第818話 勝者
大漁です。そして、笑いが止まりません。
「クソ! オレ一人では追いつけねーぜ!」
掘れば掘るほどコガードが現れ、無限鞄に詰め込むのも一苦労である。
「でしたら護竜たちに掘らせたらどうです? ベー様ほどではありませんが、護竜も土魔法は使えますよ」
なぬ? それはマジですか?
「試しにゴーレムを作って、護竜に纏わせてみたらどうです? さすがの護竜も最初から高性能なものは作れませんし」
なるへそ。なら、試しましょうかと、ゴーレムと言うよりは動く鎧的なものを二体、作り出した。
「お前たち──って、名前がないのも不便だな」
ヘイ、そこ。お前が言うなとかいらねーぜ。
「ぴーって鳴く方がピータ。びーって鳴くほうがビーダな」
「……んな単純な……」
イイの、単純で。メンドクセー名はオレたち兄弟で充分だわ。
「ピータはその黒いのでビーダは白いのな」
「ぴー!」
「びー!」
了解とばかりに鎧の隙間から中へと入っていった。
しばらくして鎧がガチャガチャと震え出し、なんか仄かに光り出した。え、なに!?
と、鎧の腕が上がり、なぜかやる気ポーズをとるピータとビーダ。それは護竜の本能がさせてんのか?
「ぴー!」
「びー!」
まだ、意思疎通はできないが、まあ、やる気があるのはわかる。多分、なんでもやるぜ! とか言ってんだろうよ。
「じゃあ、ピータとビーダは穴を掘ってコガードを集めてくれ」
こちらの言葉がわかったのか、頷くと穴を掘り出した。つーか、岩を砂塵化させている。いや、崩落するわ!
やはり教育は大事と、ピータとビーダに土魔法を教えると、スポンジが水を吸うように覚えていき、数分後にはオレ並みに近づいた。
「よし。コガードを見つけ、キャンプ地に持ってこい」
今度こそ任せろとばかりに穴を掘り出した。
頷き一つしてキャンプ地へ戻り、積んだまま放置していたコガードを無限鞄へと詰め込んだ。
「ベー様。いつまでここにいるんですか? もう五日ですよ」
詰め込むのも飽きたと、コガードを加工してたら、レイコさんが前に出て来た。
え、そうなの? オレ的にはまだ一日も過ぎてねーんだがな。
「まあ、来るべきときが来るまでさ」
なるようになるがオレの今生。慌てず騒がずだよ。
コーヒーを飲みながらコガードを涙型にしたりハート型にしたりと、前世で見た宝石の形をいろいろ作っていく。
ピータとビーダが次々とコガードを集めて来て、積まれて行くのを横目で見ながらせっせと装飾品作り。オレ、なにしてんだろう?
なんて時間は忘れたけど、いつの間にか自問自答していた。
「なにしてるの?」
わからん。結構長いこと自問自答してるが、未だに答えは出ないよ。装飾品は大量にできていくのによ。
「レイコさん、どう言うこと?」
「わたしに問われても困ります。ベー様の行動は理解不能ですもの」
「まあ、ベーのことだから集中しすぎて目的を見失ったってことでしょう」
お、それそれ! そんな感じだよ。
答えが出てスッキリ。あ、ドレミ。コーヒーちょうだい。
「あ~コーヒーうめ~……ん?」
なにやら目の前に見覚えのあるメルヘンがいるのだが、幻覚か?
「気がついたかしら?」
「あ、プリッつあんか。久しぶり。元気してた?」
オレは君がいなくても元気にしてたよ。
「わたしもベーがいなくても元気だったわよ」
そうですか。それはなによりです。と言うか、心の声に答えないでください。
「飽きたなら帰るわよ。もう閉会式が始まってるんだから」
閉会式? なんのよ?
「レースのよ。記憶の底を漁りなさい」
どれどれと漁るとありました。レースしてましたね。
「レース終わったんだ。よくゴールまでいけたな」
言い出しっぺのオレが言うのもなんだが、途中で中止になると思ってた。
カイナが道を造ったとは言え、あの悪路を走るとか無茶どころか無謀である。故障故障で心が折れると思ったんだが、オレの想像以上にバカ野郎が集まっていたようだ。
「で、誰が優勝したんだ?」
オレの予想では優勝ミタさん。二位が公爵どの。三位がカイナのところの誰かだろう。
「わたしよ」
と、胸を張るプリッつあん。え、誰だって?
「だから、わたしが優勝したの」
ごめん。しばしオレに時間をくれ。ちょっと整理するからさ。
………………。
…………。
……。
よし。理解した。
「ど、どうすれば優勝できんだよ? オレら、ドンケツだったよな」
しかも、寄り道してだろう。完全に一日分は遅れている。それで優勝とかあり得んだろう。どんな奇跡が起こったんだよ!
「ベーの車、空飛べるの思い出して飛んでったのよ」
いや、それ、ルール違反じゃね?
「今回はルールにしてなかったから認めるそうよ」
ま、まあ、車でレースをしようと言って、空を飛ぶのはダメ、とかルールには入れんわな。オレも空を飛ぼうとか意識外だったしよ。
「他から文句は出なかったのか?」
「楽しかったからいいんだって。まあ、ミタレッティーには悪いことしたかな~とは思うけど」
まあ、それでイイんならオレには文句はねーさ。ミタさんにはあとでオレが報いてやるよ。頭の上の住人を放置した責任もあるしな。
「それより、飽きたなら閉会式に参加しなさいよ。発起人が不参加とか、閉まらないでしょう」
あらやだ。メルヘンがまともなこと言ってますわよ。
なんてイラッとはしたが、プリッつあんの言い分はごもっとも。シメくらい参加しますか。
キャンプ地を片付け、ピータとビーダを鎧から出させて肩へと乗せる。
「わたしがいない間にまた変なものを住まわせたわね」
ええ。あなたを筆頭に、ね。
忘れ物なし。転移バッチ発動。シーカイナーズへと転移した。
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