第690話 レイコ教授

 ……幽霊って発光するんだ……。


 暗闇の中で仄かに灯るレイコさん。つーか、眩しいんで光るの止めてもらえません? 安眠妨害だよ。


「レイコさん。灯りを小にしてもらえませんか?」


 前世も今生も暗くないと熟睡できないタイプ……でもないが、目の前で光ってられると気になるんですが。


「……なにか、侮辱されたと思うのは気のせいでしょうか……?」


 侮辱はしてない。ただ、電化製品と混同はしています。セルフタイマーとか是非搭載してて欲しいもんです。


「まあ、いいです。申し訳ありませんが、感情に左右されるものなので、これが限界です」


 幽霊に感情とかあるんだ~、とかは今更か。もう感情がそのまま形となったような幽霊だからな、レイコさんは。


「なにをそんなに感情を高ぶらせてんだい?」


 発光どころか半透明だったじゃん。あれが通常状態なんだろう?


「……受け入れられました……」


 穏やかに笑みを浮かべるレイコさん。いや、暗闇でやられたら怖いですから。ダークエルフ族じゃなくても大絶叫するよ。


「うちの家族は人がイイからな」


 今の時代には奇跡としか言いようがねーな。


「フフ。それだとベー様も含まれてますよ」


「お人好しなのは否定はしねーさ」


 まあ、打算も漏れなくついてはくるがな。


「ベー様は、どうして受け入れられるんですか? 違う種族ならまだしもわたしは幽霊ですよ」


 囲炉裏台の上に置かれたベッドで眠るプリッつあんやオレの枕となるドレミに目を向けた。


「どれもこれも似たようなもんじゃねーか」


 人しかいない前世の記憶を持つ者にしたらメルヘンと幽霊に差なんてねーよ。理解できねーって意味では、だがよ。


「そう言えるのは無関心な者かバカくらいなもんですよ」


「じゃあ、オレはバカな方だな。自分以外の者と関わって生きたいからな」


 無関心は前世だけで充分。今生は人の中で生きていくぜ、オレはよ。


「……羨ましいです……」


 その言葉と思いは感じ取れても、レイコさんの過去はまったく見えねー。居候さんに似てはいるが、こちらは完全な深遠だ。とてもじゃねーが理解できる方がどうかしてる。


 だが、その感じから察することはできる。


「羨ましいと思うなら今から関わればイイさ。ダークエルフ族は難しいと思うが、他の連中はレイコさんが幽霊でも気にしねーと思うぜ。少なくともオレの家族は気にしねー。おはようと言えばおはようと返してくれるぜ」


「そうですね」


 悲しそうに笑うレイコさん。まったく、気遣いのできる幽霊とかなんなんだよ。


「生きている世界も時間も違う。そりゃ当然だ。死者が生者に関わっちゃならねー。悲しいが、関わりは不幸しか生まねーからな」


 自分で言ったことだ。生者は死者に感謝するだけだってな。


「だがよ。レイコさんがそこにいるのは紛れない事実。この世界のこの時間に存在している。それは誰にも否定はできねー。否定したらそれは自分を否定することに繋がる。オレはここにいる。ここにいることを誇りに思っている。なら、この目で見たこと、心で感じたこと、この手で触れたことを否定なんてできるわけねーじゃねーか。レイコさんはいる。ここにいる。オレの中では絶対だ」


 他人と関わって生きると決めたんだ、相手の存在を否定できっかよ!


「なんて、それはオレの勝手だ。否定したいのなら否定すればイイさ」


 別に認められたいとか思わんしな。


「……わたしは、存在してて、いいのでしょうか……」


「それを決めるのはレイコさん自身だ。好きにしな」


 決めたならオレは無条件で肯定するぜ。


「……わたしは、世界と関わっていきたいです……」


 なにか存在感が増したように、発光も大きくなった。なんかに進化したのか?


「ならよ。先生になってみねーか?」


「先生、ですか?」


「ああ。勉強を教える先生にな」


 リアムとノノを教育しようと考えたときに、学校設立も一緒に考えていた。


 教師はバリラでイイんだが、二人にはワールドワイドな思考ができる子に育って欲しい。そうなるとレイコさんは打ってつけだ。いろいろ世界を知ってるんだからよ。


「わたし、教師って柄じゃないですよ。教えるなんてしたこともありませんし」


「教えるんじゃなく聞かせてやってくれ。そうだな。確かにレイコさんは教師ってタイプじゃなく、探究者タイプって感じだな……」


 好奇心が強いと言うか知りたがりと言うか、知識を求めることに貪欲だ。


「……教授……」


 ふと口から漏れた。


「教授。うん! 教授がイイ! それに決定!」


 我ながらレイコさんに似合うものを見つけたぜ。


「あ、あの、いったいなんですか、キョウジュって?」


「ざっくり言えば知の探究者。それを後生に伝える者だ」


 オレの中の辞書では、だがよ。


「知の探究者、ですか」


 いまいちピンと来てねーようだが、まるっきり興味がない顔ではないようだ。


「まあ、直ぐにとは言わないさ。レイコさんには時間はいっぱいあるんだ、よく考えたらイイさ」


 学校を造るにしてもまだ先のことだしな。


「……教授。知の探究者……」


 どうやら半分以上は承諾に傾いているようだ。


 未来のレイコ教授。明日を担う若者たちにイイ講義を頼むぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る