第833話 ショッピングモールっぽいところ

 では、お楽しみくださいと、マダムシャーリーに見送られて小部屋を出た。


「で、これからどうすんの?」


 つーか、そもそもここはなんなのよ? 秘密の楽園とか言っちゃってたが。


「お前がしたい買い物だ。もちろん、売ることもできる」


「なんかの店なのか、ここって?」


 まあ、店って言うレベルを超越はしてるけどさ。


「そうだな。カイナーズホームみたいなものだな。ただ、あれと比べたらレヴィウブに申し訳ないが」


 カイナーズホームみたいなもの? デパートか?


 首を傾げながら公爵どのの後に続く。と、なんか芸術的な門? が現れた。


「派手だな」


 マリーなアントワネットさんが出入りでもしそうだな。


「まあ、期待感を煽るためにやってんだろう。初めて来たご婦人には喜ばれてるぜ」


 確かにこの時代にしては洗練されすぎてんな。これは近代の感覚だぞ。まあ、カイナーズホームは平成感覚だけど。


「馬車を駐めるところでも思ったが、秘密と言う割には客が結構いるんだな」


 門を潜ると、より一層豪華な噴水があり、オーケストラな学士たちが演奏を行い、ピエロな道化師たちが大道芸を繰り広げていた。


「帝国貴族は無駄に多いからな」


 帝国の人口なんて知らんが、公爵どのに聞いた感じでは日本二つ分くらい。それを十二の公爵、四十以上の辺境伯、八十以上の侯爵、千以上の伯爵、万の男爵やら子爵、一代限りの騎士爵。確かに公爵どのが言うように無駄にいるな。


「そこに商人も混ぜたら毎日これだけ来るもんさ」


 それ、秘密になってねーよな。もう周知の事実だろうが。


「まあ、ここは普通の会員が来れる場所だからな」


 つまり、特別会員だけが入れる場所があるってことね。


「なんつーか、ショッピングモールって感じだな」


 デパートと言われたらそうかも知れんが、オレ的にはショッピングモールに見える。


 広場的なところで楽士や道化師が客を喜ばせ、カフェテリアっぽいものやメルヘン的な屋台では甘味が売られ、若い男女や子どもたちが楽しげにしている。


「ショッピングモール?」


「カイナーズホームを家族が楽しめるところにした娯楽施設ってところだな。本に載ってたものは規模も小さく館程度のものだったが、それの発展版って感じか」


 と、誤魔化しておく。


「ショッピングモールね。まあ、カイナーズホームに通じるところはあるな。売ってる物は桁外れだが」


 そこで車を大量に買っちゃうあなたも桁外れですから。


 メルヘン的な屋台を覗くと、シュークリームっぽいものが売っていた。ちょっと小さいが。


「プリーム・ディアと言う菓子だ。砂糖が使われて旨いぞ」


 と言うので公爵どのに買ってもらう。って、なに、その銀色のカードは?


「ここでだけ通じるプレミトってものだ。そこの水晶にかざすと自動的に支払われる」


 ここを造ったヤツ、絶対、オレらと同じ世界から来ただろう! 無駄にハイテク(魔術的に?)だわ!


 イラッとはしたが、言っても詮無きこと。あるがままを受け入れろ、だ。


「それ、オレでも持てんのかい?」


「じゃあ、これを使え。おれ個人の金だから」


 イイのかい? と問うのも今さらだ。出したり出してもらったりの関係だしな。商人から見たらイラッとしそうな関係だろうけどよ。


「ありがとよ」


 遠慮なく受け取り、ポケットに仕舞い、シュークリームっぽいプリーム・ディアを口にした。


「クリームっぽいなにかだな」


 それ以上の食レポはご勘弁を。まあ、ほどほどには旨いから村の連中のお土産にはなるか。おにいさん、お土産用に百個ばかりちょうだいな。


「買い占めんな、アホ。他の客のことも考えろ」


 なんだよ。ここは大量買いもできねーのかよ。


「仲買街じゃねーんだから何人かに買うくらいの量に留めておけ」


 チッ。しょうがねーな。


 十個ばかり箱に詰めてもらい、無限鞄に放り込んだ。


「菓子はイイや。サプルが作ったのいっぱいあるしな」


 話のネタと思えばこんなもんでイイか。サプルにお願いしたら再現してくれるしよ。


 何軒か回り、少量を買い込んだ。


「気が済んだら中に入るぞ」


 おっと。そう言や、まだ入ったばかり。序の口だ。本番は中に入ってからだな。


 はてさて。中はどんなだろうね?


 できることならオレを驚かせてくれよと、期待しながら全面ガラス張りのショッピングモールっぽいところに入った。

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