第827話 買い物へ
なにやら話の流れがオレからどんどんと離れていってます。オレ、不要でござる。
「じゃあオレ、買い物してくるから」
席を立ち、扉に向かったら後頭部になにかが当たった。なによ?
「なに当然のように出て行こうとしてんだよ、お前は」
「いや、もうオレが口出すことねーじゃん」
流通も決まり、デザインをどうするかに話は移った。ならばもうオシャレ統括本部長の領分。オレが口出すことじゃねーよ。
「出さなくてもいろよ、お前が中心人物なんだからよ」
その中心から一番遠い場所に追いやられていると思うのは、たんなるオレの被害妄想か?
「まあ、プリッつあんに任せる。決まったらコガード──じゃなくて、太陽の石を渡すからよ。木のことはあとでもイイからよ。んじゃ」
扉に手をかけたら、またなにかが後頭部に当たった。もう、なによ?
「聞けよ!」
「聞いたよ。だから買い物してくるわ」
オレがいなくてもそう問題ナッシング。つーか、オレに口出す権利があるとは思えねー。いるだけ拷問だわ。
「それ以前に、ここに来た理由を忘れるな」
ここに来た理由? そう言やオレ、なんで来たんだっけ?
「本気で忘れられるお前を本気でスゲーと思うよ」
オレもそう思うよ。じゃっ!
「だからいくなよ!」
「だが断る!」
オレはノーと言える村人なのだ。
「クソが! カティーヌ。すまないが、あとを任せる。こいつはやりたくないことは死んでもやらないからな」
そんなことないよ。怖いオネーサンに「やれや!」と命令されたら嫌でも喜んでやらしてもらうぜ。
……アレにはノーと言えねーよ……。
「はい。あとはお任せください」
「プリッシュ。あとでハイブラストの名産をやるから頼む」
「しょうがないわね。ちゃんと迎えに来てよ」
「ベーと一緒にするな。女との約束は死んでも守る主義だ」
カッコイイ! 真似はしたくないけど。
「公爵が街に出てイイのかい?」
護衛を連れての買い物なんてゴメンだぞ。
「街には出ん。が、貴族の会員用の店に連れてってやる。そこは売り買いもできるから酒でも売れば荒稼ぎできるぞ」
貴族の会員用の店か。それはちょっと気になるかも。どんなもの売ってんだ?
「食料品も売ってんのか?」
「さすがに小麦とか一般的なものはないが、珍味や高級品はあるぞ。なんだっけ? 前にお前に食べさせた豆を発酵させたやつ?」
「バナリヤか?」
まあ、納豆。ただ、ファンタジーの、ってつくがな。
バナリヤは帝国の北部で食べられるもので、一般的にはゲテモノ扱いされているが、薬として貴族には広まっているのだ。まあ、味はそこそこだけどよ。
「ああ、バナリヤだったな。つーか、あんな腐った豆とかよく食うよな」
「バナリヤをバカにすんなよ。あれ、体の代謝をよくしてくれ、若さを保つ効果があるんだからな」
先生の本で知ったんだが、昔は不病の豆って言われて王さましか食えなかったものなのだ。それが貴族用にまで落ちてくれたんだから買いでしょう。
「そんな効果があったのかよ」
「あれは特に女が食うとイイもんだな。うちのオカン、歳の割には若いだろう?」
オカン相手に若いも老けてるもねーが、ご近所のオネーサンからは羨まれているぜ。
「……た、確かに言われてみればシャニラは若いな。つーか、三人の子持ちとは思えない肌つやだったな。ベーの母親だからと納得してたわ」
なんでオレの母親だと納得できんだよ。逆だろうが。
「カイ様。それはどう言うことですか? 詳しくお聞かせくださいませ」
なんかスッゴい迫力で奥さんが迫ってきた。
「か、帰ってからな。ちゃんと買ってくるから安心しろ。いくぞ、ベー」
と、腕を取られて部屋を逃げ出した。
そのまま引っ張られ、先ほどの皇帝が泊まる部屋へとやって来た。シュンパネで行くのか?
「ったく。女の前で美容にかんすることを迂闊に言うな。田舎ならまだしも帝国内じゃ命のやりとりがあるくらい尋常じゃねーくらいの意気込みなんだからよ」
「カイナーズホームで売ってるシャンプーとか美容品とか知られたら買い占められるな」
「女を呼び寄せたいのなら構わんが、おれのいないところでやってくれ。おれはまだ女に夢を見たい年頃なんでよ」
四十もすぎてなに言ってんだか。と言うのはまだまだ若い証拠。歳をとると見たくないものは見ないようになるのだ。
……まあ、それもどうかと思うがな……。
「女に希望を持てるうちが華。希望が切望にならないことを祈るよ」
オレは女と見る前に、人としての魅力があるかどうかを大切にする主義だからどうでもイイげどよ。
「お前って女に興味がないのか? おれがお前くらいの歳には情熱で夜も寝れなかったがな」
こればかりは前世の記憶と経験があるからどうしようもねーよ。
「興味はあるが二の次三の次だ。オレはオレを満足させるために生きてるんでな。それより、早く買い物させろ」
「その前におれを車に乗せることを優先させやがれ」
あ、ここに来た理由、それだったな!
「……まあ、いい。カティーヌにあんなこと言った手前、バナリヤを買ってこんとおれの命にかかわるからな」
それでも女に情熱を傾けられる公爵どのはスゲーよ。尊敬はしないけど。
「んじゃ、いくぞ」
公爵どのが上着からシュンパネを出し、買い物ができるところへと飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます