第744話 勢揃い

 食堂に入ると、懐かしいメンバーが揃っていた。


 奴隷商のじーさんに旅の鍛冶職人をしているドワーフのおっちゃん、吟遊詩人のあんちゃん、国を一年かけて回る行商人のおっちゃん、放浪剣士、傭兵、冒険者、旅人、薬師、大工、大道芸人と、いろんな職種のヤツらが酒盛りしていた。


「おう、ベー。邪魔してるぞ」


 代表して奴隷商のじーさんが持っていたカップを掲げると、他のヤツらがそれに続いた。


 ノリイイヤツらだな。


「よく来たな。歓迎するよ」


 いつもの言葉を皆に送った。


「随分と弾んでんな」


 結構前からやっていたようで、どいつも顔を赤らめ、たくさんの酒瓶がテーブルを占めていた。


「なに、お前の知り合いだってわかったら盛り上がってな。こうして乾杯した訳よ。カンパーイ!」 


 じーさんの音頭に皆がそれに応えた。 


「しかし、どうしたんだい、勢揃いして? 来る時期じゃねーだろう」


 求められればどこへでもな奴隷商のじーさんはともかくとして、ほとんどのヤツは決まった時期に村に訪れる。この時期に来るなんてただ事じゃねーだろう。


 一斉にしゃべり出す酔っぱらいども。わかんねーよ。


「まあ、楽しくやってんならなんでもイイよ。倒れるくらい飲め。宿代は負けてやれんが酒はタダにしてやるからよ」


「さすがベー。今日は飲むぞー!」


 おおっ! と皆が大合唱。近所迷惑……にはならんか。ゼルフィング家を覆うように結界敷いてるから。


「いいの? フィアラに怒られるわよ」


 知り合いのために造ったところだが、ゼルフィング商会の管理となっている。オーナーとは言え、好き勝手にやったら示しがつかない。と、婦人に言われたんです。


 まあ、酒を奢るのも問題と言えば問題だが、ゼルフィングの宿屋で出している酒は、以前、カイナが出したもの。タダで仕入れたものだ。仕入れ値ゼロの酒で儲けんのも後味がワリーし、酒はまだ腐るほどある。あとでこそっと補充しておけばイイさ。


 ……ドレミ、頼むな……。


 と、超万能生命体に丸投げです。


「ニャー」


 畏まりましたとばかりに黒猫になったドレミが鳴いた。あとでたくさん可愛がってやるよ。


「つーか、席ねーな」


 カウンター席七席と四人用テーブルが四つ。二人用が三つしかねー食堂と、結構余裕を持って造ったんだが、さすがに二十人近くも来るといっぱいになるか。


 イイ感じになっているところを詰めてくれっても野暮だ。どうするよ?


「バリュートのところにいけば?」


 と、プリッつあんが提案。ってか、バリュートってなに?


「うん。知ってた」


 なにかものすごくカワイイ笑みを浮かべるプリッつあん。オレにトキメキを求めてんなら無理だぞ。オレ、ボン・キュー・ボンが好みなんでよ。


 ……なんでオレの周りはスラリ~ン──殺気! いえ、なんでもありません。女性は存在するだけで女神です……。


「どうしたさね? 顔を真っ青にして?」


「……ちょっと女神に殺されそうになった……」


「はぁ? なに言ってるさね?」


「気にしなくていいわよ。ベーの喜劇はベーにしかわからないんだから。おじいちゃん、こっちよ」


 床に蹲るオレを無視してどっかに行っちゃうメルヘンと人外。もうちょっとオレに優しさをください……。


「ベーさま。いきましょう」


 そんな優しいミタさんにフォーリンラブ。はしないけど、誰も助けてくれないのなら自力で復活するのみ。オレのコスモよ、燃えあがれっ!


 なんて突っ込み役もなし。なんか無駄に優しい笑みを浮かべるミタさんに案内してもらい、バリュートなるところへ向かった。


 と、言っても食堂の奥。なにやら小洒落た扉を開くと、これまたオシャレな内装をした食堂──ってよりレストランと言った方がしっくり来るところです。


「あ、イタリア~ンか。そう言やあったっけ」


 女性にも喜んでもらえるところを、とかなんとか婦人が言ってたっけ。ってか、初めて来たわ。


「と言うか忘れてただろう」


 なにやらオシャレなコック服を着るイタリア~ンなおっちゃん。ハイ、完全無欠に忘れてました。ごめんなさい。


「ったく。任せたら放置するヤツだとは聞いてたが、本当に放置するとかびっくりだよ」


 オレは一旦任せたら最後まで任せる主義だ。とか言ったら殴られそうなのでお口にチャックです。


「ワリーワリー。でも、不自由はさせなかっただろう?」


 婦人が、だけど。


「器材も食材も一流過ぎて逆に不自由だよ。覚えるのがやっとだわ」


 そこはイタリア~ンなおっちゃんのガンバリ次第。さらに気張れや。


「でもまあ、誘ってくれたことには感謝してるぜ。料理人として最高の環境で料理させてもらえんだからよ」


 それはなにより。旨いものをたくさん作ってくれや。


「せっかく来たんだ、なんか食ってってくれ。なにがいい?」


 いらねーとは言えねーこの状況。誰かいねーかと振り返ったら魔王ちゃんがいました。いつの間に!?


「さっきからいましたよ」


 あんたもいたんかい!? と叫びたいのをガマンする。キャラは強いのに存在感ねーから困るよな、レイコさんって。


 ま、まあ、助っ人がいるならじゃんじゃん持ってこい。オレも二口までなら食うからよ。


「任せろ。腕によりをかけて作って来るからよ」


 いや、そこまでガンバんなくてもイイんだよ。もう夜なんだしさ……。


 ここは魔王ちゃんに期待し、メルヘンと人外が座る席に目を向けてびっくり。


「……ね、ねーちゃんたち、来てたのか……」


「ああ。帰る途中に寄らしてもらったよ」


「ご機嫌よう」


 そこにいたのは金髪アフロと金髪ロングのねーちゃんたちだった。

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