第853話 和気藹々

 目が覚めたら朝でした。


 いや、なに当たり前のこと言ってんのよ? と、自分で突っ込んでみたものの、なにか違和感が胸の中で渦巻いていた。


 知らないパンツを眺めながらその違和感を考える。


「見えてる?」


 ああ。知らないパンツは見えてるよ。つーか、もうちょっとお淑やかなパンツを穿きなさいよ。セクシーすぎるわ。


「……ここは、どこだ……?」


 いつも使っているベッドじゃないのはわかるし、匂いも違う。オレは……なにしてたんだっけ? ここで寝た記憶がないんだが……。


「公爵さまの別荘よ」


 公爵どのの別荘? なんでそんなとかろにいる……あ。思い出した。


「オレ、何日寝てた?」


「丸一日よ。全然起きないからミタレッティーが心配してたわよ」


 そりゃ悪かったな。ごめんよ、ミタさん。


「で、そのミタさんは?」


 視界にはいないようですが。


「合コンに参加する女の子たちと別荘の内装を変えてるわ」


 なんつーか、落ち着いていると思うのはオレの気のせいですか?


「わたしはベーと繋がっているからね、本当にベーが体調が悪いならわたしにはわかるのよ」


 オレには君の体調どころか、なにも理解できてないのだけれど。そこんところ説明くんない?


「凄い疲労感を感じるんだけど、いったいなにをしたの? わたしの精神力まで持っていかれたんだけど?」


 その割には元気そうに見えますが。


「ベーの相手してたら嫌でも太くなるわよ」


 さいですか。オレは君の相手してたら胃壁が減ったように感じるんだけれどね。


「体は動く?」


 腕を上げようとしたら動きました。ってか、朝、普通に起きたのと変わりありません。


 なので普通に起き上がりました。あれ?


 手を握々したり、体を動かしたりするが、本当にいつも起きたのと変わりがない。どうなってんだ?


「……腹はさすがに減ってるが、体調はイイんだよな……」


 結界を展開。これまでの半径三十メートルが三十五メートルまで拡大されていた。


 思わずよしとガッツポーズを決めてしまった。


 たった五メートルということなかれ。その五メートルは超えられないと諦めていた諦め領域だったのだ。それが希望の領域となったんだから喜ぶなと言う方が悪い。今生最大の喜びを感じたぞ!


「落ち着きなさい!」


「ふべらしっ!」


 プリッつあんのパンチで吹き飛ばされてしまった。オヤジにも殴られた……ことはいっぱいありますね。オカンはすぐ薪で殴るし……。


 って、そんなことはどうでもイイんだよ! なに、その力は? あなた、どんだけ強いのよ!?


「なにワケワカメな顔をしてるのよ?」


 いや、普通にワケワカメと言ってるあなたがワケワカメだからね。


「わたしたちは共存関係なんだから、わたしがベーの力を使えたって不思議じゃないでしょうが」


 いや、そうだけど、そうなんだけど、なんか納得できねーのはなぜだ?


 だが、冷静になって思い起こせば確かにメルヘンにしては、はっちゃけた行動があったな。


 この小柄と言うには小さすぎる体でオレと対等に戦ってたり、変な技を使っていた。


「言っとくけど、わたしをディスるのは自分をディスってるのと同じだからね」


 な、なるほど。あの華麗で鮮やかな技はオレの能力だったのか。確かに見事だった。


「その切り替えの早さは、さすがに真似できないけどね」


 いや、君も結構切り替えの早い性格してますから。


「つーか、よくオレの能力を使えたな?」


 自分で言うのもなんだが、三つの能力を操るには結構時間を要したし、コントロールするのは今も大変だ。特に五トンのものを持っても平気な体は油断したら、それこそ殺戮カーニバルだぜ。


「まあ、ベー相手に練習したしね」


 ほー。なるほどなるほど。つまり、オレを踏み台にしたってことね。


 ………………。


 …………。


 ……。


「なにすんじゃアホンダラがっ!」


「お前の力使い難いんじゃ、ボケー!」


 とまあ、和気藹々なオレたちでした。

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