第740話 学びたいときに学はなし

 ……魔王ちゃんの頭の上にある黒い輪っか、なんだろう……?


 種族的特徴は、ときとして侮辱的な行為になる。なので、聞きたくてもなかなか聞けないときがある。


 エルフの耳、長いね。なんて言ったらセクシャルハラスメントになるから注意しろよ。


 モコモコガールに負けない量を食べる魔王ちゃんを眺めながら、そんなことを考えていると、食堂にメイドさんが集まり始めた。料理教室でも始めんのか?


 囲炉裏間にいるから邪魔にはならんだろうが、皆さんが働いているところで優雅にコーヒーを飲むのは気が引けるな。まあ、邪魔だと言われるまで動かんがな!


 食堂に入って来たメイドさんたちは、厨房から鍋やら重箱を持つメイドさんからそれらを受け取り。テーブルに並べる。


 あ、料理の詰め込みか。頼んでおいて忘れったわ。


 おしゃべりしながら楽しそうに詰め込むメイドさんたち。うち、結構アットホームな職場なんだな。


 まあ、なんも携わってねーオレがどうこう言う資格はねーんだけどさ。


「ベー様。詰めたのからお願いします」


 おっと。のんびりしてだが、無限鞄は個人認識制(?)入れるのも出すのも持ち主にしかできなかったっけ。


「あいよ」


 メンドクセーが、こればかりはしょうがねー。ガンバレや、オレ。


 メイドさんの数が多いので差は離れるばかり。入れるだけで午前中かかっちまったよ。


「ありがとー、あんちゃん。保存庫に余裕ができたよ」


 保存庫からも持って来てたんかい! 道理で多いはずだよ!


 ものに触れるだけで無限鞄に入ってくれるのに、やってもやっても増えるから不思議に思ってたんだよ。クソ!


 なんて言えるわけもなく、サプルやメイドさんたちにありがとうと伝える。


「つーか、何人分入ったんだ?」


 入れるのが精一杯で、なにをどれだけ入れたかわかんねーよ。


 無限鞄にざっと意識を向けると、千以上のものが入っていた。


 ……これ、オレが生きてる間に消費できんだろうか……?


 ま、まあ、それを使っちゃうのがオレの今生か。同じくらいの食料を一年で消費してんだからよ……。


 お昼になり、家族が集まって来る。つーか、誰がいねーかわかんなくなってきたな。


 さすがにトータがいねーのはわかるが、あと誰がいねーんだ? ってか、顔は知ってるが名前が出てこねーのが何人かいます。誰でしたっけ?


「ベー。秘密の牧場をいじっていいか? 開墾して畑を作りたいんだが」


 と、名前を思い出そうとしてたら、親父殿がそんなことを口にした。


「構わんよ。ただ、南側には手を出すなよ。さらに秘密の牧場があっからよ」


 あ、そう言や、しばらくいってなかったな。生きてっか? まあ、死んでたらしゃーねーか。実験の意味もあったしよ。


「……お前、犯罪とか止めてくれよ……」


「失敬な。清く正しく……はねーけど、お天道様に顔向けできねーことはしてねーよ」


 たまに視線を反らすことはしてますがね。


「なんだよ、お天道様って? お前、変な宗教でもやってんのか?」


 あ、太陽のことお天道様って言わねーか。言い回しがねーって不便だぜ、まったくよ。


「やってねーよ。ワリーことしてるヤツは夜や暗いところで悪さするだろう。それの例え話だよ。まっとうに働いているヤツは太陽の下で働く、って感じだ」


 ほんと、風流も洒落もねー殺伐とした時代だぜ。


「相変わらず変なこと知ってるわね、ベーって」


 あ、バリラ、そう言やいたね。妹……なんっつたっけ。ハルヤール将軍のところに行くまでは覚えてたんだが……まあ、そのうち誰が口にすんだろう。


「まーな。学びたいと思ったら壁の落書きからだって学べる。いろんな方向に意識を向けて学べ、だ」


 知識は積み重ねで、日々の努力だ。いっきに身につくことはねー。


「学びたいときに学はなし、ってな。まあ、オレが勝手に言ってるだけだが、知りたいことを知るにはそれを理解できる知識がねーと始まらねー。パンを知らなければ食べられるか食べられないかも理解できない。それと同じだ」


 ざっくりとした説明だが、別に伝えたいわけじゃねー。これはオレの考え。オレが納得できればイイことだ。


 なんか微妙な空気になったが、構わず昼食をいただいた。


 午後は出かけるの止めて読書でもするか。なんか偉そうなこと言ったら知識欲が湧いて来たぜ。

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