第756話 とら
と、ニューブレーメンを呼んだものの、その遊園地からここまで来るには二十分くらいかかるらしい。
ジオ・フロント計画が進んでいるんだか遅れているんだかわからんが、二十分でこれるって早くねーか? つーか、どんな交通手段で行き来してんだよ? シュンパネは密封した空間や空間が繋がってないと移動できない道具だろう。
「そこのエレベーターで行き来できるでござる」
はぁ? エレベーターで?
「拙者、自分のテリトリー内は快適にしたい派なので、だいたいのところはエレベーターでいけるようにしたでござる」
なんつーか、アホもそこまでいくとアッパレだと感じるよ。まあ、尊敬はしねーけどさ。
「それ、カイナーズホームにも繋がっているか?」
これが終わったらラーシュに送るもの買いにいきてーから、いけんなら助かるんだがよ。
「あそこはヴィどのの義兄弟のテリトリーゆえ、繋がってはおらぬでござるが、確か第三十六層階からバスでいけるはずでござるよ。前にカイナーズホームにいったときバスが停まっていたでござるから」
突っ込みどころ満載でどこから突っ込んでイイかんかんねーな、畜生がっ!
「……お前、カイナーズホームにいくのかよ……?」
お前、いく必要ねーだろう。能力的には似たようなもんなんだからよ。
「いくでござるよ。あそこ、とらがあるでござるから」
とら? ってなんだよ。虎のとらか?
「知らぬでござるか、とら?」
「知らん。有名なのか?」
なんか当たり前のように言ってるが。
「有名と言うより拙者らの聖地であり最前線でござる」
なんだろう。なんか嫌な予感がしてきたのだが……。
「いや、ネタに困って気晴らしにカイナーズホームに行ったらとらがあるばかりか、店長さんが虎の獣人ときて名前がミコレアとか笑ったでござるよ。しかも、ミコ店長、拙者のファンでござった。まさかこの世界にとらがあるだけでも驚きなのに、拙者のファンがいようとは。……ここはパラダイスでござろうか?」
お前にとってはパラダイスだろうが、オレにとってはインフェルノだよ。なにかが今にも蒸発しそうだわ!
「……もうその話はイイ。オレには関係ないようだしな……」
カイナーズホームにいってもとらなるところには近寄らんと、オレ、ここに決意する!
「あーお茶がうめー」
早くニューブレーメンが来てくんねーかな、畜生が。
「そうでござる。とらで思い出したでござるよ」
もうそれだけでよくねーことだってわかるよ。
「ヴィどの、帝国にいくのでござるよな?」
「ああ、いくよ」
いついくとは決めてねーが。それが?
「そうでござるか。なら、伊集院──ではなく、カーレント嬢に渡して欲しいでござる」
カーレント嬢? って、誰だっけ?
ミタさんに助けを求めるが、どうやらミタさんの知らないヤツらしい。ってことは、ミタさんが来る前のヤツってことか。そんなヤツ、いたっけ?
「マスター。それでは、ベーさまに伝わりません」
「あ、そうでござった」
なにやら主従でわかってねーで、こちらにわかるように言えや。
「実はこれを公爵さまに渡して欲しいのです」
と、バンベルがどこから宝箱っぽいものを出して炬燵の脇に置いた。なんだい、それ?
「宅配ボックスでござる」
……また、この世界にケンカ売るようなもん出して来たな……。
「誰がなにを宅配すんだよ?」
いや、王都にそんなシステムがあると、以前、聞いたことはある。
聞いた当時は時代の先をいってんな~と、感心したが、グレン婆を知った今では呆れることしかできねーよ。
「カイナーズホームで通販を始めたようで、メンバー会員になると二百万円で貸してくれるでござるよ」
……オレもだけど、転生者って碌なことしねーな……。
「つまり、カイナーズホームで通販すると、それに届くってことか?」
通販なんてやったことねーから聞きかじりだけどよ。
「そうでござる。まあ、早い話、転移ボックスでござるな」
この世界の転移、気軽過ぎじゃね? ってまあ、気軽に転移しているオレのセリフじゃねーか。気軽に使ってごめんなさい。
「公爵どのに渡せばイイんだな?」
「そうでござる。あ、娘さんに渡してくれとのことづけもお願いでござるよ」
公爵どのの娘? って、なんでお前が公爵どのの娘のこと知ってんだよ?
「あ、あたしがお預かりします」
と、ミタさんがいきなり会話に割り込んで来た。
「そうですね。ミタレッティーさまにお願いしましょう、マスター」
「そうでござるな。ミタどの、お願いするでござる」
「はい、お任せください。必ずお渡ししますので」
なにやらオレ抜きで決まったようだ。まあ、なんでもイイさ。勝手にしろ、だ。
除け者にされたオレはお茶と茶菓子をいただいた。
……にしても宅配ボックスか。カイナーズホームにいったらちょっと聞いてみるか……。
そんなことを考えていたらエレベーターの扉が開いてニューブレーメンどもがやって来た。
「もー! せっかく楽しんでたのに!」
と、不思議の国からやって来たような服を着た、十六、七のカバの耳をした少女が現れるなり怒り出した。
「そうだよ! あとちょっとで詰め缶落とせそうだったんだから」
と、真っ白な少年がカバ耳少女の怒りに続いた。
「お腹減った~」
十八、九の……って、これはアリザとしか言いようがねーですたい……。
「まあまあ、落ち着いて。皆が独占したら他の子たちに悪いでしょう」
なにやらニューブレーメンの纏め役のようなお姉さん的立場のような、我が頭の上の住人どの。
ってことは、カバ耳少女はリリーで、真っ白な少年はルンタか!? お前、いつの間に人化できるようになったんだよ!?
なんて驚いてみたものの、オレのスルー拳は意識してさえしてればコンマ三秒で発動できる。
おっと。百倍ではダメか。ならば、スルー拳二百倍にするまでよ!
「ベー、どうしたの? なんか笑ってるけど」
「いつもの脳内喜劇が開幕しただけよ。放っておきなさい」
ムムッ。今回の敵は強いぜ。ならば、スルー拳五百倍よっ! オレは負けん!
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