第848話 冒険家レディ・カレット

「ベー様。朝食のようですよ」


 と、背後からのご連絡。慣れると便利だな、これ。


 鉈を振るうのを止め、辺りを見ると、ミタさんがなにかを叫んでいた。あ、入って来れないように結界張ってたっけ。ほい。


「ベー様! 朝食でーす!」


「あいよ。今いく!」


 鉈を無限鞄に入れ、結界使用能力内の枝葉をいっきに集めて無限鞄に放り込んだ。


「ピータ。ビーダ。木を端に集めておいてくれ。オレたち朝食に行ってくるからよ」


「ぴー!」


「びー!」


 鎧の腕を上げ、任せろとばかりに鳴く二匹。賢いヤツらだよ。


「ベー様。どうぞ」


 ミタさんのもとに行ったら濡れタオルを渡された。気が利くメイドさんに感謝です。


 顔を拭きながら館だか城だかに入り、食堂を目指す。


「もう朝食は始まってんのかい?」


「いえ、公爵様がまだ下りて来てません。担当の侍女の話で起きるまで入るなと厳命されているようです」


 シュンパネでどっかにいったのかな?


 そんなことを考えていると食堂に到着。ドアの前に立っていた二人の侍従さんに開けてもらい中へと入った。


「ベー、遅い!」


 レディ・カレットの頭の上に立つメルヘンさん。そりゃごめんなさいね。


 軽く流して、ミタさんに勧められた席へと座った。


 しかし、なんだね。あのメルヘンのコミュニケーション能力はなんなのかね? 昨日会ったばかりなのに、長年の友達のようにレディ・カレットや第六夫人と和気藹々。逆にメルヘンな世界になってるよ。


「──遅れてすまんな」


 メルヘンと戯れる少女と昔少女だった二人を眺めていたら、公爵どのがやって来た。おはよーさん。


 公爵どのが席へとつくと、厨房へと続くだろうドアが開き、ワゴンを押した侍女さんたちが現れた。


 テーブルに並べられる料理の数々。昨日もだけど出しすぎだよ。


 と、文句は言えない。余ったものは下の者に下賜されるんだとよ。


 まあ、侍女や侍従さんが食べる訳ではなく、下働きの者に行くんだと。それで給金を抑えているんだってさ。


 公爵家も大変なんだ~と思ったらここだけなんだって。給金を抑えて働き口を増やすとか言って第六夫人が始めたとか。産業がないところは大変だね。


 出された拳大くらいのパンをつかみ、オシャレなビンに入った メープルシロップかける。


 なにか別の柑橘系の果物を入れたのか、ほどよい甘さになっている。これ、お土産ね。


 一つを食べ、次はスープに手を伸ばした。


 コンソメのような出汁のような薄味のスープ。不味くはないが、ちょっとパンチに欠ける。まあ、朝にはイイか。


 飲み干したら鳥の蒸し肉っぽいものを二口食べてごちそうさま。美味しゅうございました。


「相変わらず小食だよな、お前は」


「まーな」


 あ、ミタさん。アイスコーヒーちょうだい。氷入れてね。


 メイド魂が宿ったようで、同じ席につこうとしないミタさんは、オレ専用のワゴンを用意して背後に控えていた。


「お待たせしました」


 ありがとさんとグラスに注がれたアイスコーヒーをいただく。うん、旨い。


「ベー。食事が終わったらバルセラの館に向かうからな」


 バルセラの館とは別荘の一つで、そこに車庫を造るらしい。


「あいよ。なら、バギーでいくか。試乗してみたかったし」


 買ったはイイが、まったく乗れてない。景色を眺めながらいくとするか。


「バギー?」


 ん? 知らんのか? 買うときいなかったっけ?


「まあ、車の一種だよ」


 見てのお楽しみ。公爵どのなら気に入るものだぜ。


「父様、わたしも連れてってくださいませ!」


 と、メルヘンと仲良く食事をしていたレディ・カレットが立ち上がり、そんなことを口にした。


「ああ、いいぞ」


 あっさり承諾する公爵どの。って、イイんかい!?


 それ公爵令嬢としてどうなのなよと第六夫人を見ると、なんかため息を漏らしていた。


「カレットは主様の血を濃く引き継いでますから」


 もう令嬢として教育するのは諦めたって付記だしが見えるようだ。


「いいでしょう、ベー? わたしも連れてって」


「まあ、公爵どのが許してんなら構わんよ。冒険家レディ・カレットとか公爵どのの娘らしいしな」


 貴腐人になるより何億倍も真っ当だ。あれにならないならオレは全世界を敵にしても成りたいものになるよう応援するわ。


「……冒険家レディ・カレット……」


 なにやらツボにはまったご様子。目を張り裂けんばかりに輝かせていた。


「親父さんの娘と組ませたらおもしろいかもな」


 あ、親父さん、元気にしてるかな?


「ああ。ナバリーか。確かにカレットと気が合いそうだ」


 ナバリー? って名前だったとけ、あのねーちゃん? ってか、いつの間に出会ってたんだよ。


「お前にブラーニーを紹介されたときにだよ。丸投げばかりしてないでちゃんと見て回れ。お前が発起人なんだからよ」


「暇があったらな」


 任せた以上、信じるのが丸投げ道。失敗なんて考えなしいさ!


「ごちそうさん。ワリーが汗を流したいからお先な。玄関前で落ち合うや」


 ちょっと無礼で申し訳ないが、汗でベタベタなんだよ。スッキリさせてくれ。


 風呂場を借り、身をサッパリとさせた。

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