第852話 バタンキュー
なにをだよ? なんて突っ込みが入るわけでもなし。スーパースルー拳は諸刃の剣なので、スーパー神薬にも勝るコーヒーを飲んで落ち着きましょう。
あ~コーヒーうめ~!
「いろは隊。一番から五番まで周辺を探れ。六番から八番は別荘の警護。九番から十二番はわたしとマスターを守る」
一から十二番の眼帯をしたいろはの分離体。分裂したばかりなのに十二体にも分離できるんだ~。優秀だね。
コーヒーは偉大なり。いろはが十三体になろうと突っ込みたい気持ちも湧いてこない。ありのままを受け入れているぜ。
「おもいっきり現実逃避してるよね」
そんなことないさ。オレはありのままを受け入れてるぜ☆
オレの精神安定剤たるコーヒーを三杯も飲めば西洋人形のような格好をして身長より高い銃を持っていても気にもならん。でも、できればオレの視界に入らないようにしてもらえると助かりますです、はい。
「落ち着いたか?」
「山よりも高く、海よりも深く、オレの心は秋の空のように高いぜ」
「なに言ってんだ、こいつは?」
「もうこれ以上は許してくださいって」
オレの心をわかってくれるのは君だけだよ。でも、あまりオレの心を覗かないでください。
「こいつもよくわからんよな。非常識かと思えば変なところで常識だったりよ」
「ベーは自分を貫きすぎて独特な常識を確立しちゃったからね、他人の非常識がよく理解できないのよ」
「こじらせたヤツは怖いな」
うっせーよ! 誰がこじらせただ! メルヘンやはっちゃけ公爵に論されたくねーわ!
「森を開拓するぞ」
これ以上聞いてたら理不尽で死ぬわ。スーパースルー拳、効かんしよ。
席を立ち上がり、リビングルームから外へと出た。
こちらも見事で豪華な庭だが、湖をメインにしたいのか、庭をメインにしたいのかわからんな。暇ができたらここは改造せんと。
別荘を回り、手つかずの森へと入る。
「……魔物や獣の気配がねーな……」
「いろは隊が追い払いました」
うお! いたのね! 気がつかんかったわ!
「お前はドレミ以上に気配がねーな」
「戦闘種なので」
その答えが意味わかんねーよ。まあ、存在感があっても気がつかないときがあるけどさ。
「ピータ。ビーダ。出番だ」
内ポケットを突っ突くと、二匹が出て来た。
「ぴー!」
「びー!」
「元気だよな、お前らは」
心なしか、ちょっとデカくなってね?
こいつらの成長速度が不安だが、デカくなったらプリッつあんの能力で小さくするまで。でも、乗れるくらいまで育てよ。ちょっと跨がってみたいからよ。
「朝と同じようにこの一帯の木を伐採する。ピータとビーダは伐ったものは端に置いておけ。木の根は引っこ抜いて横に集めろ。よし、やるぞ」
結界使用能力限界──ん? 少し範囲外広くなったぞ。やはり、結界は成長できる仕様になってたか。
前々から結界に疑問があったのだ。結界使用能力限界までやると、なぜか疲れるのだ。
それもこちらの神(?)の介入かと思ったが、岩さんからもらった聖金をいじっているとき、集中に集中を重ねていたら結界の使用能力が上がったように感じたのだ。
ほんの僅かで、気のせいレベルのものだったが、疑問に思うには充分だった。
それからいろいろやってみたが、結界の使用能力が上がったと感じることはなく、魔大陸での修行でも感じなかった。
それが今、結界使用能力の範囲が上がったと感じた。それが意味することは、結界使用能力はレベルアップできると言うことだ。
妄想だろうと、言われても反論できねーが、オレはできると信じて結界を鍛えるまで。岩さんと約束しちまったしな。
結界使用能力限界を超えるように集中し、地面から三十センチくらいのところを破断させた。
意識がクラッとしたが、必死で耐える。これも修行だ、根性みせろ、オレ!
一本一本に纏わせた結界を操り、枝葉だけを残して結界外へと放り投げた。
更にクラッとくるが、ここが根性の見せどころ。限界を超えろ、オレの結界よ!
と、踏ん張ってみたが、意識のほうが負けてしまった。
「……ドレミ。ワリーがしばらく気絶する……」
限界を超えてできたのがそれ。バタンキューです。
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