第856話 淡水魚?
「ねえ、いったいなんなのよ?」
「見てみな」
結界望遠鏡をプリッつあんサイズにして渡した。
「え? 人魚? が、どうして湖にいるのよ!?」
どうやらオレの見間違いでもなければ勘違いでもねーようだ。
うつ伏せに浮いている状態なので、男か女かはわからんが、下半身は魚。上半身は人であることはしっかりと確認が取れた。
「なにはともあれ、いってみるか」
見捨てるのも気分が悪いし、これも縁。ハルヤール将軍と同じ展開になるかはわからんが、行動しなければ縁も生まれない。なるようになれ、だ。
結界で船を動かし、浮かんでいる人魚のもとへと向かった。
「……生きてる……?」
もし、生きていたら傷に塩を塗るようなものだし、死んでいたら死体を冒涜してるようなもんだからね。ほら、背中から下りなさい。
「人魚は死んだら沈むから生きてるよ」
よくわからんが、体の構造がそうなっているとハルヤール将軍が言ってた。オレはまだそれを見たことがないから真実かどうかは知らんけどよ。
「でも、冷たいよ」
「人魚はもともと体温低いんだよ。魔力で血液循環してるから浮かんでくるのさ」
まあ、上辺だけの知識だがな。
「引き上げるから退きなさい」
退かないならそのまま湖に沈めちゃうよ。
それを察したのか、ヒラリと飛び上がり、ちょっと強めにオレの頭にパ〇ルダーオン。ちゃんと力をコントロールしやがれ。首、折れるわ。
ため息一つ吐き、結界で人魚を湖から引き上げた。
「……男か……」
なんかオレ、人魚の女に縁がねーな。しかも、オヤジ率高いし……。
見た目は三十前だが、貫禄のある顔立ちと、顔の傷、腕や下半身にもある古傷から言って五十歳は行っているかもな。
……ちなみに人魚の一般的寿命は約二百年。三十歳くらいで成長は止まり、百五十を超えた辺りから老化するそうだ……。
「まったく、この世界の人魚は夢も希望もねーぜ」
あ、そういえば、若い女の人魚を勧誘したんだった。あれからどうなったんだろう?
なんてことを言ったらプリッつあんが怒るからお口にチャック。そして、思考をポイ。オレ知~らね~。
「体つきや格好から言って兵士ですかね?」
ミタさんが銃の先で人魚を突っ突いた。あなたも止めなさい。
「いや、兵士と言うよりは冒険者っぽいな」
ハルヤール将軍や兵士たちと触れあってきたし、冒険者たちとも付き合ってきた。だからなんとなくわかるのだ。
まあ、冒険者っぽい兵士もいるだろうから、この人魚がどちらかはわからないが、これだけは確実に言える。こいつはハルヤール将軍並みに強い、ってな。
「これと言った傷はありませんね?」
レイコさんが人魚の周りを飛び、具合を見ている。医療の知識もあるの?
「本に書いてある程度の知識ですけどね」
さすがレイコ教授。将来はたくさんの生徒を教え導いてくださいまし。
結界を操り、上向きにして船に近寄せる。
「傷はねーが、打撲があちらこちらにあるな。あと、少しやつれてるか。魔力もそんなに感じられんし、あの黒タコと戦ってたかもしれんな」
武器らしい武器もなく、革の鎧一つ。ただ、背中に剣の鞘と腰の短剣の鞘があることからして剣の文化なようだな。
「しかし、人魚って淡水でも生きられたんだな」
人魚は海にいるものと思ってたから、海でしか生きられないものだと決めつけていたよ。
「いえ、人魚は海でしか生きられません。これはもしかして、グラーニと同じく新種の人魚かもしれませんね」
新種の人魚、ね。まあ、この世界の環境や進化は滅茶苦茶だからな、淡水魚……ではなく、淡水人魚がいても不思議じゃねーか。
「まあ、新種かどうかは後にして、一旦上がるか。また、黒タコが襲って来ても困るからな」
「出て来たら生きたまま捕獲してくださいね。いろいろ調べたいので」
どうやってだよ? あんた触れないやん。
「幽霊なので体内を見るには優れているんですから」
CTスキャンかよ! レントゲンも真っ青だな!
幽霊、マジで意味わかんねーよ!
ま、まあ、オレも黒タコには興味があるので生きたまま捕獲するけどさ。
気絶した人魚を岸に運び、土魔法で生け簀? 的なものを造り、防御結界で覆った。
無限鞄から回復薬を取り出し、結界で包んで無理矢理飲ませた。口移しとか嫌だし。
「あとは、目覚めるのを待つしかねーな」
以前、ハルヤール将軍たちを診たが、人とは違うので大した治療はできない。まあ、ファンタジー薬で解決できるのがこのファンタジーな世界。まったく、理不尽な世界だぜ……。
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