第718話 どこいくの?

 ……もうなんつーの、突っ込みたくもねー光景だな、おい……。


 着いたと報告に来た狼っぽい男の獣人、中尉だと名乗った……なんだっけ、この方? ジンでもなくプンでもなく、フンって感じだったと記憶してるんだが、まあ、中尉でイイか。


「相変わらず無駄に凝ってんな、あのアホは」


 もう本場(米のつく国ね)以上じゃね? いったいどこの国と戦おうとしてんだよ。過剰にもほどがあんだろう!


「最初はカイナ様が造ってましたが、最近ではクルフ族が仕切って拡張してますよ」


 クルフ族ね。あの種族は、人からかっさらってまで仕事をしたがるからな。あ、フミさんにヴィベルファクフィニー号のこと隠さなきゃ。作ってたら自分で仕上げたくなったしよ。


「では、ベー様」


 と、中尉に促され、空母につけられた移動式の階段を下りて魔大陸に立った。


「……魔大陸に上陸か……」


 周りが周りなだけになんの感動も湧いてこねーが、なぜか大地 (コンクリートですけどね)を踵で叩いて確かめてしまった。


 と、一台の軍用車輌がやって来てオレたちの前に停車した。なんだい?


 軍用車輌のドアが開き、なにやら高級そうな制服を着たクルフ族の男が出て来た。


「初めまして。カイナーズ軍技術部所属第三土木班のバノバと申します。階級は少佐です!」


 その敬礼に頷きで返した。村人にはそれが精一杯だよ。


「あ、うん。オレはベー。頭の上にいんのがプリッつあん。右にいんのがドレミで左にいんのがミタさん。で、背後に憑いてんのがレイコさんだ」


 いたのっ!? なんて突っ込みは右から左にスルーだよ。もうその辺は感じ取ってください。


「初めまして。では、ご案内させていただきます」


 いつもなら頭の上から訂正が入るのだが、今回はなぜか沈黙。どったの、プリッつあん?


 気にはなったものの少佐さんの促しを遮るのもワリーかと、こりゃどうもと軍用車輌に乗り込んだ。ん? ミタさん乗らないの?


 なぜかミタさんが軍用車輌に乗らず、なにか顔色を悪くしていた。


「ベーの背後にいるのが怖いんでしょう」


 あ、あー。そう言や、そんな設定でしたね。すっかり忘れてたわ。


「でも、見えねーよな?」


 結界はちゃんと張ってるぞ。


「いるってわかるだけで心に負担を与えるものよ。いく場所は同じなんだから違うのでこればいいじゃない」


 なにやらメルヘンのクセに大人な対応。君、オレのいないところでどんな成長物語を繰り広げんのよ?


「少佐さん。ワリーが、ミタさんに別の車を頼むわ」


「あ、いえ、だ、大丈夫です! 乗ります!」


「無理すんな」 


 乗り込もうとするミタさんを結界で押し止めた。


「別に護衛じゃねーんだ、一緒じゃなくてもイイだろうが。オレはどこにもいかねーんだからよ」


「どの口が言うのかしら?」


 ヘイ、ユー。ちょっとは空気読んで黙っとけや。


 頭の上の住人をつかみ、ミタさんに向けて放り投げた。一緒にいてやれや。


「……か、畏まりました。車は結構です。自分のがありますので」


 自分の無限鞄から四輪バギーを出すミタさん。なぜにそのチョイス? でも、なんかカッケーな。オレも乗りてーかも。帰ったらカイナーズホームで買っちゃおうかな?


「ミタさん、それいくらした?」


「二千円でした」


「安っ!!」


 いやいや、いくらなんでも安すぎんだろう! 二千円ってなんだよ! プラモかっ! 自転車でももっとするわ!


「まあ、カイナーズホームは激安店ですから」


 え、そうなの!? って驚くとこ違うわ! あ、いや、実際安いけどさ! もうほんと、あのアホはなんなんだよっ!


 あーもー頭痛ーわ。考えんのもイヤだよ。


「もうイイよ。カイナーズホームのことはよ」


 まあ、帰ったら何台か買いますけどね。


「ミタさんとプリッつあんは別に来い」


 言ってドアを閉めた。


「少佐さん。出してくれや」


「わ、わかりました」


 敬礼して助手席に乗り込む少佐さん。え、運転手だれよ? とか思って運転席を見たら女の小さい青鬼さんがいました。


「運転手を務めるタエコと申します。階級は曹長です」


 振り返り、自己紹介する曹長さん。お若いのね。幾つ?


「はい! 十五であります! カイナーズに入ってまだ半年です!」


 あ、うん。そう。よろしくね。えーと、発進どうぞ、です。


 どう対応してイイかわからんので外の景色に逃げた。


「では、発車します」


 頷くだけして外の景色に目を走らせた。


 あ、そう言えば聞くの忘れてたけど、オレ、どこいくの?


 なんてことも聞ける雰囲気でもないので、状況に流されることにしました。もう、好きにしろや……。

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