第834話 バナリヤの油
どうやら一階は地方物産展的な感じで、各地の食をメインとしていた。
「客も客だが、売り子も多いな」
奥へと広がり、左右に店が構えており、その中央に小洒落パラソル席が並んでいる。
一店舗はコンビニくらい広く、だいたい八人くらいの売り子が回していた。
「だいたい帝国を六十に分けて、そこの特産を出しているそうだ」
アンテナショップかよ! と、思わず心の中で突っ込んでしまった。
「六十か。そりゃ多いな」
「本当はもっと分けたいらしいが、さすがに場所の問題で六十にしたと聞いたことがあるな」
言われてみればそうか。山を越えたらまったく違う風習があったり、環境が違ったりで特産なんて変わってくるからな。
いろいろ珍しいものはたくさんあるが、オレの食指が動くものはなかった。
どこでなにが作られているかを記憶して、いろいろ見て回っていると、豆だけを売る店があった。
「あ、ここだ。お前から頼まれて買ったバナリヤは」
お、ここか。いろいろあるな。
「プリヤ、白豆、カズラ、縞豆、緑豆は知ってるが、他はまったく知らねーものばかりだ」
何百種類はあるとはわかっていても、こうして並ばれると感嘆とするな。
「店員さん。この豆は、一つの地域で作られるものなのかい?」
一流職人が作っただろう箱が並べられた奥に立つ、白髪交じりのじいちゃんに尋ねた。
「約八割は一つの地域で作られております。残りは周辺地域で作られおります」
そう環境は変わらないってことか。なら、この大陸なら育てるのは可能だな。
「全種類、三十粒ほどに分けてもらえるかい? あ、名前を書いて分けてもらえると助かる」
「はい。ありがとうございます」
そんなオレの注文に嫌な顔見せず、心の底から嬉しそうに笑顔を見せた。スゲー営業スマイルだこと。
「あ、あと、バナリヤはあるかい?」
バナリヤの菌に別な豆を入れて食ってるが、美容のもとはバナリヤ豆にあるのか、いまいち効果が少ないので元があるなら是非とも買って行きたいのだ。
「バナリヤですか。もしかして、以前バイブラスト公爵様がご購入された際、欲しがる方がいらっしゃると申してましたが、あなた様ですか?」
ほぉう。それだけでオレだとわかるのか。スゲーな。
「ああ。イイ豆をありがとな。美味しくいただいたよ」
女性陣が、だけど。
腐った豆なんて食えないとか言いながら、効能を知ったら一粒も寄こさねーんだから女って怖いよな。
「こちらこそありがとうございます。あれを食べる方はなかなかいないので」
まあ、そろも無理はない。発酵なんて言葉もねー時代だからな。ただ、そう言う現象があるってのは一部で知られてはいるぜ。
「豆は健康と美容にイイのにな」
それもわかれって言う方がワリーけどさ。
「わたしは、この店を預からせていただくサラガと申します」
「オレは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。九割以上の者からベーと呼ばれているんで、サラガさんもベーと呼んでくれ」
まあ、好きに呼んでくれて構わんがよ。
「はい。では、ベー様とお呼びさせていただきます」
そう言うところはしっかり教育されてんだ。いまいちここの方向性はわからんが。
「で、バナリヤはあるかい?」
「はい。ございます。いかほどご用意致しますか?」
「買えるだけ欲しい。もし、取り寄せが可能なら取り寄せてもらいたい」
久しぶりに納豆ご飯が食べたくなった。辛子とタマネギのみじん切りを入れてかっ込みたいぜ。
「おいおい、買い占めは止めろよ! こっちもカティーヌに買って帰らんと殺されるわ!」
「売り切れでしたと言っとけよ」
「すぐにバレるわ!」
チッ。これだから女には参るぜ。美容となると目の色変えるんだからよ。と、心の中だけで毒づく。口にする勇気がないから。
「ご安心ください。バナリヤの豆はたくさんありますし、すぐに腐化できますから」
発酵を腐化って言うんだ。あんま語呂がよくねーな。
「その地域ではバナリヤは一般的なのかい?」
発酵──腐化の状態なのは店頭には並んでねーようだが。
「バナリヤの豆は油も取れますので大量に作っております」
へ~。豆から油なんて取れんだ。初めて聞いたぜ。ん?
「……もしかして、その油は高級品だったりするのかい?」
「はい。よくおわかりで。取れる油が少ないので領外にはなかなか出ません」
なかなかってところでオレの灰色の脳細胞がピキーンと輝いた。
「それ、ここで買うことは可能かい?」
「はい。もちろんでございます」
と、サガラさんが微笑みながらいかにも高級そうな小瓶を取り出した。
「あるだけ買いたいんだが、買い占めはまずいかい?」
ニヤリと笑うと、サガラさんは満面の笑みを浮かべた。
「問題はありません。不人気品なので買い占めていただければ幸いです。ただ、値段は少々お高くはなりますが」
フフ。商売上手な人だ。
「公爵どの。いくら使っても構わんよな?」
「ちゃんと説明してくれんだろうな?」
「もちろん」
「なら、好きなだけ使え」
付き合いが長いだけにオレの言動になにかを察したようで、深くは追求してこなかった。サンキュー。
「あるだけ売ってくれ。そして、取り寄せできるなら金に糸目はつけない。バイブラスト公爵宛に送ってくれ」
「バイブラスト公爵の名に誓い、送られて来ただけ買おう」
ハイ、公爵どのの了承は得られました。大丈夫ですか?
「畏まりました。そのように手配致しましょう」
バナリヤの油、バイブラスト公爵が優先していただきました~。
「フフ。イイところだな、レヴィウブって」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます