第836話 冒険クラブ

「待たせたな」


 しばらくして公爵どのが戻って来た。お早いお帰りで。


「いや、ちっとも待ってねーよ」


 オレの中で一分もすぎてねー。一瞬みたいなものさ。


「……なんかあったのか……?」


 なぜかミタさんに尋ねる公爵どの。いや、聞く相手、違くね?


「ベー様に似た方が訪れました」


「……そうか……」


 なにも話してはいないし、追求してこないところを見ると、薄々は勘づいてるようだな。


「んじゃ、買い物を続けるか」


 気分を切り替え席を立った。


「あ、それなんだが、ちょっといいか?」


 なんか言い難そうな顔をする公爵どの。なによ?


「実は、お前に参加して欲しいクラブがあるんだわ」


 クラブ? って、お立ち台に上がってアゲアゲする的なクラブのことか?


「踊るのか?」


「はぁ? なんで踊るんだよ?」


 どうやら違うクラブのようだ。まあ、そんなクラブに参加してたら友達の縁を切らしてもらうがな。


「じゃあ、なにをするクラブだよ?」


 スポーツをするクラブか? 野球なら喜んで参加するぞ。


「冒険をするクラブだよ」


 はぁ? なんだそりゃ?


「冒険と言ってもお遊び程度のものさ。さすがに命にかかわることは周りがさせてくれんからな」


 ま、まあ、身分や責任がある貴族が冒険したいなんて言ったら大顰蹙。アホかと罵られるわ。


「貴族は変なことすんだな」


 いや、要職にある立場でガチに冒険してるヤツが目の前にいますがね。


「遊び六割に付き合い四割だがな」


 社交の意味合いがあるってことか。貴族は付き合いが大事だしな。


「オレは冒険はしない主義だぞ」


 堅実に、そして確実に毎日を生きる男、それがオレだ。


「……確かにそうなんだが、冒険者より冒険以上のことをしてるお前が言っても説得力ねーよな……」


 知るか。オレはまっとうに生きる村人だわ。


「いや、別に冒険しろと言っているわけじゃない。会合に参加して欲しいんだよ」


「なんで? オレはクラブ会員でもねーだろう」


 部外者がクラブに入ったらしらけんだろうがよ。


「いや、お前が持ってるものを少しばかり売ってくれ。お前も金が入っていいだろう?」


 公爵どのにしては雑な誘導だな。まあ、危険な感じもせんし構わんけどよ。


「そんなことしてお玉さんに嫌がられたりしないのか?」


 他人の店で商売するもんだろうが。


「大丈夫だ。ここは、個人的に競りもできるからな」


 よくわからんとこだな、ここは。


「それならお邪魔させてもらうよ」


 帝都での活動資金はいくらあっても困らんし、無限鞄の整理にもなるしな。


 こっちだと公爵どのの後に続き、ついたところはバーがついたサロンのようなところだった。


 中には先ほどのナイスガイや紳士、道楽者っぽい者が入って来たオレらに注目している。


「これがおれの友人で、名はヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。見た目はコレだが、油断するな。中身は百年生きた賢者より悪辣だからな」


 なんの自己紹介だよ。友人って言うならもうちょっとマシな紹介をしろよ。


「カイ様のご友人ですか」


「帝国の者ですかな?」


 公爵の身で友人と呼ぶのは異常であり、この変わり者が友人と呼ぶ相手に興味津々なのか、全員が好奇な目を向けてきた。


「アーベリアン王国の者だが、人魚の三国から伯爵の位をもらい、新生国家の外交全権を与えられている。しかも、南の大陸や東の大陸にも伝があり、魚人の国の皇女とも繋がりがある」


 一同がびっくらぽん。あ然とした表情になった。


「だが、こいつの恐ろしいところはそこじゃない。いや、そこだな。こいつの伝は世界に繋がっている。それこそ魔大陸だろうがな」


 さすがに世界は吹きすぎだろう。精々、四分の一くらいだわ。


「まあ、こいつはある意味、平和主義者だ。敵対しなければいい友人になれるし、おもしろいことには事欠かんよ。その証拠はおれだ」


 オレの存在を知らしめているのはわかるが、それがどう公爵どのの利益に繋がるんだ?


「ベー。ここにいるのはオレの友人たちだ。仲良くしてくれ」


 派閥、ってほどでもないが、政治的な友人知人ってとこか?


 まあ、よくわからんが、公爵どのの友人ならオレの友人も同然。仲良くしようと言うなら仲良くするさ。


 無限鞄から酒を出し、ミタさんに配ってもらう。


 音頭は公爵どのに任せたと、視線を向けた。


「我れら冒険クラブに新たな友人が加わった。ようこそ、我らのクラブに。乾杯!」


 あ然としてたが、グラスを配る間に落ち着いたようで、全員が不敵な笑みを浮かべていた。


「新たな友人に!」


 ナイスガイが真っ先に応え、残りもグラスを掲げてオレを歓迎してくれた。


 類は友を呼ぶ、だな。フフ。

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