第719話 はい?

 軍用車輌の後部座席って、結構前の視界がワリーのな。


 前世は車の免許は持ってたし、若い頃は通勤やドライブにと車を走らせていた。なんで、車は自分で走らせる方が好きである。


 まあ、走り屋じゃないので峠を攻めたり、車を改造はせず、流れる景色や知らない場所へといくこと楽しみとしていた。


「……ここは茶色いんだな……」


 どこにいくかは謎だが、車は軍事基地(?)を出て、本来の魔大陸へと踏み入れた。


「ここは、ですか? 以前にも来たようなセリフですね?」


 なにやら久しぶりにレイコさんが口を開いた。


 この幽霊、背後にいる気配は感じさせるのだが、固定されてるのか、それともわざとかは知らんが、振り返るとレイコさんもズレるので、黙られるといるかいないかわからんのだよな。


 ……しかも鏡にも映らないし、自分から姿を消せるので、いるかいないかわからないときがあんだよな、まったくよ……。


「この周辺には来たことはねーが、魔大陸には何回か来たことはあるよ。ってか、なんでレイコさんが知らねーのよ。オレ、先生の生徒よ。面と向かって教わってなければ先生だなんていえねーだろうが」


 だいたいにして先生の薬学は高度よ。前世の記憶があるオレですらわかんねーことがほとんどだった。あれを手紙のやりとりや、本だけでは学べるもんじゃねーぜ。


「まあ、そんなに頻繁に教えてもらえなかったが、たぶん、二十回くらいは教わったぜ」


「い、いや、そ、そう言えば、そんなこと言ってましたね。いやいや、そうですけど、どうやって来てたんですか? ご主人様、転移系魔法なんて使えませんでしたよ!?」


「まあ、先生は呪術系が得意な方だからな」


 若い頃は、バリバリの肉体派だったらしいが、魔法や魔術に目覚めてからは呪術を中心にやって来たんだとよ。


「え、ええ。確かにそうですが、本当にご主人様と仲がよろしいんですね。メイドのわたしが言うセリフではありませんが、あの方、人を家畜かゴミにしか思ってませんよ」


「そうだな。でも、負けず嫌いだろう、あの先生」


「……そこまで知っているのですか……」


 先生と知り合うきっかけは親父殿──いや、赤き迅雷に先生が依頼を出したことだが、謎の依頼主の話を聞いていたら、なんとなく好奇心が強いと感じ、日本語で手紙を出した。


 あの親父殿たちにわからないように依頼を出し、町の冒険者ギルドを影から支配する。しかもその依頼は血を求めるものが多かった。


 最初は薬草もあったので名のある薬師かと思ったのだが、いろんな血を求めることから吸血鬼だと理解した。


 アーベリアン王国がある中央大陸(住んでる者が勝手に言ってるだけな)にも吸血鬼はいると噂には聞いていたが、いるのは血を求めてアホをするような吸血鬼だ。とてもあんなメンドクセーことはしねー。


 で、どんな吸血鬼なのか確かめるために、わざと日本語で書いた手紙を出し、反応を待ったのだ。が、先生はすぐに反応をした。


 旧セレティア王国文字に魔族の文字、南大陸文字や中央大陸文字で、『お前は誰だ?』と問うて来たのだ。


 なので、その問うて来た全ての文字で『オレはヴィベルファクフィニー。異世界から転生して来た者だ』と返してやったのだ。


 そこから交流──手紙のやりとりが増えたのだが、さすがに親父殿たちがそれに応えることはできねー。その頃にはもうA級冒険者として引っ張りだこだったからな。


 で、業を煮やした先生が、拳大の丸水晶とフランケンなメイドを一体を送って来た。


 なんだこれ? と首を傾げてると、フランケンなメイドの瞼が開き、それは、精神だけを飛ばすことができる魔法具だから『お前、ちょっとこっちに来い』と言って来た。


 ……そう言や、あのフランケンなメイド、保存庫に仕舞ったままだっけ。なんとかしねーと……。


「それで躊躇することなくいくってどんだけバカなんですか」


「アハハ。それ、先生にも同じこと言われたよ。だが、それがバカ野郎の真髄よ、と言い返してやったさ」


 あのときの先生の顔、今でも忘れねーよ。吸血鬼が鼻水流しながら大笑いしてんだからな。


「あ、そう言えば、いつも不機嫌そうな顔していたご主人様が、ある日を境に急に笑みを浮かべるようになったのはそう言うことだったんですね!」


「まあ、実際には精神だけがいってたわけだが、魔大陸にも興味があったんでな、先生んちの周りを見せてもらったんだよ」


 五感まで飛ばしてくれるものじゃなかったから景色しか堪能できなかったが、それでも興奮したものさ。


「カイナからもらった転移バッチとシュンパネがあれば、今度からはいつでもこられんな」


 まあ、どちらも一回いった場所でなければならねーが、あの距離をなくしてくれるだけで充分だ。あとは、ゼロワンや竜機で行動範囲を増やせるんだからな。


 楽しい未来を想像してたら軍用車輌が停止した。


「ベー様。つきました」


 と言うので外に出た。


「……壁……?」


 目の前には高さ三十メートルはあろう壁が左右に延びていた。ってか、先が見えねーんだけど。万里の長城かなにかか?


「あ、ベー。やっと来たね。一応、試作のマスドライバーができたよ」


 ………………。


 …………。


 ……。


 はい?


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