第633話 クリエーターベー

「轟牙フラッシュ!」


 口からビームが放たれ標的を撃ち抜いた。


 何度目かの轟牙フラッシュの威力調整を理解した。


「うん。この威力ならオークでも倒せそうだな」


 最初の一発目は、タコ型海獣を撃ち抜く威力で殲滅にしか使い道なかったが、今なら充分個人戦闘用に使えるだろう。


「とは言え、口からってのもしまらねーな」


 せめて指先からとかなら格好がつくし、戦いもスムーズになるんだろうが、口からだと二、三秒のロスタイムが生まれる。これでは近接戦闘での使用はできないし、弱点ともなる。


「やっぱ、轟牙フラッシュはトドメの技にするしかねーか」


 まあ、トドメとしては申し分ねーし、近接戦闘に求めるのは贅沢ってもんか。


「今度は轟牙の性能だな」


 ギュッと拳を握る。


 感覚的には自分が拳を握っている感覚で、肉体(服か?)の重さは感じるが、重くて動けないってほどではない。


 その場でジャンプしてみたり、パンチを繰り出してみたりと、自分の体を扱っている感じだ。


「ちょっと走ってみるか」


 動きにそれほど不自由はなく、今のところ不都合もねー。外に出て実験だ。


「つーか、出れねーよ」


 工房の出入り口、高さが二メートル。幅一メートル。工房にしようってだけ決めて、出入り口しか作ってなかった。


「この状態で土魔法とか使えんのかな?」


 とやってみたらあらできた。阻害はしねーのか。そりゃ便利だ。


 土魔法で開けた出入り口から外に出ると、武装した小人族(大きくなってます)がいた。


「な、何者だ!?」


 小人族の主要武器、圧縮銃をオレに向ける。


「あ、ワリー。ベーだよ、オレ。今から背中から出るから撃つなよ」


 失敗失敗。工房は結界で頑丈にしてても音までは封じてなかったっけ。そりゃ何事かと思うわな。


 脱ぐと言う意識と背中から出るイメージを浮かべると、難なく轟牙から出れた。


「ベー様でしたか。驚きましたよ……」


 武装した者たちのリーダーらしきおっちゃんがため息を漏らした。


「ワリーワリー。話を通しておくべきだったな」


「そうしてもらえると助かります。我々の武装では海トカゲを相手するのが精一杯なので」


 圧縮銃は、爪楊枝くらいの針を撃つもので、対小人用の武器。堅い鱗を持つ生き物には役に立たないのだ。


「ああ、次からはそうするよ。ほんと、ワリーな」


 こんな三メートルものごっついもんが現れたらそりゃビビるし、恐れるなって言う方が悪い。即行撃たれても文句は言えねーぜ。


「ちょっと騒がしくするが、勘弁してくれな。なるべくあんたらの邪魔にならんようにするからよ」


 走るだけなので許してちょうだいな。


 轟牙装着! とは人前で言えるほど勇敢ではねーので、黙って装着。轟牙、ここに見参! と心の中で叫んでおく。


「んじゃな」


 小人族の連中に挨拶して島の裏のほうへと駆け出した。


 だいたい時速にして四十キロくらいだろうか、中のオレに負担はなく、三メートルから来る上下運動もそれほど気にはならない。


 さらに速度を上げていき、感覚で百キロを突破した。


 小さい島なので百キロも出せばすぐに海へと到達。走る速度を緩めずそのまま海へと出た。


 よくマンガで右の足が沈む前に左の足を出して海面を走ると言うものがあったが、まさか、本当にできると笑いたくなるな。


 と言うか、沖に出過ぎてしまった。どうすんのこれ?


 止まるに止まれず走るが、この先に島はなし。別大陸までいっちゃう?


 なんてできる訳もねーんで、速度を緩めて海の中へと沈んでいった。


 ついでだし海中性能でも見ようと思ったのだが、なぜか浮力があるようで、どうやっても沈んでくれなかった。


 ……中に空気でも溜まってんのか……?


 どうしようもないんで結界で起き上がり、転移バッチで竜宮島へと戻った。


「轟牙、完全に地上用だな」


 水陸両用とはならずか。まあ、結界があるし、空陸両用で納得しておくか。


 工房へと戻り、轟牙を脱いで……乾かしておくか。びちょびちょだしな。えーと、物干し竿はねーので結界で干しておくか。天日干しとか大丈夫かな、これ?


 まあ、そろそろ陽が沈むし、構わんか。なんか不都合があったらまたアリザに作ってもらおう。あの調子じゃまだまだできそうだしな。


 さて。メインの実験といきますかね。


 無限鞄からモコモコビームを封印したものを出す。


「二度目のモコモコ獣が撃ったのが八個で轟牙が撃ったのが十七個か。量は申し分ねーな」


 まあ、それほど深い実験はしねーけどさ。


 結界で封印したモコモコビームは、小樽くらいのサイズがあり、結構な力が封じられているのがわかる。


 オレの結界術は、カイナにはまったく通用しないが、人外クラスなら対抗はできるくらいにはある。こうしてモコモコビームを封印してることからしてかなりなものだろう。


「とは言え、もうちょっと――いや、硬球サイズまで小さくしなくちゃ殲滅ボールにならんか」


 モコモコビームを封じられておけるサイズが小樽くらい。多分、これ以上小さくしたら酷いことになるだろうよ。


「――いや待てよ。別にこの威力のまま小さくしなくても分ければイイじゃんねーのか」


 そうだよ。硬球サイズになるくらいまでわけたらイイんだよ。まず半分。それをまた半分。半分の半分でほら、硬球サイズになったじゃん!


「殺戮が技が一つ、殲滅フラッシュ。完成だ!」


 圧縮調整すればイ〇ナズンとかになる。おおっ、夢が広がるぜ!


「こうなってくるとビームガンとか作りたくなっちゃうよな」


 あ、そうなってくるとビームサーベルも欲しいかも。結界術と併用すればできんじゃね?


 グフ。グフフ。クリエーターの血が騒ぐぜいっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る