第787話 ドラゴンガール
神は気まぐれ世は無常。先がわからないから楽しいんだ。
なんて言える場合もあれば泣き言を言いたくなるのが人の情。誰か一寸先を照らしてくださいな。
「……あんちゃん、どうしよう……?」
正直、捨ててしまえと言いたいが、それをやったらオレはド畜生。妹に誇れる兄ではなくなる。これはピンチ。でも、兄の威厳を見せるチャンスでもある。考えろ、オレ!
と、必死に考えていると、なにか幼児から違和感を感じた。
……こいつ、オレと目を合わせねーようにしてね……?
先ほどからサプルがあやすように体を左右に揺らしたりしてるのだが、なぜか幼児がオレを見ようとはしないのだ。
……避けられてる……?
なぜに避けられねばならんと、幼児の顔を見ようとするが、すぐに顔を背けられてしまった。
「クスクス。子どもは敏感だから悪いものがわかるのね」
とりあえず、アホなことを言うプリッつあんを遠くに放り投げる。確かに悪いものは遠ざけねーとな。
「サプル。その幼児を貸せ」
手を伸ばすと、幼児が嫌だとばかりにサプルにしがみついた。
「……ふ~ん。言葉はわかるんだ……」
今のは確実にオレの言葉に反応した。つまり、見た目ではねーってことだ。
「レイコさんは、あの竜のこと知ってるかい?」
「はい。バンデイルサーノは、この辺りでは有名ですから」
ちなみにここは、元先生が住んでた場所で、精神体で来たことがあるのだ。ほんと、転移バッチは優秀だぜ。
また幼児が反応を見せた。
……こいつ、結構小心者なのか……?
「そのバンなんとかって、先生にケンカ売るようなアホか?」
戦闘力で言えばご隠居さんよりは劣るだろうが、殺す手段は世界一持っている。毒しかり。魔術しかり。まともに戦わなければ魔王より最悪な存在だろうよ。
「ご主人様からいつも逃げてました。捕まったら最後の一滴まで血を吸われるのを理解してましたから」
だろうな。先生、竜の血をなにより好むからな。
「先生がいなくなって調子に乗ったってところか」
まあ、捕食者がいなくなったんだ、調子に乗るのは当然か。だが、先生がこの世から消えたわけでもなく、戻ってこない保証もない中で、調子こくのはアホとしか言いようがねー。
幼児が小刻みに震えている。オレとレイコさんの会話を理解している、ってことを限りなく証明しているよ。
「オレ、先生の弟子。そして、先生の居場所を知るヴィベルファクフィニーと言う者です」
逃げるなら逃げても構わねーぜ。そのまま先生に突き出せばイイように対処してくれるからな。
「──ごめんなさい!」
サプルの腕から飛び出し、まさかの土下座をした。
二、三歳児が土下座する光景ってのはシュールだな。つーか、見事な土下座すんな、こいつ。
オレの考えるな、感じろがピキーンと閃き、結界を発動。オレと幼児だけの空間にした。
「……お前、転生者か……?」
その問いに幼児の肩が跳ねた。
「……あ、あなたも転生者、なの……?」
その口調から前世は女のようだな。
「ああ。ここではない世界からこのファンタジーな世界に転生した。元日本人か?」
「は、はい。日本人でした。あの、やはり、あのバス事故ですか?」
どうやら同じ搭乗者のようだ。
「神から三つの能力をもらったら、たぶん、そうだろうな」
あの汚物と同じ世界の住人だったのは全力で否定したいがな。
「どんな能力をもらったかを聞く気はねーし、興味もねー。が、なんでその姿で竜から生まれて来たんだ?」
それに時間的に合わねーだろう。いや、神(?)のやることに突っ込んだってしょうがねーけどよ。
「わたしにもよくわかりません。健康で長生きができていじめられないと願っただけなのに……」
健康で長生きができていじめられない、ね。まあ、最後のは突っ込まないようにしてだ。まあ、オレを含めてアホな願いをしたヤツからしたら至って普通──って言うか、欲のない願いだよな。
「ん? 健康で長生きができていじめられない?」
それって、竜に当て嵌まらないか? 竜、健康だし、長生きだし、竜をいじめるヤツなんかいねーんだしさ。つーか、竜に転生とか、それこそいじめだろう。さらに前世の記憶を持たせるなんてよ。
「レイコさん。バンなんとかって人化できるのか?」
結界にレイコさんを入れて尋ねてみた。
「人化ですか? いえ、そんな話は聞いたことありませんね。ただ、バンデイルサーノのような竜王種は、死を迎えるとき、新たな命を生み出すと聞いたことはあります。より強い種にして」
人の姿が竜より強い種になんのか? 逆に弱体化してね?
「たぶん、ですが、精神的に負かされたからではありませんか? 倒したのサプル様ですし」
まあ、確かにあのスーパー幼女と戦って、トラウマの一つも抱かない訳ねーか。オレなら確実に生きる希望を失ってるよ。
「でも、なんでオレを怖がってるんだよ? オレ、なにもしてねーじゃん」
生理的に、とか言われたらオレは全力で泣くよ。
「わたし、小さい頃からいじめられてたから強い人とか我の強い人とかが苦手なんです」
オレが強いかどうかはわからんが、我が強いのは認める。ってか、我が強くないとファンタジーな世界では生きていけねーから。
「まあ、それにもどうこう言うつもりはねーさ。で、ドラゴンガールは、これからどうすんだ?」
「ドラゴンガール?」
「お前だよ。名前あんのか?」
まあ、あったとしてもオレの中ではドラゴンガールに決定してるがな。
「あ、いえ、ありません。親、死んじゃいましたし」
正確に言うなら君の後ろにいる子が殺したんだけどね。
「なら、好きに名乗れ。この世界は、自己主張したもんが勝ちだからな」
「じゃ、じゃあ、竜子にします。別に名前に拘りありませんし」
たぶん、発音はリューコになると思うが、まあ、本人が拘ってねーのなら問題はあるまい。
「そんで、どうする?」
「ど、どうすると言われても、どうしたらいいかわかりません……」
まあ、だろうな。オレでも突然、ファンタジーな世界に放り込まれたら戸惑うわ。
「なら、オレらと来るか? 他にも転生者はいるし、種族に拘らねーところだしな。後々、どこかに行きたくなったら勝手にいけばイイんだしよ」
「い、いいんですか?」
「今さら転生者が増えたところで気にもならねーよ。好きなように決めて好きなように生きろ」
人の姿はしているが、潜在能力はあの竜以上のようだし、ヤオヨロズ国の力にはなれんだろう。ならなきゃならないで構わんがよ。
「え、えーと、リューコさんですか。幽霊のわたしが言うのもなんですが、遠慮しなくてもいいんですよ。ベー様は我は強いですが、お心はザルのように優しいですから」
それ、褒めてんだよね?
「あ、あの、お世話なります!」
こうしてまたオレのところに転生者がやって来た。だからどうだって話だが、まあ、いつものようになるようになる、だ。
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