第791話 簡素に説明

 メイドさんやパートの方々に屋台を用意してもらう。


 が、同じ世界にいるオレたち。当然、魔大陸にも夜が訪れる。


「一部を残して、我々は一旦帰る」


 と、夕暮れのとき、代表さん……なんて言ったっけ? 三十分前までは覚えてたんだが、まあ、顔の見分けもつかねーんだ、明日来たらわかるような目印をつけてもらおう。さようなら~。


「ベー様。明かりが欲しいのですが、なんとかなりませんか?」


 ダークエルフのメイド……えーと、名前は、ユカミュリーさんか。じゃあ、ユカさんで決定ね。


「夜もやるのかい?」


 別に明日でも構わねーよ。そんな急ぎでもねーんだからさ。


「できればやらして欲しいです。手当てが出ますから」


 誰が出すかは知らんが、やりたいと言うならやればイイさ。世の中には仕事が大好きってヤツもいるしな。


 結界灯を幾つか出して辺りを明るくする。こんなもんでイイかい?


「はい。ありがとうございます」


 お礼を言って屋台造りに向かった。


 材料とか持ってくるなんて用意周到だな。ミタさんが指示したんかいな?


 元気に働くメイドさんやパートさんたちを眺めながらマ〇ダムタイム。あーコーヒーうめ~!


「優雅だな、こん畜生が!」


 そんな優雅な一時に無粋な罵倒。も-、誰ですか!


 と、思ったらあんちゃんでした。あなた、最近口が悪いですよ。商人ならもっと品よくしなさい。


「気が立っているようだな」


 損でもしたか?


「クソ忙しいのに、お前が呼び出したからだよ!」


「だったら断ってもよかったのに」


 忙しいなら忙しいで無理しなくてイイんだぜ。別に絶対に来いとは言ってねーんだからよ。それともミタさんが言ったか?


「婦人とアダガも呼んでるのにおれだけ来ないわけねーだろうが!」


 だったら怒るなよ。あんちゃんが来るって決めたんだからよ。


「で、婦人とアダガさんは?」


 断られたか?


「婦人は明日の朝に来るってよ。アダガは明日中には来ると言っていた」


 だったらあんちゃんも明日にすればよかったのに。無理することねーだろう。


「お前が関わっている以上、ゆっくりしてられるか! 婦人たちに説明しなくちゃなんねーんだからよ!」


 いや、それを説明すんのはオレだから。なぜあんちゃんが説明担当になんだよ?


「お前が説明上手ならオレも明日来たわ! お前は、重要なことを端的にしか説明しねーんだからよ!」


 失敬な。オレは簡素に説明しているだけだ。


「……まあ、いい。なんの呼び出しなんだ?」


 なにか自分の中で解決……はしてなさそうだが、無理矢理押さえつけて、向かいの席に座った。あ、コーヒー飲む?


「酒をくれ!」


 珍しいこと。酒は嗜む程度しか飲まねーのに。


「プリッつあん。頼む」


 酒担当にお任せ。今のあんちゃんの気分に合うものをよろしく。


「なら、ガルメリアをどうぞ」


 いつの間に瓶に移し換えたのか、コーヒーカップにガルメリアを注いだ。


 ……プリッつあんって、意外と力持ち? 自分くらいのもの持てるようだけど……?


 オレにはまったく通じないので、いまいちプリッつあんの力がどれほどのものかわからんのよね。


「ほぉう。旨いな」


 あんちゃんの舌にも合うんだ。やっぱ、イイものなんだな。


「気に入ったらあんちゃんが仕切って販売してイイぜ。竜人さんたち、食糧や酒と交換してくれるからよ」


「いや、婦人やアダガが来てから決める。それより、説明しやがれ! 今度はなにをしようとしてやがる?」


 なんか、協定でも結んでんのか? まあ、丸投げするんだから構わんけどよ。


「ここに都市が造られるから、一枚噛もうかと思って誘ったみた。ここでは魔石が金みたいだからよ」


 今日も今日とて簡素に説明しました。別にわかり難い説明じゃないよね?


 だが、あんちゃんには難しく聞こえたのか、なんか苦渋の表情をしていた。なんでよ?


「……お前は、いったい国や町をいくつ造る気だよ……」


「オレは手伝っているだけで、創っているわけじゃねーよ」


 ヤオヨロズの国はエリナのだし、そこの町はヤオヨロズに住む者たちのもの。オレが支配しているわけじゃねー。


 ここもそうだ。竜人が都市を創るからオレたちも一枚噛ましてもらおうとしているだけ。


 まあ、人魚の町はオレが創らなくちゃならないかしれないが……まっ、ウルさんに丸投げ。なんとかしてちょ。


「……そう、だな。お前はそう言うヤツだったよ……」


 理解してもらえてなによりです。


「で、一枚噛むかい? それとも断るかい?」


 オレはどっちでもイイぜ。やらないのならゼルフィング商会が仕切るまでだしよ。


 今来ている中からやりたい者を責任者にして、パートを雇えばイイだけだし。あとは、事務手続きを婦人にお任せするだけ。婦人、よろしくお願いします!


「……噛むよ。つーか、噛まざるを得ねーよ。これ以上、ゼルフィング商会だけが特筆するのはよろしくねーからな」


 そうなの? まあ、オレにはよくわからんが、あんちゃんがそう言うならそうなんだろう。ガンバって噛みくだして飲み込んでください。応援はするからよ。


「また明日来る」


 そう言ってシュンパネで帰っていった。


「ドレミ。夕食にしてくれ」


 今日は帰る気にならんし、ここでのんびりするか。知らない星空を見ながらコーヒーを飲むのも乙だろうしな。


 皆さんが元気に働く横で、オレはのんびりゆったりと過ごさせていただきました。

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