第816話 ぴー! びー!
「ヴィベルファクフィニー。友好の証としてこれを受け取って欲しい」
さて、そろそろ地竜を助けますかと、立ち上がろうとしたらシュヴエルがそんなことを言い出した。なによ、突然?
「別に気を使うことはねーんだぜ」
これは取り引き。オレも得してシュヴエルも得をする。対等な立場だ。それ以上の好意はいらねーよ。
「ちなみになによ?」
いらねーが、シュヴエルが出したものは気になる。オレの考えるな、感じろが反応してるのだ。
「これだ」
と、奇形岩に視線を向けた。
それにつられてオレも目を向けると、奇形岩の出っ張り部に卵が二つ、乗っていた。
前に見たときはなかった。これは確実に言える。話を聞いているときもなかった。これは、ちょっと自信はねー。
まあ、どっちにしろ、不可思議な竜人さんだ、突っ込んでもしょうがねーか。
「卵、かい?」
直径十センチくらいの茶色い物体だ。
「フェイベブルの卵だ」
レイコさん、説明プリーズ。
「護竜ですね。アリュアーナを守っていたと聞いたことがあります」
「これと言って護ってもらう必要はねーんだがな」
オレの結界を破れるのは人外くらいだし、オレの考えるな、感じろセンサーは優秀だ。危険なときは発動してくれる。
まあ、絶対ではないが、それを補う存在もいる。ミタさんにドレミがいたら大抵のことは防げるだろうよ。
プリッつあん? あれは盾だ。緊急用の、な。
「ベー様。ここはもらっておいた方がいいですよ。護竜は賢いですし、なにかと便利です。それに、契約すれば主と意思疎通できますから」
これ以上、珍生物は遠慮したいんだがな。いや、生物じゃないのもいるけどさ。
「受け取って欲しい」
表情も声音も変わらないのだが、感じからして悪意はねーようだ。まあ、だからと言って裏がないとは言い切れんがよ。
「……わかった。ありがたくいただくよ」
無下に断るのも失礼だし、レイコさんが勧めるのだから相当便利なんだろう。
渡すのかと思って待ってたが、どうやら自分で取れってことらしい。あ、幻的な存在でしたね、あなたは。
席から立ち上がり、卵をいただいた。
「温かいんだな」
ゆで卵か?
二つの卵を眺めていると、ピシッと卵にヒビが走ったかと思ったら、突然、殻が砂のように崩れてしまった。なによ!?
「ぴー!」
「びー!」
半濁点と濁点な鳴き方をする……金色のトカゲ(?)が生まれました。レイコさん。さらに説明をプリーズです。
「……これが護竜ですか。初めて見ました……」
なにやら感動してますが、そんなもんなの? オレには小さなトカゲにしか見えないんですけど。
「トカゲじゃありません。正真正銘の竜ですよ。しかも、黄金竜の系譜です。小さいからとバカにはできません」
いや、オレ、そんなに竜のこと知らないし、興味もないし。
「ぴー!」
「びー!」
なにか、オレになにかを訴えているような眼差しを向けるトカゲ──じゃなく、護竜さんたち。さすがに竜の言葉はわかりませんがな。
「その者たちは、ヴィベルファクフィニーと契約をしたいそうです。まさかそこまで気に入られるとは思いませんでした」
「ベー様、異種族に好かれる体質ですから」
勝手に決めんなや。オレは同族からだって好かれてるもん! 友達いっぱいいるもん! 誤解を受けるようなこと言わないでください!
ぴー! びー! と鳴く護竜さんたち。なにをそんなに気に入ったんだよ?
「契約って、オレはこいつらになにを渡すんだよ?」
命とかだったら丁重にお断りさせていただきまっせ。
「その者たちに草を与えてやって欲しい。ただ、好みがうるさいので草ならなんでもよいわけではない」
まあ、山羊だって草ならなんでも食うったらわけじゃねーしな、好みはあるだろうよ。
「具体的にはなんの草を食うんだ?」
と聞いたらわからない草の名称を言われた。レイコさん、知ってる?
「わたしもよくわかりませんが、たぶん、香草だと思います。以前、香草の図鑑で見た記憶がありますから」
幽霊はどこで覚えているか気になるが、どうしても知りたいってほどでもない。ここは軽く流しておこう。
護竜さんたちを肩へと移し、無限鞄から適当に香草を選び出し、テーブルに並べてみた。
「食えるのあるか?」
トカゲのように腕を伝わってテーブルに上がり、香草をクンクンと嗅ぎ出した。嗅覚はあるんだ。
「ぴー!」
「びー!」
と、護竜さんたちが香草に食らいついた。どうやら出した香草は全てイケるらしい。
「なら、木の実も食えるか?」
ラビやブララとかいろいろ出してみると、どれも嬉しそうに食らいついていた。たんに、食うのが少なかっただけじゃね?
「こいつらも結構食うんだな」
もう自分の体重以上のものを食ってるぞ。まあ、そもそも体が小さいから大した量ではねーけどよ。
「はい。そのせいで個体数が少ないのです。ヴィベルファクフィニーに託して正解でした」
それはつまり、オレに繁殖させろってことか?
「本当に役に立つんだろうな?」
無駄飯食らいは間に合ってんぞ。
「それは保証します」
できればどう役立つか教えて欲しいんだけどな。
まっ、今は護竜さんたちの腹を満たしてやるか。腹減ってんのは辛いしな。
なんか野良猫にエサを与えているような気持ちになり、香草や木の実を護竜たちに出してやった。
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