第768話 友情物語

 スポーツ用品コーナーでサッカーボールを五百ほど買った。


 ちょっとばかり多かったかな? とは思ったが、まあ、あって困るもんではないと、買うことにはしたのだ。


「空気入れもあった方がよろしいですよ」


 あ、そうだった。サッカーなんてあんまりやってなかったから気にもしなかったわ。


「じゃあ、百個くらい買っておくか。他になんなあるかな?」


 オレは野球少年だったのでサッカーは詳しくねーんだよ。


「チームを作ると言うならゴールや笛、ユニフォームなど必要ですが、サッカーを楽しむとあればボールだけでよろしいかと思いますよ」


 そうだな。別に本格的にサッカーしようってわけじゃねーし、今は遊びでやっている。ボールがあればイイか。


「なら、ボールだけでイイや」


 あとはいやねーなと行きかけてストップ。野球用品コーナーに回れ右した。


「野球用品もいっぱいあるな~」


 今更野球をしようとは思わねーが、グローブは欲しいと思ってたのだ。


 グローブは結構複雑にできており、オレも作りなんてよくわからんので、革職人のドワーフのおっちゃんにはいずれは作ってもらおうと密かに思っていたのだ。


 だが、あるのなら欲しい。やっぱ投げるときグローブしてねーとしっくりこねーんだよ。


「おっ、あるある」


 ズラリと並ぶグローブ。つーか、ありすぎだろう。五十メートルほどの棚全てグローブとか悩むわ!


「なーんて、大人買いしちゃうんだけどね」


「子どもなのに大人買いなの?」


 ヘイ、存在をすっかり忘れてたメルヘンさぁ~ん。そんな突っ込みはいらんぜよ。


 部屋の飾り用と使う用と布教用に二百ほど買う。あ、ボールも買っておくか。三百もあれば間に合うだろう。


「バットは……いらねーな」


 サリネに頼めばイイんだしよ。


「こんなもんかな」


 釣り用品も欲しいところだが、それは釣り仲間と来たときにするか。楽しみはあとに取っておかねーとよ。


 さてお次はなにをするかな~と、歩き出し、スポーツ用品コーナーを抜けたらカー用品コーナー売場になった。


「つーか、車まで売ってんのかよ」


 しかも高級車ばかり。ほんと、意味わかんねーな。


「……数千万はしそうなフェラーリが十五万円とか、ファンが見たらダース単位で買うぞ……」


 相変わらずな値段設定に頭が痛くなる。


「ベーが乗ってるものに似てるね」


「オレのはカウンタックモデルだ。跳ね馬じゃねー」


 まあ、メルヘンに言っても無駄だが、拘りは感じら!


 ふ~んと素っ気ないメルヘンさん。興味なしのミタさん。興味津々だけど車の話にはついてこれないレイコさん。ドレミは……イイや。興味あるかどうかもわかんねーし。


「ちょっと見ていくか」


 こちらを見るカー用品コーナーの店員さんが期待と不安の籠もった目でこちらを見てるしな。


 まったく需要がねーところを担当している店員に敬意を評してハンドルくらい買ってくか。それなら部屋の飾りにもなるしよ。


 コンシェルジュさんには尋ねず、テキトーにカー用品コーナーをぶらつく。


「ほんと、なんでカー用品まで作るかね? オレ以外誰が買うんだよ?」


「──うぉーカッケー! これも買いだな」


「って、いたよ、買うヤツッ!」


 思わず近くにあったタイヤをぶん殴ってしまった。


「あ、壊れたのは買い取りますので」


 冷静なミタさんにも突っ込みてーが、まずはカー用品を買い漁る公爵どのを突っ込む方が先である。


 あんた、なんばしよっとよっ!?


「ん? あ、ベー。お前も買い物か?」


「いや、そうだけど、そーゆーあんたはなにしてんだよ!」


「買い物に決まってんだろうが。なに言ってんだお前は?」


 いや、そう言うことを聞いてんじゃねーよ! つーか、オレの方がおかしくなっちゃってるよ! じゃなくて、カー用品買い漁ってどうしようってんだよ! 車もねーのに意味ねーだろうが!


「いや、カッコイイから部屋に飾ろうと思ってな」


「バカがここにもいたわ」


 んぐっ。なんも反論できねー。だが、そんなことで負けぬのがバカの意地。負けないもん!


「……つーか、ゼロファイブで遊んでたんじゃねーのかよ?」


「いや、遊んでたが、道に迷ってな。クレインの町にいたアバールと出会って、話していたらここを教えてもらったのだ。ゼロファイブに似たものが売っていると聞いてな」


 ほんと、根っからの冒険野郎な公爵さまだよ。


「まあ、イイよ。欲しいだけ買ってけ。客は多いほうがイイしな」


 公爵どのも好きなことには金を惜しまない。しっかりカイナーズホームの売り上げに貢献してくれ。んじゃな。


「ベー。車が欲しいんだが」


「買えよ。好きなだけ」


 真剣な目でオレを見る公爵どのの言葉をバッサリと斬り捨てた。


「買って乗りたい」


「乗れよ、好きなだけ」


 なんか嫌な予感がするので立ち去ろうとしたら、公爵どのに肩をつかまれた。つーか、捕まった。


「言いたいことはわかるだろう?」


 わかるから立ち去ろうとしたんだよ。


「なんとかしてくれ。友達だろう?」


 なにやら小悪党が喝上げしそうな顔を見せる公爵どの。柄悪いですよ、あなた……。


「お前、娘を売ったよな?」


 オレの耳に口を近づけ、オレだけに聞こえるように呟いた。


 売ってはいない。差し出しただけだ。


「なんとかしてくれたらチャラにしてやるよ」


 それ、あんたも娘を売ったことになるよ? と言えない状況にいる。


 あの日のことに後悔はしねー。だが、言ったら最後、オレの威厳は急転直下。明日から白い目に晒されるだろう。


 脅しには屈しぬ。が、自分の平和を守れるなら妥協はするのかがオレ。ヴィベルファクフィニーって男よ……。


「……わかったよ……」


「ありがとうよ、心の友よ」


 そんな感謝いらねーよ、心の友よ。


「……なんなのでしょうか?」


「いつもの茶番劇でしょう」


 違う。男と男の友情物語だもん!

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