第820話 合コン
頭の上のメルヘンが指示するままに歩くこと三分。戦車が並ぶ陰にミタさんがいました。
無駄に高性能なメルヘンセンサーに突っ込みたいところだが、空気が読める村人はお口にチャック。落ち込むミタさんにヤレヤレと肩を竦めてみせた。
「そんなに気落ちすることかい?」
まあ、想像はできるよ。一億円あれば村を一つや二つ、簡単に開拓できるからな。けど、オレにはミタさんが見当違いしてるにしか見えねーよ。
「……村が立て直せません……」
村人と自称する身だ、その気持ちは十二分に理解できるし、同情もするよ。
「金が必要なら預けている金から使えばイイだろう。それにはミタさんの賃金も混ざってんだからよ」
コンプライアンスとかある世界じゃねーし、オレの専属メイドとして活動するための経費みたいなもの。必要と思ったらいくらでも使えばイイし、足りなきゃ追加するわ。
「……それはベー様のお金です……」
「と同時にミタさんの金でもある。公私混同大いに結構。使って結構。損して結構。どうせ巡り巡ってオレに返ってくる。更なる大金に化けてな」
損など一時的なもの。今生のオレ、金に困ったことはありません。今回も一番得をしたのはオレだろう。
一年分の薪で地竜の使用権と特等席をいただき、糞、って言うか、最高級の肥料を手に入れた。しかも、コガードと言う宝石の鉱脈を独り占め。皮算用だけで笑いが止まらんぜ。
それでも顔を上げないミタさん。変なところで融通が利かねーんだかよ。
「ミタさんよ。ちょっと聞くが、村を立て直すと言うが、どう立て直すかは決めてんだよな?」
その問いにミタさんの肩がちょっとだけ跳ねた。
「……まさか、なんも考えてない、とかねーよな?」
一億円を狙ってたんだから使い道は……考えてない雰囲気だな、その感じからして……。
「大まかな目標くらいはあんだろう?」
こうしたいな~くらいでイイからよ。言ってみ。
「……皆が平和に暮らせる村にしたいです。ベー様の村のように……」
いつそんな気持ちになったのかは知らないが、平和なところで暮らしているうちに郷愁が湧いてきたんだろう。失った経験があるなら尚更だ。
「よし、わかった。オレが力になってやるよ」
そう請け負うと、ミタさんがやっと顔を上げた。
「……ベー様……?」
「また、そんな安請け合いして」
プリッつあんの呆れた顔に不敵に笑ってみせた。
「オレを誰だと思ってる。村人の中の村人、それがオレ、ヴィベルファクフニィーだ。オレに造れねー村はねー」
ただ、やりすぎて都市になっちゃうのが心配だが、なに、今回はオレが住む村じゃねー。加減はできるさ。多分、きっと、な……。
「まあ、なにはともあれ、ミタさんの村を見てからだな」
環境や土地、村の規模に村人の数と、まずは情報収集だ。それ如何に寄って村再興の手順が違ってくるからな。
「あ、あの、ベー様。本当に村を立て直すつもりですか?」
「ミタさんが望んで、オレに助けを求めたのなら、全力で立て直すさ」
最強の村人を名乗るなら、村の一つや二つ、立て直せないようでは村人の沽券にかかわる。やると言ったらオレはやりとげる村人だぜ。
「ミタレッティー。止めるなら今よ。ベーがかかわると想像の斜めどころか見当違いの結果になるわよ」
失敬な。手段は問わないが、ミタさんが求めた結果にはいき着くぞ。
「──お願いします! 村を建て直してください!」
任せろ。村人に不可能はねーぜ!
と言うことで、ミタさんの転移バッチでミタさんの生まれ育った村へ転移した。
で、やって来ましたミタさんの……村?
「なにもないわね」
プリッつあんが言う通り、なにもありません。荒野、ってほどではないが、お世辞にもここが村とは言えなかった。
「あたしの村は地面に穴を掘って暮らしてました。下手に建物を造ると、魔獣や獣に狙われますから」
魔獣がなんなのか知らんが、確かに魔大陸の獣はハンパねーな。弱いものでもB級冒険者が相手するようなもんだしよ。
「ん? コンテナ?」
辺りを見回すと、なぜかコンテナが一つ、置いてあった。
「あれはカイナ様の救援物資です。あれのお陰でベー様のもとへいけました」
ふ~ん。カイナのヤツ、そんなことしてたんだ。ってか、そんなことすんならお前が助けた方がイイんじゃねーのか? 魔王軍でも組織すれば平和に魔大陸を掌握できんだろうによ。
「まっ、それができるカイナじゃねーか」
そもそも軍事国家に未来はねー。ただ、命を消費するだけだ。まあ、オレの勝手な解釈だけどよ。
「コンテナはともかくとして、緑がまったくねーな」
いや、サボテンのようなものや赤黒い灌木っぽいものは見て取れるのだが、見ていても一ミリグラムも癒やされねーものばかり。よくこれで生きてられたな。
「近くに湖があり、水草を食べてました」
水草ね。オレもオトンが死んでからしばらくは草を食ってたっけ。
「湖ね」
どんなものか見にいくと、意外と澄んでいる湖だった。
「魚とかいんの?」
「はい。採り尽くしてなければ。他の村も採りに来てましたから」
……飢えたらどこも同じか。世知辛いぜ……。
「湖の水は飲めるのかい?」
「はい。湖の水を汲んでました」
辺りを見回しながら考える。
「……そう、悪い場所でもねーな……」
水があり山があり、平地もある。環境は充分だ。
「村に戻りたいヤツはどのくらいいるんだ?」
「老人たちのほとんどは戻りたいそうです」
難題はそこか。まるっきし未来はねーと言ってるものだ。
「そう言や、ダークエルフの男って見てねーな」
いや、男の子なら見たことはある。だが、成人した男はまったく見たことがねーな。
「戦いで死んでしまいました」
更に難題が現れました。もう絶望的だな。だが、そこで無理と言うようでは三流の村人だ。絶望を乗り越えてこその最強村人。考えろ、だ。
「……いないのなら連れてくるしかねーか……」
それしかないのなら、さらなる問題はどこからとなる。
「ダークエルフって、この近辺にしかいねーのかい? 種として同じダークエルフってよ」
「他にもいるのはいますが、来てくれるとは思いません。交流はありませんし、こんな滅びかけの地になんて来ません」
だろうな。オレもこんな村に婿入りしろって言われたら切れるわ。まあ、好きにしてイイってんなら別だがよ。
「となると、だ。違う種族になるんだが、それは却下だな。問題にしかならねーし」
好き合ってんなら別に構わんが、無理矢理では意味がないし、種族を超えた愛なんて極一部しからしか許容されてない。まだ同種婚が主流の考えなのだ。
「せめて同種であれば……あ」
そこで閃いた。この状況を打開できる唯一の手を。
「……だが、それを受け入れる男がいるかだよな……」
でもまあ、あるのならやってみて損はなし。上手くいけば地竜のエサ問題もなんとか鳴りそうだしよ。
「なあ、ミタさん」
「はい、なんでしょうか?」
「合コンするか?」
「はい?」
「ダークエルフの淑女とエルフの紳士による合コンさ」
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