第826話 太陽の石

 彼女が待ってる、急がなきゃ!


 館の前でソワソワする彼女。怒ってるかな?


「ごめ~ん! 待った~」


「ううん。全然待ってないよ~──とでも言うと思ったか、ボケーッ!」


「へべらし!!」


 彼女──プリッつあんの空中飛び蹴りを食らい、吹き飛ばされる彼氏──ってか、オレ氏。


 十メートルくらいでなんとか停止。イイのを放つじゃねーか。


「なにすんじゃボケーッ!」


「それはこっちのセリフじゃアホー!」


 またくる空中飛び蹴りをサラリと回避。村人百烈拳じゃ!


 蝶の様に舞い、蜂のような蹴りで百烈拳を打ち返すメルヘン。やるな、お主!


「──なんてことがあり遅くなりました」


 共存体とのコミュニケーションを公爵どのに語ってやると、なぜかこめかみをピクピクさせてました。どったの?


「……いや、お前らの仲の良さに呆れてんだよ……」


「まっ、長い付き合いだからな」


 出会ったのは数ヶ月前だが、付き合いの密度で言えば三年くらい経ってる感じだ。


「たまにはベーのバカに付き合ってやらないとね」


「………………」


「………………」


「それはこっちのセリフじゃ-!」


「わたしのセリフじゃー!」


 なんてコミュニケーションが再開されましたが、オレとプリッつあんの仲。五分もすれば終了です。


「で、なによ?」


「オシャレ統括本部長のプリッつあんも交渉に入ってもらおうかと思いまして」


「また丸投げしようってことね」


「プリッつあん、わかってるぅ~」


 理解ある共存体でオレは嬉しいよ。


「……お前らの仲がまったく理解できねーよ……」


 それはオレも同じ。なんでこのメルヘンと一緒にいるんだろうな?


「まあ、それはともかくとして、これ、うちのオシャレ統括本部長のプリッつあんだ」


「たぶん、適当な呼び名だから気にしないで。あと、わたしは、プリッシュだから」


 プリッつあん、イイ響きなのになにが不満なんでしょうかね、このメルヘンは?


「気にするな、と言うのは無茶だが、ベーはいつもこうだ。理解できないときは軽く流せ」


「ベーの茶番はベーにしかわからないしね」


 なんだろう。この四面楚歌のような状況は? オレ、皆の味方だよ。仲間外れにしないでー!


「それより、軽く状況を説明してくれない? あ、ベーは黙ってて」


 説明しようとしたら黙れとは酷いでござる。誰よりも端的に、数秒で説明できるのに……。


 公爵どのからの説明にフムフムと頷くプリッつあん。おいおい、それでわかんのか? ただ長い説明をしただけじゃねーかよ。


「なるほど。わかったわ」


 え、わかっちゃったの? 


「つまり、その石に価値を作ればいいのね」


 ん? あれ? そんな話だったっけ? 木の代価にって話じゃなかたの?


「ベー。その石、もっと出して」


 なんか流れが狂ったようにも思わないではないが、ここはオシャレ統括本部長に任せよう。


 無限鞄から加工したコガードをいくつか出して、テーブルに置いた。


「そちらの石の判断は、どんなものなの?」


 奥さんが左側に立つ初老の男性に目を向けた。どちら様で?


「宝石職人のラリーよ。ほとんどの鑑定は彼が行っているわ」


 あ、この方がラリーさんね。いかにもお上品な宝石店にいそうな感じですこと。


 ラリーさんが戸惑いながらも優雅に一礼し、一歩前に出た。


「お初にお目にかかります。バイブラスト公爵領で宝石職人をさせていただいております。ラリーと及びください」


「プリッつあんと呼んで──あだっ!」


 テーブルに置かれた丸いコガードを蹴り、オレの額に命中させるメルヘン。君、乱暴だよ……。


「黙ってろや」


「……はい……」


 怖いのでお口にチャックです。


「……え、あ、その、わたしの鑑定では良質な石であることはわかるのですが、今まで見たことがない石で戸惑っております。売るにしても不確定な場所の石では忌避されます」


 そう言うものなんだ。別にキレイならなんでもイイじゃねーかよ。メンドクセー。


「ましてやこの石は魔大陸で出たものだしね。好まれはしないでしょうね」


 逆に魔大陸原産だからこそ人気になると思うんだがな。価値は真珠の比じゃねーぞ。


「ま、魔大陸ですか!?」


「いないと思ったらこれを掘ってたのか、お前は」


 主目的は地竜を掘り起こしてたんだがな。コガードはついでさ。


「魔大陸のものではさすがに……」


 奥さんも難色を示してる。


「黙っているとかはできないの? もしくは別の場所で採れたとか?」


 浅はかなメルヘンめ。商人をナメんなよ。すぐにウソだと見抜くわ。


「それは最悪の手ね。怪しまれてつけ込まれるだけだわ」


 さすが公爵どのの奥さん。わかってらっしゃる。


「……よい石なのですがね……」


 ラリーさんがポツリと呟き、奥さんもプリッつあんも同意の頷きをする。


 沈黙が満ちる中、オレは一人マンダ〇タイム。あーコーヒーうめ~。


「で、そこで優雅にコーヒーを飲む自称村人。なんかいい案があるなら出しやがれ」


 オレ今、お口にチャックだもん。コーヒーは飲んでるけど。


「ベー。あるんならとっとと言いなさいよ。ゼルフィング商会の裏会長さん」


 え、オレ、裏会長なの!? とかびっくりもしねーよ。自分でもそんなもんだと思ってたし。


「別に帝国内で広めなくても公爵領で広めたらイイだろう。オシャレに使えねーなら徽章とか勲章とか、男向けによ。コガードは名誉の象徴。となると、コガードでは語呂がよくねーな。もっと洒落た名前に変えるか」


 なにがイイ?


「なら、太陽の石でいいんじゃない。光にかざすと太陽みたいだし」


「お、さすがプリッシュ。それに決定だ」


 公爵どのがそれでイイのなら、オレもそれに賛成だよ。


「名誉の象徴で男の宝石か。まったく、お前の発想には頭が下がるよ」


 そんな大した発想でもねーだろう。だがまあ、受け入れられるのは悪くねーな。

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