第751話 うっ、頭が……
ゾクゾクが治まる頃、なんのトラブルもなくエリナのところへ到着した。
洞窟に続く出入口の幻惑は消されており、犬耳のナイスミドルが一人(?)、立っていた。
「……獣人、ではないな。なんなのだ、あれは……?」
なんだっけ? なんか、おしいー! としか記憶にねーよ。
「番犬のイチ蔵です」
と、ドレミが教えてくれた。つーか、君たちの力関係ってどーなってんのよ?
「いらっしゃい。歓迎するよ」
番犬のイチ蔵さんが運転手席側にやって来て笑顔で迎えてくれた。
「おう。邪魔するよ。後ろの二人も入れてくれな」
ゼロツーの窓から顔を出し、親指で後ろを指した。
「大丈夫なんだろうな? 結構な実力者のようだが」
さすが番犬(?)。そう言うのがわかるようだ。
「大丈夫だよ。ちゃんと仕掛けは施しておいたからさ」
人外でもオレの結界に気がつくヤツはいないんだ、人の域から出てないヤツにわかる訳はねー。飛んで火に入る夏の虫よ。
「えげつない村人さね。女だろうと容赦なしとは」
オレは女と見れねーヤツは女扱いしねー主義なんでな。
「まあ、あんたがそう言うなら通すよ。つーか、こんなおっかねー村人と対峙しなくちゃならんあの二人に同情するよ……」
なに気に失礼な番犬やな。オレは根は優しいヤツだって有名なんだぞ。まあ、オレの妄想世界では、だがよ。
ゼロツーを発進させ、洞窟の中へと入る。
「……なんさね、この無駄に精巧な石像は……?」
なんか増えてね? 前に来たときは二体しかなかったと思うんだが……。
「侵入者撃退用ゴーレムです」
「ここに侵入しようとする物好きなんていんのかい?」
なんて言ったら全員がオレに目を向けました。いや、オレも物好きだけど、オレ用じゃないからねっ。来るなって言うならオレは喜んで来ないからな、こんなとこ!
ゼロツーから下りて一時館の玄関まで来ると、ヤヴァイものが忽然と現れた。
「クフフ。ここは乙女の花園。穢れた者は何人たりとも生かしては返しませんわ」
お前らが一番穢れてるわ! と言いたいが、怖いのでご隠居さんの影に隠れた。
「……お前さん、このためにわしを連れて来たのか……?」
「当たり前だろう! こいつらに勝てそうなの、ご隠居さんくらいなんだもん!」
亀の甲より年の功。とはちょっと意味合いは違うが、あの汚物どもに勝てそうなのは沢山の経験を持ち、達観した者でないと太刀打ちできない。冷静に対処できる者が汚物を制するのだ──と思いたいです……。
「クフフ。嫌ですわ、ベー様ったら。お姉様もわたしもベー様は不可侵な存在。いえ、聖なる存在です。あなた様を傷つける者がいまらわたしたちが全力で排除しますわ」
だったら直ぐに自傷しろや。オレのために消えろ。つーか、腐の分際で聖とか語ってんじゃねーよ。本当に聖なる者に謝りやがれっ!
と、ご隠居さんの背中で念じてみる。面と向かって言ったら腐に浸食されそうで怖いんだもん。
「ベーが怖がる姿って、やっぱりおもしろいわね」
なんもおもしろくもねーよ、この腐れメルヘンがっ! つーか、今こそ浮遊型移動肉壁メルヘンの力を見せてみろ! この危機は君にかかっているんだぞ!
「クフフ。お久しぶりです、プリッシュ様。今日も可愛らしいことで」
はぁ? 久しぶり? 前に会ったことがあんのか? プリッつあん、ここに来るの初めてだよな? 来たことないとか言ってなかったっけ……?
「しー! 前のことはなかった約束でしょっ!」
「おっと。そうでした。では、初めての出会いと言うことで、自己紹介を。わたくし、お姉様の僕、コンゴウジアヤネと申します。どうかアヤネとお呼びください」
「あ、わたしは、プリッシュよ。こっちがミタレッティーで、ベーの後ろにいるのが幽霊のレイコさんよ」
「ベー様の専属メイドのミタレッティーと申します。お見知り置きを」
「ベー様についてる幽霊のレイコです。よろしくです」
なんだろう、このデジャヴ? 前にもこんなことが……うっ、頭が……!
突然の頭痛に、思わず崩れ落ちてしまった。な、なんだって言うんだよ……?
「ベー様、どうしたんですかっ!?」
ミタさんの腕に支えられるが、なぜか奈落の底に落ちていきそうな感じに襲われる。
「……わ、わかんねー。なんか突然頭が痛くなった……」
なんだよ、これ? オレ、なんかの病気にかかったのか?
「アヤネ! 部屋に運んで!」
「クフフ。お任せあれ」
なにか周りの声が段々と遠くなり、意識が突然途切れてしまった。
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