第688話 感謝の敬礼を!

 疎外感いっぱいの夕食が終わり、第一陣のメイドさんたちが食堂を出て行き、第二陣が入って来た。


 食堂は専用のメイドさんが仕切るようで、テキパキと食事に来たメイドさんたちに配膳していた。


 ……セルフじゃねーんだ……。


 これだけいればセルフにした方が楽だし効率がイイと思うんだが、サプルの中では食事は作った者が配るとインプットされているようで、絶対に食べる方には任せないのだ。


 まあ、その原因を作ったのはオレなんだけどね。


 サプルから台所立ち入り禁止を受けたオレだったが、それではワリーとできあがったものを配膳したのだが、自分の箸で配ることが許せないらしく、配膳禁止令を出されてしまった。


 それからオレは出されたものを食うだけ係。なんとも羨ましいと言われそうだが、邪魔せず座ってと言われたも同然。ショックでしかねーよ。


 そんな悲しい過去を思い出しながら食後の一杯を堪能していると、姫さんズが案内されて囲炉裏間へと通された。


 下半身が魚だけに土足厳禁の床の間は厳しいだろうと、床を一面外して水槽にしてやる。


「あるんなら出してくださいよ」


 床の間に転がるオルグンが非難の声を上げた。ゴメン。作ったのすっかり忘れてました。


 人魚の国に行くんだからと、招待したときように作ったのだが、フミさんたちに下克上されて頭から外れてたわ。


 一面では狭かったのでもう一面外し、オレたちはちょっと詰める。今度造る船はもうちょっと広くせんとな。


「馳走になった」


 代表して姫戦士が礼を言った。そう言う礼儀はしっかりしてんだよな、人魚って。


「口にあったかい?」


「ああ。ハルヤールに聞いていた通り、美味なるものばかりだった。特に漬物が美味かった」


 あ、それ、トアラのオカンが作ったものです。さすがのサプルも漬物だけはトアラのオカンに追いついていないんでよ。


「そうかい。土産にと言いたいところだが、うちで食う分しかなくてな、ワリーがやることはできねーんだよ。別のもん持たせるからそれでカンベンしてくれや」


 ウルさんが大好きなブアルの蜂蜜漬け(ちょっと酸味のある木の実を蜂蜜で漬けた、田舎の高級オヤツって感じなものだ)でも土産に渡してやるか。


「かたじけない。遠慮なくいただこう」


「おう。遠慮なくもらってくれや」


 ブアルの蜂蜜漬けは蜂蜜余りを解消するために結構作ったし、うちの村では甘い物が多いので在庫がたくさんある。消費してくれんなら大助かりだぜ。あ、そろそろブアルの季節。穫りにいかなくちゃ。


「ベー!」


 と、あんちゃんがやって来た。そう言や、メイドさんズを仕切ってのあんちゃんだっけ。忘れてたわ。


「おう。どうしたい?」


 そんな思いを顔には出さず、笑顔で迎えた。


「どうしたかじゃねーよ! あちこちフラフラしやがって! おれだけじゃ決められねーこといっぱいあんだ、一カ所にいやがれ!」


「べつに勝手に決めろよ。あんちゃんが仕切ってんだからさ」


 一番人魚と商売してのはあんちゃんだし、動けるようにメイドさんズを貸している。ゼルフィング商会ではなく、ゼルフィング家が協力してんだからよ。


 まあ、家族には言ってねーか、そこはゼルフィング家とあんちゃんの仲。親戚みてーな間柄なんだ、言わなくてもうちの家族は協力するぜ。


「お前と一緒にすんな、アホ! 全員女とか拷問だわ!」


 そこで違う種族と言わねーところがあんちゃんのイイところであり、ヘタレなところでもある。


「仕事に男も女も関係ねー。差別しねーでやれることをやらせろ。あと、もっと女の扱いを覚えろ、妻帯者」


 よくそれで結婚できたな。そんなんじゃワリー女に騙されんぞ。そうじゃなくたって女は怖いんだからよ。


「……一人二人ならまだしも百人以上とか無茶ぶりもイイとこだ……」


「このまま商売が上手くいけば女も雇うんだ、今のうちに慣れておけ。でねーと苦労すんぞ」


 オレは婦人がいるから平気だも~ん。婦人。あなたに感謝の敬礼を!


「……わかったよ……」


 了承したと言うところは、女を雇うことのメリットに気がついてる証拠。いや、人手不足に陥ってる証拠かな? 小規模商売なら男だけでやって行けるが、ワールドワイドな商売をしようと思ったら男だけじゃ無理だし、女が必要な場面が出てくる。


 特にオシャレ関係は女に任せる方が効率的だし、女の客も買いやすいってもんだ。コーリン。あなたにも感謝の敬礼を!


「メイドさんからこれはと思うのがいたら勧誘でも引き抜きでもしろ。ただし、相手が納得するやり方で、だぞ。無理にはやんじゃねーからな」


 まあ、あんちゃんにそんな度胸はねーが、変に人を惹きつけるところがあっからな、このヘタレは。ビジネスライクで頼むぜ。ご近所で不倫騒動とかやめてくるよ。


「不安なら間に誰かいれろ。王都から連れて来たヤツにできそうなの何人かいんだろうが。任せるのも商会長としての仕事だぞ」


「ベーは任せてばっかりだけどね」


 頭の上からの突っ込みはノーサンキュー。君は黙ってなさい。


 強制解除させ、モコモコ妹に合体。ニュープリナイトになってなさい。


「協力ならいくらでもする。だから、あんちゃんの勝手で動け。恐れんな」


 まあ、これもいろんな人にお任せするんだけどよ。


「……わかったよ。勝手にやってやるよ! 後悔すんなよな!」


 そう叫んで食堂を飛び出していった。


 フフ。オレに後悔させるほど勝手にやってみろ。ちょっとやそっとでオレの生き方は揺るがねーぜ。


「……こうやってベーにこき使われて来たんだな、アバール……」


 オレの幸せのためにガンバってる方々に感謝の敬礼を!

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