第711話 マスドライバー
「あー疲れた」
空母へと上がり、轟牙を脱いで甲板に倒れ込んだ。
土魔法も結界術も使って疲れたってことなかったのに、岩さんを引き上げるのは体力精神力、あとよくわかんねーものを消費した感じだ。
……魔力ではねーなにかがオレの中にあんだろうな……。
前々からそんな気はしていたが、今回のことで確信した。魔力以上の力がオレにはある。それも魔法より高位の力が……。
……そして、オレはその力を使いこなせてねー……。
「怠慢だな」
「なにが怠慢なの?」
上からカイナの声が降って来たが、なんでもないと無理矢理流した。
空気が読めるカイナは、それ以上なにも聞かず、オレが立ち上がるのを待っていた。
「ミタさん。なんか食べるもの頼むわ」
「畏まりました。カイナ様たちも召し上がりますか?」
いると思って言ってみたが、できるメイドは神出鬼没になってくるんだな。そのうちメイドじゃないものに進化しそうだわ。
うつ伏せのまま待つことしばし。なにかテーブルや椅子、食器を出す音がし、やがてイイ匂いがしてきた。
……ピザ……?
前世でもあんまり食ったことはねーが、スーパーに入っているピザ屋の匂いは今も記憶している。
中年の胃にはもたれる匂いだったが、今生の十一歳児には食欲を誘う匂いだった。
ムクリと起き上がり 、ミタさんが用意しただろうテーブルについた。もちろん、先にはカイナたちが椅子に座り、用意されるのを待っていた。
「……ピザか。窯なんてあったんだ……」
普通、空母に窯なんてあるわけもねーが、カイナが創り、ミタさんが用意している。その二人がいたら不可能と言う文字はねー。満漢全席でも用意しそうだわ。
「うん。なんかピザが食べたくなったから窯を出してみた」
カイナの視線を追うと、ピザを焼くだろう窯が三つあり、ミタさんやコック帽を被った赤鬼さんたちがピザを作ったり焼いたりしていた。
……ピザを焼く赤鬼。なんかお伽話になりそうなタイトルだな……。
まあ、なんのお伽話になるから知らんが、誰か創作してくんねーかな。オレ、喜んで読ましてもらうよ。
「お待たせしました。焼き立てなので気をつけてください。あ、飲み物はなにになさいますか?」
「ジンジャーエール」
なんか久しぶりに飲みたくなった。前世じゃ揚げ物や脂っこいものと一緒に飲んでたんだよ。
オレの前に置かれたピザは、生地が薄く、トマトとチーズ、サラミが乗ったシンプル(?)な ものだった。
オレのために出されたものに否はねー。いただきますと食べ始めた。うん、悪くはねー。ジンジャーエールは旨いな。ゲプッ。
直径三十センチのピザはさすがに食えねーな。ガツガツ食べる赤鬼さんたちの方に押し出した。
食後はやっぱりコーヒーでシメてこそと、無限鞄から魔法瓶を取り出し、至福のコーヒーをいただいた。
「……それで、あれをどうするの?」
身も心も落ち着いたところでカイナが尋ねてきた。
「とりあえず、竜宮島かジオ・フロントに運ぶ。岩さんの存在は危険だからな」
「聖金、か。昔話では聞いてたけど、まさか宇宙人? から出てくるとはね。真実は小説より奇なり、だね」
まあ、現実も人生も奇々怪々。喉元すぎたらどうでもよくなるもんさ。
「ワリーが空母で運んでくれや。何日くらいかかる?」
つーか、このファンタジーな海をよく航海できるよな。海竜とかに襲われたりしねーの?
「おれの魔力を纏わせてるからね、よほどのものじゃなければ近寄ってはこないよ」
……それは余程のものがいるって言ってるようなもんだぞ……。
「そうだね。七日から十日ぐらいになるかな? いろいろ彷徨ってるから航路探しながらになるんでね」
なにを指標にしているかは謎だが、バカなことはしてるってのはわかるよ。
「まあ、ゆっくりでイイさ。すぐにどうこうはできねーんだからさ」
さすがに宇宙に出すなんて無茶を通り越して不可能だ。やるからにはそれなりの時間と準備が必要となる。慌ててもしかたがねーよ。
「いったいどうしようって言うのさ? あれ、おれの魔力でも通じないよ。それにあの重さだ、ロケットに括りつけて飛ばすこともできないよ」
「重さは浮遊石でなんとかなるし、岩さんに直接は効かねーが、間接的には干渉できる。カイナは、マスドライバーって知ってるか?」
「あ、う、うん。機動な戦士は観てたからね。でも、マスドライバーなんて実用性あるの? 軽くしたとしても摩擦とか軌道計算、ロケットの操作なんてメチャクチャ高度な技術だよ」
「うちには高度な潜水艦を持ったヤツがいんだろう。それに、なんだっけ、あの戦闘機がロボットになったりするアレ?」
シーとかバーとか言ったような気がするが。
「バルキリアアクティーだよ。RBZー15V──あ、そうか。あれ、宇宙に出れるものだったっけ」
前にタケルが宇宙戦闘用可変機とか言っていた。宇宙に行けるなら補助ブースター的なものに使えんだろうさ。
「上げることよりマスドライバーを造る方が困難だわ」
軽くしたとしても結構な距離を必要とするはず。造るとなれば十年二十年とかかるだろうよ。オレのライフワークにすればなんとかなんだろうさ。
「いや、それは任せてよ。なるほど。ベーの方法ならなんとかなりそうだ。フフ。マスドライバーか。やっぱりベーは一味違うよね。なんか燃えてきたー!」
なにやらカイナがやる気をみなぎらせてます。つーか、オレのライフワークからカイナのライフワークにチェンジしたような気がするんですが?
「よし! なら計画を立てなきゃね。レガノ、あとは任せた。おれは一足先に帰るから──」
と、帰っちゃう思ったが吉日野郎。もう好きにしろ。
コーヒーをお代わりして岩さんへと目を向けた。
まあ、マスドライバーで上げられるかは半分思いつき。成功率も半分だろうよ。いや、失敗する方が大きいだろう。
「……やっぱり、唯一干渉できる結界術を鍛えにゃーならんか……」
オレの考えるな、感じろピューターがそう言っている。
まっ、イイ機会だ。結界術を極めてみますかね。
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