第855話 魚かな?

「なにかな?」


「なんだろうな?」


 冷静に考えたら別にオレが立てたフラグじゃねーし、竜が出て来たところで美味しくいただければイイだけなこと。慌てる必要はねー。


 泡が徐々に増えていくのをコーヒーを堪能しながら眺める。


「……なんでしょうね。異常事態なことが起こっているのに、このまったり感は……」


 あらやだ奥さん。怪奇現象がなんか言ってますわよ。


「魚かな?」


「魚じゃないよガチョウだよ」


「……なに言ってるの……?」


 ジト目なプリッつあん。まあ、わかる訳ないか。絵描き歌なんて。


 ……ちなみにガチョウはいろいろな事情を考えて変えました……。


「ベー様。水中になにかいます」


「魚かな?」


「わかりません。ですが巨大なものです」


 知らないヤツに返せと言うほうが悪いか。どこかに前世の記憶を持ったヤツいねーかな? できれば昭和生まれの同年代が。


「出て来ます!」


 水面が大きく盛り上がり、なんか黒くて巨大なものが飛び出して来た。


「……え、タコ……?」


 全体は黒くてよくわからんが、タコのような足が蠢いていた。


「グラーニです! それも新種ですよ!」


 珍しくレイコさんが興奮している。そのまま昇天しても構わんけど、変なふうには変化しないでね。


「グラーニってなによ?」


「本来は海にいる軟体海獣ですが、生存競争に負けて陸に上がったものです。本来なら木々に紛れるように緑の体で苔などを生やしているんですが、これは黒い上に湖に住んでいるなんて、素晴らしい発見ですよ!」


 レイコさんには興奮することなんだろうが、これと言って興味のない者には「ふ~ん」って感じ。海にいったら珍しいのはいっぱいいるしな。


「いろんな生物がいるもんだ」


 これと言って感動はないが、生命の進化には驚かされる。特に、黒タコを前に一眼レフカメラを構えているメルヘンにはな……。


「……どうしたの、それ?」


 シャッターを押すので忙しそうだから届いているかかわからんが、なんか訊かずにはいられないので訊いてみました。


「カイナーズホームで買ったの!」


 どうやら届いていたようで答えてくれた。


「カメラがご趣味で?」


「ううん。日記につけるの」


 日記? そんなことしてたのか、君は。益々、メルヘンと言う生き物がわからなくなってきたぜ……。


「日記、つけてたんだ」


「うん。毎日の楽しいことを残しておきたいからね」


 本当に楽しそうに笑うプリッつあん。羨ましいこと。いや、オレも毎日楽しく生きてますが。


「……ベ、ベー様。あ、あの黒いのがこちらを見てますが……」


 目なんてあるんかい? と見たら猫のような瞳がこちらに向いてました。見えてる?


「アレって肉食?」


「普通のグラーニは雑食ですが、感じからして肉食っぽいですね」


 オレもそう言うふうに感じな。肉食獣のような鋭さがあるし。


「あ、足が上がりましたよ」


 変な形の銃を構えるミタさん。そんなのでは効かないと思うよ。でも、ちょっと撃ってみてよ。どんなか見たいからさ。


 銃から弾丸が吐き出されるが、黒タコの皮膚にはまったく効いてない。まるで硬いゴムに撃ってる感じだ。


「完全に怒らせたっぽいわね」


「だな」


 この船くらい簡単に巻きつけるくらい太い足を高く振り上げた。


「あまり賢い生き物じゃないみたいだな」


 スーパー村人に万能メイド。超万能生命体に幽霊、そして、メルヘン。これを──あ、そう言や他にもいた。戦闘種とか言うスライムが。


 どこだと辺りに目を向けると、陸地でなにかが光った。な、なによ!?


「えっ!? なんなの!?」


 ミタさんの驚きの声に視線を黒タコに戻すと、振り上げていた足が宙を舞っていた。


「ご安心を。いろはが排除しますので」


「そ、狙撃ですか!? で、でも、弾丸は見えませんでしたよ!」


 ……万能メイドは撃たれた弾丸が見えるようだ……。


「レールガンを使いました」


 レールガン? なによ、それ?


 なんかよくわからんが、凶悪なもののようで、次々と黒タコの足が吹き飛ばされていた。嬲り殺しだね。


「……新種なんですが……」


 諦めなさい。死体はオレが美味しくいただくからよ。結界で回収っと。


 なんてことしている間に黒タコさんがご臨終なされました。南無阿弥陀仏。


「いろは様たち、凄いですね」


 まあ、超万能生命体から分離した生き物だからね。あと、創り出すエリナも、な。


 本体もなにかの役に立つかもしれんので残さず回収っと。ってか、これ食えるんかいな?


「レイコさん。黒タコって食えるよね?」


「……はぁ~。グラーニは食べれました……」


 ため息しながら教えてくれた。なんでよ?


 まあ、毒見させればイイか。


 食えたらたこ焼きにしようと考えていると、プリッつあんが夕日を遮るように遠くを見ていた。


「ベー。あそこになにか浮いてない?」


 オレの視力は並みなので結界望遠鏡を出し、プリッつあんが指を差す方向に向けてみた。


「……また、変なのが現れやがったな……」


 ほんと、ファンタジーは奥が深ーわ。

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