第790話 新天地

 食糧を、と言われたが、そもそも竜人さんたちって、なにを食うんだ?


 他の魔族は、オレたちと変わらず食べてたし、苦手なものもなかったように思うが、人タイプと竜タイプでは味の違いや、食べれねーもんとかあんじゃねーのか?


 試しに料理を幾つか出して食べてもらった。


「旨い!」


「こんな旨いもの初めてだ!」


「肉も柔らかいぞ!」


 なにやら大絶賛。好き嫌い……と言うか、なんでも食べる竜人さんたちだった……。


「あんたら、酒とかも飲むのかい?」


 つーか、そもそも酒はあんのかい?


「ああ。ガルメリアを飲む」


 ガルメリア? 種類か? 名前か? なんなんだ?


 これだと、一人の竜人さんが革袋を出した。


 瓶とか陶器の技術はまだねーんだ。まあ、戦いばかりの地だし、しょうがねーか。


 差し出された革袋を受け取り、カップに注いでみる。うん、酒だな。


 下戸のオレに酒の良し悪しはわからねー。なのでプリッ酒さん。味見してちょ。


「へ~。毒々しい色してるけど、味はいいわね」


 なんの躊躇いもなく口にするメルヘンさん。なんかもう、いろいろ突き抜けちゃってるよね、あなた……。


 酒飲みなプリッつあんに受け入れられてるなら、ガルメリアとやらは売れるレベルのものってことか。幾つかもらっておくか。


「こちらの酒も飲んでみてくれ」


 カイナがアホほど出した酒を何種類か出して竜人さんたちに飲んでもらった。なにが好み?


「このテキーラと言うのは旨いな。胃にガツンと来るのも好ましい!」


 テキーラってアルコール度数が高いヤツだよな? ガルメリアもそんな感じなんか?


「どちらかと言うと、馬乳酒に近いかしら? まあ、あれほど味に特徴はないけど、温めて飲んだら美味しいかもよ」


 ソムリエなメルヘンさんが言うのならそうなんだろうよ。


「なあ、テキーラとガルメリアを交換してもらえるかい?」


「よ、よいのか!? ガルメリアとで?」


 竜人さんたちの世界では、それほど価値は高くないらしい。簡単に作れるものなんか?


「ああ。違う酒でも交換するぜ」


 もとはタダで手に入れたもの。差があろうと痛くも痒くもねーぜ。


「ぜひ頼む!」


 と言うので、樽を用意し、そこに入れてもらい、革袋一つ分と七百ミリリットルの瓶に入ったテキーラを交換した。


 水の代わりなのか、ほとんどの竜人さんがガルメリアを持っていた。予想以上に簡単に手に入るものらしいな。


 どんどんと樽にガルメリアが溜まり、テキーラがどんどんと減っていく。日本酒とかワインとかもどうよ? この際、在庫処分したぜ。


 収納鞄から無限鞄に移し替えるの面倒だから、収納鞄に入れたままなんだよ。収納鞄、他に使いたいし。


「ベーの方が損してない?」


 確かにオレの方が損している。だが、いちいち同じ量を交換するのもメンドクセーし、手間でしかない。時間を買ったと思えば得した気分さ。


 なんやかんやで十六樽も集まってしまった。つーか、よくそんなに持ってたよな、竜人さんたち。


「親父殿にイイ土産ができたぜ」


 酒の精霊がいれば更に旨くなんだろうよ。


「ベー。わたしにも二樽ちょうだい。皆に飲ませたいし」


 オレの知らないところで飲み会でもあんのか? まあ、プリッつあんには酒好きなヤツらの面倒見てもらってるし、四樽持ってけ。


 なんてことしてたらミタさんが戻って来た。五十人近いメイド……だけではねーな。男もいるし。パートで雇ったのか?


「遅れて申し訳ありません。選ぶのに時間を取られました」


 不人気、だった数ではねーな。ってことは、希望者多数ってことか。


「はい。移住者が更に増えて仕事が足りていないのです」


「また来たのか? どんだけ引き受けてんだよ」


 まだジオフロントはできてねーし、地上もそれほど開拓されてねー。それに食糧だってまだ充分とは言えねー。さすがに厳しいぞ。


「申し訳ありません。カイナ様にもこれ以上は、と言ってはいるのですが……」


 まあ、カイナに厳しい選択は無理だろうな。根は善良だからよ。


「まあ、イイ。それはオレがなんとかする。ミタさん。ワリーが、婦人と隣のあんちゃん、いたらアダガさんも連れて来てくれるか。それと、開拓団を組織するから、新天地を目指したいヤツを募ってくれ」


「開拓団に新天地、ですか?」


 ビックリ眼のミタさん。それで察し切れなかったか?


「ここに都市を造る。まあ、竜人さんたちが中心になるだろうが、物物交換をする約束は取り付けた。なら、そこに一枚噛ましてもらおうぜ」


 ここには水があり壁がある。前は薬草を作っていたから平地は平ら。肥料をやれば緑を増やせる。近場には岩山があるので切ってこれば家も建てられるだろう。


 まあ、最初は食糧輸入に頼るが、一年ならなんとかなるし、それを解決するために帝国に行くのだ、今から始めても問題はあるまいて。


「あ、カイナにも連絡を頼む。シーカイナーズに守ってもらいてーからな」


 誰も統治してなけりゃそこは新天地。ありがたく使わせてもらおうじゃねーの。フフ。

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