第748話 イタリア~ンなおばちゃん
「……なにしてんだ……?」
フォーク(農具ね)を担いだ親父殿が不思議そうにオレたちを見ていた。
「家畜小屋で朝食を」
カップを掲げ、オシャレ気に言ってみる。
なにか冷たい目をする親父殿。元ネタを知らない方にら受けないか……。
「朝食ならうちで食えよ。つーか、よくこんなところで食えるな?」
「ド田舎に生まれて十一年。家畜の臭いなど気にもならねーよ」
掃除は毎日してるし、結界術で通気性もよくしてある。他の家の家畜小屋に比べたら月とすっぽんさ。
「まあ、そうだけど、これから掃除すんだから家で食えよ」
テーブルに目を向けると、ちょうど食べ終わったようだ。
「魔王ちゃん。続きは家の中だ。あ、その前に風呂に入ってこい。よく見たら結構汚れてんじゃねーか。白ドレミ。案内してやれ」
「ニャー」
そこは猫なのね。
オレはどちらかと言ったら犬派なので、愛らしいとは思っても萌えることはない。あの猫バカを思い出して猫にしてしまったが、今からチェンジしてもらうのって可能かな?
まあ、今更変えるのもなんだし、猫は猫で撫で心地もイイ。今はこれでイイや。
空になった皿やコップを仕舞い、テーブルや椅子を土に戻した。
「お前の土魔法、便利だよな。おれも魔法が使えたらやってみたいよ、そう言うの」
親父殿は肉体強化系の魔術が得意で、火や水の魔術は不得意と来てるのだ。
「理を理解したら魔法は使えるんだ、やってみたらイイさ」
魔法は何歳からでも始められると、魔法使いのばーちゃんが言ってた。
「その理を理解するのが難しいんだろうが。お前と一緒にすんな」
あればできる。やればできる。考えるな、感じろでやれば大丈夫だ!
「はぁ~。魔法はいいや。それより掃除するから外に出ろ」
「つーか、まだ親父殿がやってんのか?」
チャンターさんが働き手を連れて来たから任せたのかと思ってたよ。
「これはおれの仕事だからな」
なにやら誇らしげに言う親父殿。まあ、親父殿がそう思ってんならオレが口出すことじゃねー。好きにしろ、だ。
「そっか。んじゃガンバってくれや」
任せて家畜小屋を出た。
そのまま館に行こうとしたら、プリッつあんが飛んでいるのが見えた。
そー言や、朝の散歩がプリッつあんの日課だっけ。
いつも欠かさずってわけじゃねーが、用がなければやってる。と、周りから聞きました。ハイ、プリッつあんの行動に興味がなくてすみません。
「あ、ご隠居さんをほっといたままだったっけ」
踵を返して宿屋に向かった。
二四時間対応かどうかは知らんが、宿屋の開いており、なんかイタリア~ンなおばちゃんがカウンターにいた。
……どっかで見たような気がするんだが、誰だっけ……?
「おや、久しぶり。旦那ともどもよろしく頼むよ」
旦那? って、イタリア~ンなおっちゃんの嫁かっ!? バリアルの街で挨拶したぐらいだったから思い出せんかったわ。
「おう。こっちこそよろしく頼むよ。ってか、宿のほうもやってんのかい?」
ノータッチなオーナーでごめんなさい。
「旦那の食堂は夜から営業だからね、仕込みしている間はこっちで働かせてもらってんのさ」
「宿屋のメンツ、揃ってねーのかい?」
いねーなら従業員追加しねーとな。婦人に言って。
「いや、掃除は館からメイドが来てくれるからね、女将さんとアマリアとわたしで充分回せてるよ」
まあ、昨日が特別で普段はそんなに泊まってねーか。
「もし足りないようなら婦人──って知ってるよな?」
あれ? 婦人と顔合わせしたっけ? ってか、なんでイタリア~ンな夫婦がここにいるんだ?
「知ってるよ。ここには、フィアラさんに連れて来てもらったからね」
あ、ああ。婦人に丸投げしましたっけね。記憶の彼方に置きっぱなしでした。重ね重ね申し訳ございません!
「ま、まあ、婦人とよく話し合ってやってくれや」
無能なオーナーが口出すより、有能な商会長代理(あれ? 婦人の肩書きってなんだっけ?)にお任せした方が上手く動きますからね。
「アハハ。わかったよ。フィアラさんは頼りになるからね」
悪意なし言葉の剣を必死に避ける。当たったらたぶん、オレは死ぬ……。
「と、ところで、ご隠居さんは起きて来たかい?」
「いや、まだ起きてこないよ。昨日は遅くまでお客さんとしゃべってたようだからまだ寝てんだろうよ」
睡眠はそんなにいらないようなことを言ってたが、まったく必要ないってことはねーのか。人外は謎が多いぜ。
「なら、起きて来たら館に来るように伝えてくれや。あ、朝食を済ませてからだぜ」
「わかってるよ。わざわざ館に行かすのも悪いしね。ベーも食べていったらどうだい? 旦那も喜ぶよ。昨日は食べさせられなかったと嘆いていたからさ」
「ワリー。館で食べるよ。やることもあるんでな」
さすがに魔王ちゃんを一人にさせられんよ。勇者ちゃんとバトルとかされたらたまったもんじゃねーわ。
「そうかい。まあ、暇ができたら来とくれ」
「おう。そんときはたっぷりと旦那の料理をいただくよ」
イタリア~ンな嫁さんに挨拶して館へと向かった。
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