第747話 デビルベー

 ふっと思った。


 魔王ちゃん、なんで魔王って名乗ってんの? と。


 勇者ちゃんは転生者とわかるが、魔王ちゃんはそんな感じはしない。魔力の感じからして生命体としては高い方だが、人外レベルって感じはしねー。肉体の方もA級冒険者並み。魔王と名乗るにはちと弱い。


 なんの種族か知らんので年齢はわからんが、言動から見て、若いだろうと思う。下手した見た目通り、十歳なのかもしれん。


 まあ、この際、種族も能力も見た目も過去もどうでもイイ。今の魔王ちゃんを見て判断すると、この子、王の資質持ってんじゃね? と思えて来た。


「魔王ちゃんは、なんで魔王と名乗ってんの?」


 直球で聞いてみた。


「父上様の意志を継いだからだ!」


 意志を継ぐ。ってことは、父上様とやらは魔王として君臨し、なにかを支配していたってことだよな? つまり、歴史を持っている集団、または国ってことだ。


 この大陸で魔王が支配する国なんてねー。つーか、魔王なんて魔物に毛が生えたようなもの。力で支配する獣の集団だ。魔王ちゃんのような子が形成できる環境ではねー。


「そうか。そりゃ大したもんだ。が、なぜ父上様とやらのもとから離れたんだ? つーか、魔王ちゃんの故郷ってどこよ? オレ、結構な数の種族と会ってるけど、魔王ちゃんみたいな種族、初めて見たよ」


 天国から堕ちて来た的な天使っぽい種族なんて、聞いたことねーよ。いや、このファンタジーな世界には知らない種族いっぱいいるけどさ。


「わたしはシュリーンヴィブロス族。異界に住む者だ」


 ハーイ、異界入りましたー!


 って、なぜか居酒屋ふうに言ってしまったかはわからんが、ボディーブロー食らったかのように、徐々に効いて来るぜ……。


「異界、ですか。随分と遠いとこから来ましたね」


 いや、異界がどこにあるか、近いだか遠いだかは知らんけどねっ!


「そうだな。異界渡りは滅多なことでできないが、ハルマのオーブを七つ集めれば異界門は開き、この世と行き来はできる」


 ヘイ、問答無用でスルーだぜ☆ あと、突っ込みもノーサンキューだぜっ☆


「ふ、ふ~ん。で、その異界門とやらは開きっぱなしなのかい?」


 開いてんなら問答無用で閉めにいかしてもらいます。


「勇者が壊した」


 ゆ、勇者ちゃんよ。あなたは、この短期間にどんな大冒険を繰り広げてたのよ? 小説にして教えて欲しいわ!


「ってことは、魔王ちゃん、帰れないのか?」


「わからない。でも、帰っても意味はない。もう国は滅びたから……」


 なにやら重い出来事があったようです。それも小説にして教えてくれや!


 って、まあ、魔王ちゃんが話したくないのなら聞きはしねーが、重い子に関わっちまったな~。


 たぶん、これもオレの出会い運が成せたこと。嘆いてもしょうがねー。なら、イイ出会いにするべく動け、だ。


「魔王ちゃんは、これからどうするんだ?」


「強くなる。誰にも負けないくらい強くなる。強くなって、誰も泣かないで済む国を創る」


 強い眼差しでオレを見る魔王ちゃん。マジなようです。


「強くなりたい! 勇者にも負けない力が欲しい! なにもできないで負けるのは嫌だ!」


 なんだろうな。運がイイのはオレか? それとも魔王ちゃんか? 都合のイイことばかり起こりやがるぜ……。


「その道は辛いことばかりで、報われないぜ? それどころか憎まれ、罵られ、否定されるばかり。幸せなんかねーぞ」


 オレならごめんだな、そんな生き方は。


「わたし以外が幸せになることがわたしの幸せだ!」


 甘っちょろい理想で、お花畑な思想だ。だが、オレにとっては好都合。


「イイだろう。オレが魔王ちゃんを王にしてやる。誰にも負けない手段を与えてやるよ」


 オレがスローライフを送れるためにな。ククッ。

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