけてるから」


「煙突に税? またなんで?」


 そんな話、初めて聞いたぜ。いや、歴史を紐解けば変な税などいくらでもあるがよ。


「バイブラストは夏でも寒いときがあるし、冬が長いから暖炉なしにはやって行けないの。大火事になったのも考えなしに暖炉を増やし、煙突を増やしたからなのよ。それに、排煙問題も出て、それを抑えるために煙突に税をかけたらしいわ」


 ほ~ん。街に歴史あり、問題あり、か。風光明媚な村に生まれて本当にラッキーだぜ。


「せっかくだから屋台でなんか食うか」


 まだ昼には早いが、この匂いからしてもう開店はしているだろう。


「おっちゃん、やってる?」


 とりあえず、近くの屋台に突入してみる。ってか、何屋だ?


「おう、いらっしゃい! やってるよ。なににする?」


 屋台を覗くと、深鍋が三つ並んでいた。スープ系か?


「各種一つずつ、十人分くれや」


「十人分?」


 と、首を傾げる屋台のおっちゃん。


 オレ、プリッつあん、サプル、レディ・カレット、ミタさんと、まあ、見える範囲には五人しかいない。疑問に思うのは当然か。


「余分はお持ち帰りさ。ダメかい?」


 それなら諦めるがよ。


「いや、買ってくれんなら構わんさ。今日は暖かいから売れ残りそうだからよ」


 たぶん、気温は十五から十七度。暖かいと言えば暖かいが、汁物を食うにはちょうどよくね?


「お前さんら、余所者だろう?」


「わかるのかい?」


 自動翻訳の首輪が働いてるから言葉に違和感はないはずだし、同じ大陸なだけあって姿形にそう違いはねーはずなんだがな?


「そりゃわかるさ。ここは、馴染みのもんしか来ないからな。つーか、羽妖精を頭に乗せてるヤツなんてこの辺にいねーよ」


 そりゃごもっとも。オレも頭の上にメルヘンを乗っけているヤツなんて……いたな。うちの弟が乗っけてたわ。


「ってか、素直に受け入れてんだな? バイブラストでは妖精は普通なのかい?」


 それはそれでびっくりだがよ。


「普通じゃねーよ。ただ、アムレストのお伽噺に、羽妖精の恩返しってのがあってな、アムレストっ子は、羽妖精には優しくしろと育てられんのさ」


 レディ・カレットが初耳と呟いているが、オレは羽妖精伝説にびっくりだよ! このメルヘンが恩返しするほど高尚な生き物かよ!


「ご利益があるようなオマケするぜ」


 なんてプリッつあんを見ながら手を組み合わせて祈る屋台のおっちゃん。


 なんか、納得いかねー!

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