第817話 地竜の恩返し
三日ほどかけて地竜を崖の上へと持ち上げた。
え、その話は? と問う方に答えよう。メンドクセーから嫌だ。
なに、どうしても聞きたい? まあ、どうしてもって言うなら話すが、一月はかかるぞ?
それでもいいから話せ? よしわかった。
………………。
…………。
……。
なぁ~って話すと思ったか。オレはオレがメンドクセーと思ったことはしねー主義なんだよ!
「……そのうち後ろから刺されますよ……」
大丈夫。オレの後ろにはレイコさんがいるから! 刃物を持ったヤツが来たら教えてねっ!
「とりあえず、疲れたからコーヒーだ」
崖の下でマンダ〇タイム。あーコーヒーうめ~。
「……と、言うか、最近、プリッつあんを見ねーんだが、知ってる人、いる?」
いや、オレの周り、人はいないけどさっ!
「そう言えばいませんね? どうしたんでしょうか?」
レイコさんの中でプリッつあんはどんな位置にいるんだろう? 結構、周りに対して淡白だよね、レイコさんって。
「まあ、なんかやってんだろう。自由なメルヘンだし」
いなきゃいないで構わないし、いたらいたで構わないのがプリッつあんと言う迷キャラである。
「そう言えば、レースはよろしいんですか?」
レース? なんの?
「完全に放棄ですか。まあ、ベー様らしいですけど……」
「冗談だよ。レースしたてたことくらい覚えているよ」
まあ、レイコさんに言われるまで、完全に頭から消えてましたけどね。
「レースを始めたのは道を造ることが目的だったが、道はカイナが造ったようだし、オレの趣旨から完全に離れた。あとは目的があった者同士、勝手に楽しんでくれ、だ」
道造りの他に、結界術の修行も兼ねていた。まあ、どれだけ能力が向上したかはわからんが、なんとなく向上した感じはある。
地竜も結界で持ち上げたが、ヘキサゴン結界がスムーズに働いてくれたし、疲労感が軽減した感じもする。
まあ、日々修行。これからもがんばりましょう、だ。
「ところでレイコさんよ。護竜って、どう役に立つの?」
両肩にいた護竜さんたちがテーブルへと下り、出してやった香草をパクついている。
ちなみに二匹とは契約を結んだ。ってか、雇用を結んだって言う方がイイかもな。なんたって、食べ物くれたら働くよ、って感じなんだからよ……。
「まだ幼竜なので、多彩なことはできないでしょうけど、土や金属を操ることはできると思いますよ。よく、ゴーレムの核になって操ってると聞きましたから」
ゴーレム? それもなんか最近聞いたような気がするな……?
「マスター。わたしの分離体の創造主がゴーレムの核になって逃げたことがあります」
あ、ああ。エリナか。ダンジョンマスターだかリッチだかよくわからん存在だったっけ。
「……ゴーレム、ね……」
右の人差し指で頬をトントンと叩く。なんか名案が出てきそうな感じなんだが、具体的には出てきてくれない。
慌てることはないと、コーヒーを飲みながら辺りに目を向けてると、なんかオレンジ色のものが視界に入った。
「オレンジ色?」
崖の中腹辺りにオレンジ色の石? みたいのがあった。
灰色系の魔大陸でオレンジ色のものがあるとは意外だな。なんなんだ?
気になり、席を立ち、空飛ぶ結界で崖の中腹へといってみる。
「なんかの鉱石か?」
「コガードですね。魔大陸ではよく見られるなんてことはない石ですよ」
レイコさんの言葉や口調からして、そう希少性はねーようだ。
コガードなるものを握り、砕いてみる。硬さはそれなりだな。
手のひらでコガードなるものをいじり、土魔法を発動させなから感触や強度、重さなどを覚える。
感覚を覚えたところで、崖に手を触れ、土魔法を放ってみた。
「……あるな、コガードっての……」
って言うか、鉱脈って感じか? 掘ればすぐ出て来るぞ。
「このコガードって、なにかに使われてるのかい?」
「いえ、使われていません。ただの石ですから。まあ、色が色なので調度品には使われたりしますかね? ご主人様もコガードのテーブルを一つ、持ってました」
ほほぉう。それはつまり、魔大陸ではまったく需要はなく、採る者もいないってことかな?
「は、はあ。そうですね……」
不可解そうな顔を見せるレイコさん。そう言う感覚はねーんだ。
手に取ったコガードを磨くように、削るように丸くしていく。
ゴルフボールくらいのサイズに磨かれたコガード。なかなかキレイじゃねーの。
「レイコさんに教えてやろう。価値ってのは生まれるものであり作るものなんだよ」
前世と同じくこの世界にもルビーやガーネット、サファイアな宝石がある。記憶は曖昧だが、オレンジ色の宝石も確かあったはず。
ならば、これは宝石だ。魔大陸原産の、な。
「……悪い顔してますよ……」
捕らぬ狸の皮算用なのはわかってる。だが、これは皮算用したくなるだろうがよ。なんたって、この価値を知るのはオレだけ。ライバルはなし。そして、ここはコガードの鉱脈。笑わずにはいられねーよ。
「まさに地竜の恩返しだな」
童話にして世に広めたろか。クフフ。
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