第821話 鋭気充填

 ハイ、サクッと我が故郷に帰って来ました。


 ってまあ、正確に言うならクレインの町に転移。ヴィアンサプレシア号を戻しに来ました。


「……やはり、青い空がよいな……」


 完全無欠に放置していたので、遠い目をする大老どのに同調できないが、まあ、帰ってこれてよかったねと言っておこう。なんか青い竜に襲われ大変だったらしいよ。


 ……まあ、サプル率いる戦闘機団が殲滅して事なきを得たそうだけどね……。


 まあ、青い空を堪能してちょうだいと、今度こそ我が故郷に転移した。


「ふぅ~」


 なんか我が家を見たら今までの疲れがどっと出てきたぜ。


「ただいま~」


「お帰りなさいませ、ベー様」


 うちに入ると、メイドさんたちが……いませんね。執事さんだけです。どったの?


「引き抜かれました」


 はぁ? 引き抜かれ? どう言うことよ?


「フィアラ様やアバール様を筆頭に我が家のメイドが引き抜かれたのです」


「あ、そう言や、煽ったな。忘れったわ」


 つーか、どんだけ引き抜いてんだ、婦人たちは? 人件費とか大丈夫なんか?


「そっか。まあ、イイんじゃねーの。そもそもうちにメイドなんて必要ないんだしよ」


 スーパー幼女サプルちゃん一人いれば宮殿だって維持できるだろうよ。


「ですが、ベー様にこれだけお世話になったと言うのに……」


「別に世話したつもりはねーんだから構わんよ。気にすんなって。それより、誰もいなくなったのかい?」


 まあ、それならそれで構わんがよ。


「いえ、ダークエルフ族は全員残りました。あとは、鬼族と白露族、セイワ族が数名です」


「ふ~ん。物好きなヤツらだ」


 婦人やあんちゃんのところの方がやり甲斐はあると思うんだがな。まあ、残るなら残るでそれも構わんがよ。


「そうかい。別に館の維持には困ってねーんだろう?」


「はい。十二分に間に合っております」


 それ、余ってるって聞こえんだがな。


「ミタさん。魔大陸に戻りたいヤツの選別と合コンに参加したいヤツに声をかけてくれ。あと、執事さんにも説明よろしく」


 そう言うことはミタさんにお任せ。オレは野郎どもを担当するかよ。


「と、その前に、疲れを癒しますか」


 一っ風呂浴びて、グッスリ寝て、コーヒー飲んで、まったりして鋭気を養いますか。


 と、鋭気充填率四十パーセントなところで公爵どの、マイシスターが押しかけて来た。庭先でゆったりまったりしてるのによ。


「車、いつ乗れんだよ!」


「あんちゃん、飛行機を載せられる船は!」


 ……そんな問題もありましたね……。


 まずは優先順位が易しい方から。


「明日、公爵どのが用意したところに行くから、受け入れ準備よろしく」


「明日だな。絶対だぞ!」


「約束は守るよ」


 それで納得してくれたようで、シュンパネで公爵領へと飛んでいった。


「サプル。フミさんを連れてこい」


「フミさん? フミさんたち、今船を造ってるから忙しいよ」


 無限鞄から造りかけの飛空船を取り出した。


「なにこれ!? カッコイイ!」


 密かに造っていた飛行空船で、本来は竜機を搭載できるようにしていたものだが、我が儘な妹には勝てん。


「まだ造りかけだが、今、博士ドクターが造っている魔力炉を載せれば飛べるし、戦闘機も飛び立てる。中はフミさんの好きにさせろ」


 博士ドクターのところに転移。かくかくしかじかそう言うことなので丸投げします!


「……身も蓋もありませんね……」


 ハイ、まったくもってごもっとも。反論できません!


「まあ、いいでしょう。魔力炉の実験もしたかったですし」


 つーことで博士ドクターにお任せ。そして、フミさんに丸投げ。アデュー!


 庭先に戻り、鋭気充填再開です!


「あーコーヒーうめ~」


「……働き者なのか面倒くさがりなのかわかんないわね、ベーは……」


 働きたいときに働き、働きたくないときは働かない、それがオレです!


 もう、鋭気百パーセントになるまで梃子でも動かんからな。


 な~んてときほど厄介事がやって来るオレの今生。なんの呪いだよ!


「やっと帰って来たさね」


 なにやら激おこなご隠居さん。なんだい、突然来るなり?


「なぜ、暴虐のを唆した?」


 暴虐? あ、ああ。暴虐さんね。ってか、数日前のことなのにすっかり頭の中から消え去っていたよ。


「いつものことでしょう」


 ヘイ、そこのメルヘン。心の声に突っ込まないでくださいな。


「暇そうにしてたから」


 あと、魔王ちゃんの師匠に向いていると思ったから、かな?


「お前さんならあやつの性格がどんなだかわかっているはずさね。野獣を野に放ったようなものさね」


 酷い言われようだな、暴虐さん。


「そうやって暴虐さんを閉じ込めるから、暴虐さんは不満を募らせるんだよ。ああ言うのははっちゃけさせる方が安全だ」


 溜め込むのが一番危険だわ。


「ご隠居さんほど暴虐さんのことは知らんし、興味もねー。だが、暴虐さんは言うほど危険ではねーぞ。ただ、道に迷ってイライラしてただけだ」


 別れのときの暴虐さんの笑顔、眩しいほどに輝いていた。あれは、道を見つけ、進もうと決めたときのもの。暴虐さんと言うのも失礼なほど理知的で冷静な存在だ。


「自由にしてやりなよ」


 やっと見つけた暴虐さん──いや、大魔導師が進むべき道だ。何人たりとも邪魔をしちゃならねー。


「……小僧のクセに生意気な……」


「ああ、正真正銘、オレは小僧だからな」


 苦々しくするご隠居さんにニヤリと笑って見せた。


 生意気を言えるのは小僧のときだけ。ならば、遠慮なく言わせてもらいましょう、だ。


「勝手にするさね」


 気苦労が絶えないご隠居さんに労いの敬礼を! 


「またな」


 消える前に声をかける。オレはそんなご隠居さんも大好きだぜ。


「ああ──」


 律儀に答えるご隠居さん。ほんと、損な性格した人外さんだよ……。

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