第742話 真髄

「ご隠居さん、今日泊まっていくだろう?」


 女子会はパジャマパーティーまでが組みである、と教えちゃいました。ごめんなさい。


「ああ、そのつもりで来たさね」


 それはよかった。夕食食わしてさようならでは誘った手前、申し訳ねーからな。


「サプル。空いてる部屋あるか?」


 食後はいつもなら片付けで厨房に下がるのだが、なぜか食後の白茶を飲むマイシスターに尋ねた。オレ、この家のこと、なんも知らねーです。


「ないよ」


 と、あっさりとした答えが返って来ました。あ、そう言や、全室埋まってるとか前に言ってたっけな。


「んじゃ、宿屋にいくか」


 確かやってたよね。宿屋の食堂で……あれ? 食ったよね? いつだったかは忘れてしまいましたが。


 なにかテキトーに生きてんなと非難されそうですが、それがオレだと胸を張って言えるオレにびっくりです。前世では謙虚に生きてたのによ……。


「なんかウソついてる顔してるわ」


 ハイ、ウソですとも。それがなにか? 


 エスパーメルヘンをつかみ、メイド型ドレミの頭にパイ〇ダーオン。ちょっと黙ってなさいよ。


「ご隠居さん。寝床に案内するよ」


「あ、ベー。泊まるなら女将さんに伝えて来るわ」


 と、いつも囲炉裏間にいる……なんだっけ、このねーちゃん? 確か、親父殿の従妹だか姪だとか言っていた記憶はあるんだがよ……。


「ああ、頼むわ」


 囲炉裏間を出ていくねーちゃん。


「なんで、ねーちゃんが宿屋にいくんだ?」


 事情を知っているだろう親父殿に尋ねた。


「アマリアは宿屋で働いてんだよ。宿屋は一般の客も来るからな」


「宿屋、客来てんだ」


 オーナーのオレが言うセリフじゃねーが、宣伝もしてねーのによく客が来んな? 看板もあげてねーのによ。


「お前の知り合いばっかりだがな。つーか、お前の交友関係の広さに今更ながらにしてびっくりだよ。どうやったら知り合えるんだよ? 意味わかんねーわ」


 出会い運の成せる業、としか言いようがないな。だいたい村か村の周りで出会うしよ。


「親父殿だって村に来てオレと知り合った口だろうが」


「あ、いや、そうだけどよ、この村そんなに有名でもないだろう。しかも、ここ、村の外れだしよ」


「いや、昔はオババのところに通ってたしな、結構いろんなヤツと会えるもんだぜ」


 集落には村唯一の宿屋があるし、冒険者ギルド(支部)がある。薬を求めてやって来る者も多い。あと、広場で隊商相手に商売もしてたしな。


「よそ者を避けるのが普通の村人だが、お前さんは物怖じしないいどころか自分から近寄るからな」


「面白いヤツがいたら話しかけたくなるのが人情だろうが。無視するなんてもったいねーよ」


「そんな人情出るのお前さんだけさね」


「まったくだ」


 ご隠居さんの突っ込みに同意する親父殿。仲よしだね、あなたたち……。


「なんでもイイよ。ご隠居さん。宿屋に案内するよ」


 これ以上いたら理不尽な突っ込みに心が折れそうだわ。


 いつものメンバーになぜかバリラが加わっている。なんで?


「この館に部屋がないから宿屋に泊まっているのよ」


 そうでした。誘っておいて部屋を用意しないとかごめんなさいです。


「いいわよ。ベーの宿屋は下手な高位貴族の屋敷より豪華ですしね。いつでも入れるお風呂にいつでも食べる美味しい料理。たくさんの珍しい本に翼に優しいふわふわのベッド。出ていけと言われても全力で駄々をこねるわ」


 駄々って、キャラじゃないことすんなよな。まあ、気に入ってくれたのなら嬉しいがよ。


「まあ、贅沢を言うのならもうちょっと広いと助かるわね。翼を広げると壁にぶつかっちゃうのよね」


 それは翼人族ならではのことだな。人のサイズで造っちゃまったからよ。


「もうしばらくガマンしてくれ。そのうちバリラの家を造ってやるからよ。まあ、場所はここじゃなくなるがな」


「別に宿屋で構わないわ。家だと掃除とか大変だし」


「ちゃんとメイドもつけてやるよ。バリラにいろいろ世話になってるし、いずれ学校を任せたいしな。初代ゼルフィング学校の校長殿」


 ヤオヨロズ国の発展のためにも学校は不可欠。未来のために優秀な人材を育ててくださいな。


「……また面倒なことを押しつけてくれますわね……」


「面倒と思うなら誰かに押しつけることだな。教師は多いにこしたことはねーしよ」


 元A級冒険者。引退した冒険者で教師に向きそうなヤツくらい知ってんだろう。金をやるから引っ張ってこい。と、口にはしないが、賢いバリラさんならわかるでしょう。


「……そう、ね。ベーを見習って押しつけることにしますわ……」


 理解してくれたようでなにより。さすがバリラだぜ。 




「なんだか一番苦労してないベーが一番の丸儲けって感じね」




 それが丸投げ道の真髄よっ!

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