第745話 村人族

 いずれまた出会うだろとは思ってたが、まさか村で出会うとは夢にも思わなかったぜ。


「随分とのんびりしてんだな。女二人ぶらり旅かい?」


 普通の女には不可能な時代だけどよ。


「まあ、そんなところさ」


「そうかい。そりゃ羨ましいこった」


 ぶらり旅って言葉、あるんだと感心しながら金髪アフロのねーちゃんに答えた。


「……ベーと会話できるとか、世の中変わった人はいるものなのね……」


 あらやだ奥さん。変わった種族の方がなにか言ってますわよ。


「なんか不思議なのか増えてるね。そっちの、まさかダークエルフかい?」


「おう。ダークエルフだよ。そこで浮いてんのは羽妖精で、そこの小動物はスライム。オレの後ろにいんのは幽霊だ。ちなみにそこのじいさんは……なんだろうな?」


 見た目は人だが、どうも人じゃない感じがする。ご隠居さんってなに種族なんだ? 


「わしは、魔人族さね」


「へ~魔人族だったのか。そりゃえげつない魔力を持ってるはずだわ」


 人族の上位版って言ってイイのかわからんが、肉体的にも魔力的にも人族を凌駕すると聞いたことがあるか。


 この大陸にも魔人族の国はあるが、人口が少なく、帝国を越えた先にあるので、この辺では見られねー存在だ。


「お前のえげつない性格と比べたら可愛いもんさね」


「……オレ、素直でイイ子だよ……」


 なんて訴えてみるも誰も聞いちゃいねー。


 オレを無視して席へとつく皆さん。一人ぼっちにしないでー!


「で、ねーちゃんたちはなにしに来たわけ? こんななにもねード田舎によ?」


 同席者から冷たい視線を感じますが、気にしなければないも同然。オレ、気にしないもーん。


 そんなオレの問いに、金髪アフロのねーちゃんは、テーブルの脇に立てかけていた剣をつかんでオレに見せた。なによ?


「隣のアバール商会で買ったんだが」


 それが?


「わたしは、これを買ったわ」


 金髪ロングのねーちゃんが短剣を出して見せた。


 だからなによ?


「魔剣が、それも一級品のがさも当然のように売られ、帝都にもないほどの上質な宿屋がある。広場には隊商が引っ切りなしにやって来て商売をしている。しかも、いろんな種族が闊歩している。これでなにもないと言うなら他の村は無人の野だよ」


 ……う、うん。なんも反論できませぬ……。


「ゆっくりしてってくださいまし」


 もうそうとしか言いようがありません。たくさんお金を落としていってください。


 ねーちゃんたちとの会話を打ち切り、無限鞄からチェス盤と駒を出した。早速やりますか。


「ミタさん。緑茶淹れてくれや。ご隠居さんはなに飲む?」


 チェスや将棋をやるとには緑茶が合うんだよ。気分的に、だけどよ。


「熱燗を頼む。最近、ニホン酒にはまっててな、毎晩飲んでるさね」


 渋い趣味だこと。


「ミタさんよろしく」


 できるメイドに不可能はない。つーか、ミタさんにできないことってあんのかね?


「チェスって、帝国でも上位貴族しかしないものをやるとか、なんなんですの?」


 意外と広まってねーんだな。三年前くらいに公爵どのに教えたのによ。


「あ、公爵どので思い出した。公爵どの、どこにいった?」


 食堂にいなかったが、帰ったのか? 帝国いきのこと相談したかったのによ。


「公爵様でしたらベー様が作られた乗り物で遠出しているようです」


「まだ乗ってんのかい。公爵どのも飽きねーな」


 まあ、作り手としては嬉しいことだが、こんなにいて大丈夫なんか? 公爵としての仕事とかあんじゃねーの?


「たまにシュンパネで帰っているようですよ」


 そう言や、万が一のときのために渡しておいたっけ。忘れったわ。


「ドレミ。シュンパネの在庫ってどんくらいある?」


 オレは在庫ゼロです。


「必要であれば幾らでも用意できます。何枚必要ですか?」


「もう、なんでもありだな、こいつは……」


「わたしたち、どこか違う世界に迷い込んだのかしら……」


 ファンタジーって言う理不尽な世界にだよ。


「じゃあ、三十枚くらい出してくれ」


 と、ドレミがテーブルの上に上がると、どこからかジュラルミンケースを出現させた。わーお。ファンタスティッ~ク。


 なんて義務感で驚いて見せながらジュラルミンケースを開ける。


「二百枚入っております。お好きなだけお取りください。足りなければまだ出します」


 ど、どんだけ創ってんだよ、あの腐れは? ほんと、魔力の無駄遣いばかりしやがるぜ……。


 まあ、頼んでいる身としては文句は言えんか。いろいろ頼んでるし、助けられてるからな。


 中にあるシュンパネをテキトーにつかみ、ご隠居さんに渡した。


「ご隠居さんには不要かも知れんが、万が一のときのためにやっとくよ。それを掲げて目的地を言えば瞬間移動するから。ただ、一度いったことのある場所でないとダメだから、そこんとこご注意だ」


 残りは無限鞄に仕舞う。オレも万が一のときに必要になるかも知れんからな。


「……なあ、ベーよ」


「なんだい?」


 なにやらマジな顔を見せるご隠居さん。


「お前さん、なんて種族さね?」


「いや、人族だよ!」


 なに言ってんのよ、このご隠居さんは?


「え! そうなの。わたし、村人って言う種族かと思ってた」


 驚くメルヘン。そんな種族いねーよ!


「あ、あたしもそう思ってました」


 ミタさん、まさかの同意。


「わたしも村人族かと」


 さらにレイコさんまで!


「オレは人から生まれた正真正銘の人だよ!」


「「「「「「説得力ねー」」」」」」


 まさかの大合唱。誰かオレを人だと証明してぇぇっ!

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