第847話 朝の仕事

 目覚めると、なぜか瞼が開かない。


 なんぞや? と微睡む中考える。


 徐々に意識が覚醒してゆき、なぜ瞼が開かないかを悟った。


 ……この状況、何度目だよ……。


 右手を伸ばし、瞼を覆うものを持ち上げた。


「なんでオレの顔の上で寝るかね、このメルヘンさんは?」


 しかもなんだよ、そのセクシィーなネグリジェ的なものは。お尻に猫のアップリケしていたパジャマを着ていた頃のあなたはどこにいったのよ? 


 まあ、メルヘンの寝間着などに興味もなければ、こんな貧弱な体に欲情もしねーよ。オレを欲情させたければボン・キュー・ボンになりやがれ。


 セクシィーメルヘンをベッドに放り投げ、いつもの村人スタイルに着替えた。あ、ちょっと寒いし、衣替えしておくか。


 まあ、ベストから薄手のジャケットを出して羽織った。あ、ピータとビーダを移し換えておかないと。


 他のポケットからジャケットに移し換えいると、ベッドに放り投げたプリッつあんが起き出した。


「……おはよ、ベー……」


「ああ、おはよーさん」


 ベッドの上でモゾモゾしているプリッつあんを横目に、作業を続けていると、ドアがノックされた。


「開いてるよ」


 まあ、ドアに鍵なんてついてないが、結界は施してある。用心にこしたことはないからな。


「おはようごさいます」


 入って来たのはミタさんと年配の侍女さんだった。


「おはよーさん。よく眠れたかい?」


 昨日はここの侍女さんと親交を深めるために、夕食の席から外れ、なんかいろいろやっていたと、プリッつあんから聞いた。


 ……常にオレの近くにいたのに、いつの間にそんな情報を仕入れられるかね、このメルヘンはよ……。


「はい。よい部屋を用意していただきましたので、グッスリ眠れました」


 それはなにより。オレとしてはもうちょっと堅めがよかったけどな。


「で、なんか用かい?」


 朝食の時間には早いと思うんだが。


「洗顔用の水をお持ちしました」


 年配の侍女さんが押していたワゴンはそれか。なにかと思ったよ。


「それはありがとな。そこに置いてくれ。これが終わったら使わしてもらうからよ」


 あとちょっとで終わるんでな。


「あ、ならわたしが使う」


「あ、プリッシュ様!?」


 ミタさんの慌てた声に見ると、なぜかお盆がこちらに向かってきた。


「ぬわっ!?」


 慌てて回避。なにすんじゃい!?


「ベー様はあっち向いててください!」


 銃口を向けられたので、素直に従い、ミタさんに背を向けた。なんだよ、いったい?


「プリッシュ様が洗面器に入ったみたいです」


 猫型ドレミがそう教えくれた。朝風呂か?


「別にメルヘンの体を見たってなんとも思わねーよ」


「なくても気を使ってください」


 知らんがな。嫌なら部屋を別にしろ。


 借りてるとは言え、自分の部屋で気を使うくらいなら馬小屋に泊まった方が何倍もマシだわ。


 移し換えが終了。顔が洗えないのなら外でしてくるよ。


「ベー様!」


「プリッつあんの世話でもしてな。オレは外でやってくるからよ」


 貴族じゃねーんだ、自分のことは自分でするわ。世話などいるか。メンドクセー。


 ベストを無限鞄に仕舞い、ミタさんがなんか言うが、構わず部屋を出た。


 この館だか城だかの朝も早いようで、侍女さんではない下働きっぽい女の人が掃除をしていた。


「マスター。風呂場を借りられてはいかがですか?」


「いや、外でイイよ。朝食まで時間があるし、昨日の続きをしたいしな」


 朝食の時間は知らんが、貴族の朝はそれほど早くはあるまい。多分、八時くらいだろう。二時間もあれば充分さ。


 外に出て、昨日の戦いの場に来る。


 土魔法で洗面台を作り、洗面器を置いてタンクを設置。洗面器に水を満たした。


 顔を洗い、歯を磨く。スッキリサッパリして軽く柔軟体操。意識も体も完全に目覚めた。


 いつもの日課を済ませ、ポケットをチョンチョンと突っ突く。


「ピータ。ビーダ。起きてるか?」


 移し換えしたときは寝てました。


 内ポケットがモゾモゾして二匹が出て来た。


「ぴー」


「びー」


 ちょっと元気がない。眠いのか?


「護竜は寒さに弱いんですよ」


 と、背後から説明ありがとうです。


「これで寒いのか?」


 気温にしたら十度くらい。寒いってより涼しい気温だろうに。


「魔大陸では冬の気温です」


 まあ、赤道より下な感じだし、冬でも暖かそうだな、魔大陸って。


「しょうがねーな。ほれ」


 結界で包み込んでやり、気温を二十度くらいにしてやる。


「ぴー!」


「びー!」


 イイ感じになったようで、いつもの元気を見せた。


「木を集めるの手伝ってくれ」 


「ぴー!」


「びー!」


 わかったとばかりに鳴く二匹。では、鎧を──と思ったら、自分たちで作ってしまった。学習が早いヤツらだよ。


 手際よく木を集める二匹をしばし眺めてからオレは荒れた地面を均しを開始した。

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