第788話 出店

 まあ、ドラゴンガールのことはそれでイイとしてだ。うちのスーパー幼女に意識を切り替えますかね。


「サプル。捌きの続きしてきてイイぜ。ドラゴンガールはこっちで引き取るからよ」


 親(なのか?)を殺した者と一緒にいてもおもしろくねーだろうし、親(なのか?)が捌かれるシーンを見せるのも酷だろうよ。


「うん。じゃあ、あんちゃんに任せた。あ、あたし、スカイチームの皆と帰るから」


 スカイチームってなんだよ? なんて今さらなこと聞く気にもならん。勝手にしろ。


 意識からサプルを追い出し、ミタさんを見る。


「ミタさん。キャンピングカーなんて持ってる?」


「はい。ありますよ」


 うちの万能メイドが青い猫型ロボットに見えてきたぜ……。


「適当なのを出してくれ。今日はここに泊まるからよ」


 今帰っても碌なことにならねー予感がするし、公爵どのとの約束までゆっくりしてるのもイイだろう。


「では、トレーラーハウスを出しますね」


 と、なんかスゲーのを出した。


 トレーラーハウスってのは知ってるが、まさにハリウッドスターが使いそうなものだな。買ったら億とかしそうだな。


 中に入ると、さらにスゲーわ。完全に家じゃん。普通に住めるわ。


 いや、当たり前と言われたらそれまでだが、こんな豪華で高級なものに縁がなかった者としては、ただ、驚くばかりだよ。


「ミタさん。オレは読書するから後はテキトーにしててイイよ」


 他はオレが言わなくてもテキトーにやるからな。


「あ、あの……」


 トレーラーハウスの後方にある豪華なソファーに寝っ転がり、無限鞄から本を取り出して読もうとしたらドラゴンガールが話しかけてきた。なによ?


「……窓に張りついてる妖精さんはよろしいので……?」


 ドラゴンガールがオレの背後を指差している。


 つられて見ればプリッつあんが恨みがましい顔でこちらを睨んでいた。あ、遠くに投げたっけ。忘れてたわ。


「ドレミ。頼む」


 任せてオレは読書です。


 途中、プリッつあんがじゃれて来たが、それはいつものこと。飽きるまでじゃれてなさい。


 読書に夢中になっていると、なんか外が騒がしくなってきた。なによ、いったい?


 窓から外を見たら、なにか物騒な格好をした竜人の一団、いや、軍勢がいた。


「なに事だい?」


「キュシュンジャーの軍勢ですね」


 キュ……なによ、それ?


「ここから東に四日ほど歩いた地を支配する魔王です。それほど脅威ではありませんが、武を尊ぶ種族で、バンデイルサーノを崇めていました」


 随分と変わったものを崇めてんな。なんかご利益があったのか?


「サプルは?」


「先ほどバンデイルサーノを捌き終わったので帰りました」


 全長五十メートル以上はあったものを数時間で捌いちゃいましたか。まあ、スーパー幼女だもんな。不可能ではねーか。


「で、なんなわけ?」


 先生がいなくなったとは言え、この一帯に入って来れねーように高い壁があるはず。あれを越えて来たのか?


「ご主人様がいなくなったから攻めて来たかもしれませんね。魔大陸で覇を争う者は強者の存在に敏感ですから」


 そうじゃなけりゃこの魔大陸では生き残れねーってことだ。


「まあ、ここが欲しいってんなら勝手にすればイイさ。これと言ったもんはねーんだしよ」


 引っ越しの際、全てのものを持っていったようで、周りには枯れた薬草畑と建物の残骸(サプルと竜の戦いでね)だけ。オレが欲しいと思うものはなにもない。


 ここに来たのは、オレだけしか知らない場所だからであり、これっぽっちも愛着はない。つーか、こんな危険な場所なんていらねーよ。


「ミタさん、あいつらと会話できる?」


 なんか意思疎通ができないタイプの竜人っぽいが、ミタさんならなんとか意思疎通しそうだ。


「はい。キュシュンジャーは武を重んじますが、敵でなければ友好的な種族です。昔はダークエルフとも交流があり、物物交換をしていたそうですよ」


 魔大陸で生きてる割には理知的な種族だこと。余所者死すべし、じゃねーだ。


「ってか、あいつらが崇める竜を倒しちゃってんだが。完全に敵対関係じゃね?」


 なに一つ友好的な行動してねーよ。


「大丈夫ですよ。その辺は上手く省いて、都合のよいことを説明しますから」


「だ、大丈夫なんか?」


 あれをどう都合よくするんだよ? 我が妹ながら混沌無形すぎて説明もできねーよ。


「お任せください」


 と言うのでミタさんに任せた。


 なんの躊躇いもなくトレーラーハウスを出ていき、多分、竜人の代表だろうと言う者と接触。会話を始めた。


 万が一のときのために殺戮阿吽を抜き、いつでも飛び出せるようにドアの前で構えた。


「……あ、あの数を相手にする気ですか……?」


 ドラゴンガールがクッションを抱えてブルっていた。どんだけチキンハートなのよ、君は……。


 たぶん、戦えばあのくらいの軍勢を殺戮できるだろうに、完全に心が負けているようだ。


 まあ、強いからと言って別に戦う必要はねー。向き不向きがあるしな。人生、やりたいことをやれた者が勝ち。そのために戦え、だ。


 ドア窓から状況を見るが、殺気らしい殺気はなく、どちらかと言えば竜人たちに活気が見て取れた。なによ?


 しばらくしてミタさんが帰って来た。どうなったの?


「こちらに戦う意思はないと伝え、受け入れらました。あと、物物交換ができないかとお願いされました。いかがなさいます?」


「まあ、別に構わんが、なにを物物交換すんだ?」


 つーか、なにを欲してんだ、あいつらは?


「主に食料ですね。魔大陸で作物を育てる者はいませんから、ちょっとのことですぐに食糧危機になるんです」


 なんか前にそんなこと聞いたな。


「あっちはなにを物物交換しよえとしてんだ?」


 こんな枯れた大地では碌なもんはねーだろうが。


「これです」


 と、なんか緑色の石を取り出した。なにコレ?


「魔石です」


 魔石? って、飛空船や魔道具に使われる、あの魔石か?


「魔大陸では魔石はお金として扱われます。魔石は食べると魔力が増加しますから」


 食うの、これを? 石でしょう、コレ?


「食べると言うよりは吸う、ですかね? 魔石を体内に取り込みますから」


 こう言う風にと、ミタさんがやってみてくれた。


「……魔力、増えたのか……?」


 オレにはよくわからんけど。


「それほど品質はよくないので微々たるものです。これだと銅貨一枚分ですかね」


 それだと相当品質がよくないってことか。まあ、高品質ばかりでは流通しないか。


「飛空船を持つなら魔石はあった方がよろしいですよ。魔大陸は魔石の産地なので、他の大陸より断然安く手に入れられますから」


 まあ、確かにそうだな。魔石なんて滅多に出回らないし、帝国からしか流れてこないしな。


「そう、だな。飛空船の需要はこれから増えるし、竜人との伝を確保してた方がイイかもしれんな」


 魔石ならエリナにも回せる。無駄に命を取らせるよりはエコロジーだろうよ。


「んじゃ、竜人たちと商売しますか」


 ゼルフィング商会、魔大陸に出店です!

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