第652話 同盟国

「わし、クロード。この国の王。よろしくね」


「……オレはベー。村人。こちらこそ」


 え、なに!? とか言う疑問、大募集。そして、答えてくれる人も大募集。この状況を打破してくれる人は今すぐここに大集合~!


 と、叫んだところで来てくれるわけでもなし。自分でなんとかするしかねーですたい。


 まず、落ち着けよ自分と宥め、改めて王さまを見た。


 人魚の見た目から歳はわからんが、体の傷や体格からして姫戦士以上の戦士……だったと言うべきだろうか、今の姿からして……。


 なにかの膜かなんかに寝そべり、ダルそうにしている。やる気がないと言うよりは体に力が入らないって感じで、目はまっすぐオレを見ていた。


「で、なに?」


「友達の国と同盟結んでくんね?」


「いいよ」


「ありがとよ」


 ここには突っ込み要員がいないようで、あっさりと承諾された。


「でもいいの? うち、そんな大きい国じゃないよ」


 ほ~ん。中身はちゃんと王さましているようだ。


「大きさは関係ないよ。ところで、王さまは酒が好きかい? 陸のだけどよ」


「超好き。ハレナに怒られるくらいに」


 ハレナが誰かは知らねーが、酒好きなのは間違いねーようで、体を起こして主張した。


「じゃあ、一献どうだい?」


 あの二人をどうこう言えねーが、まあ、向かい合って語るのも悪くねーだろう。まあ、オレはコーヒーだがよ。


 謁見の間と言うんだか王の間と言うんだかわからんが、オレたちの間に空気のある結界を作り、中へと入る。


 酒の力がそうさせるのか、這いずるようにやって来て、なんの躊躇いもなく結界の中に入った。


 無限鞄からちゃぶ台を出し、王さまの下に結界クッションを作ってやる。あと、ミストがかかるように結界を調整した。


「辛いのと甘いの、どっちが好き?」


「辛いのが好き」


「熱いのと冷たいのでは?」


「熱いのや冷たいのがあるの?」


 あ、人魚の世界ではねーか。人魚の酒は海竜の乳から作った馬乳酒のようなもの。アルコール度数も高くねーのだ。


「わし、蒸留酒好き。あれ最高」


 あれが好きか。なら相当な呑兵衛さんのようだ。


 蒸留酒か。なら果実系か麦系、芋系もあるか。取り合えずウォッカ、ブランデー、芋焼酎を出してみるか。


 コップを出し、三酒を注いだ。どれが好みだい?


「どれも好き。でも、これが一番かも」


 王さまが選んだのは芋焼酎。なんとも旨そうに笑った。


「それはなにより。もう一献」


 魔術で氷を作り、オーソドックスな飲み方を勧めた。


「陸の酒は旨いよね。それだけは羨ましいよ」


「同盟を結んだんだ、これからたくさん入って来るさ。まあ、これより味も質も劣るがな」


 これらはカイナーズホームで買ったもの。あそこのは日本円でしか買えず、世界貿易ギルド員とエリナの国民しか利用できず、大量には輸出できない。しても少量。酒はまだ優先順位が低く、人魚の舌にはまだ馴染んでねーからな。


「同盟よしみで回して欲しい」


「なら、同盟を祝して献上しましょう」


 無限鞄から何十本と出して王さまに渡した。


「……こちらからはなにをお祝いしたらいいかな?」


「同盟国が危機に陥ったら助けて欲しい。王さまの権限が及ぶ範囲で。あと、爵位。名ばかりの名誉伯爵の地位をもらいたい」


「いいよ。あげる。でもなんで?」


「保険……って言ってもわからんか。まあ、今後の布石さ」


 役に立つかはわからんが、用意しておくに越したことはねー。なに事も備えが肝心だしな。


「わかった。ファルムの名をあげる。爵位としてはハルヤールと一緒。あと、土地もあげる。ハルヤールとの約束したしね」


 話のわかる友と話のわかる王さま。この国が魚人帝国に負けない理由を見た感じだな。


「それと、商売。これ買わない?」


 結界で水竜機を作り、王さまに見せる。


「なにこれ?」


「人魚が乗る兵器。あの巨大魚にも負けないものさ。ただ、人魚が乗れるように作り変えなくちゃならねー。場所と人員をもらいてー」


「わかった。買う。ハルヤールに任せる。ただ、うち豊かじゃないんで安くしてね」


「ああ。安くするからこの国でいろいろ買ってイイか? ちゃんと適正価格で買うからよ。もちろん、税金なしで」


 人魚の世界も税金はあるんでな。無税でお願いします。


「いいよ。民が困らない程度なら」


 フフ。本当にできる王さまだ。


「なら、商談成立。今後とも仲良くしようや」


「こちらこそよろしく」


 コーヒーカップを掲げると、王さまもカップを掲げた。


「乾杯」


「うん。乾杯」


 晴れてエリナの国に初の同盟国ができた。

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