第634話 ガンバれ男子諸君

 ――ピキーン!


 頭の中をなにか光りが走った。


 直ぐに作品を結界で包み込み、無限鞄へと放り込んだ。


「ドレミ!」


 手を伸ばすと、メイド型ドレミが手をつかんだ――と同時に転移した。


 いき先はもちろんヴィアンサプレシア号。格納庫へと現れる。


 監視役のメイドさんはおらず、結界ダミーのモコモコ獣があるだけ。触られた後はあるが、オレの結界に隙はねー。結界を消し、轟牙を出して元に戻した。


 一度、体が覚えたら変形させることなど造作もねー。四秒で轟牙に変形させられるぜ。


 それでも元に戻ったことを再確認する。ミタさんは侮れねーからな。


「よし!」


 完璧。これならミタさんにも見破れまい。


「ドレミ、食堂に誰かいるか?」


「サプル様とメイド隊が八名、アリザ様がいます」


 時刻は午後の二時。昼食は終わったが、アリザの暴食でまだ続いているんだろう。変わらずか。


「ミタさんとプリッつあんは?」


「ヴィアンサプレシア号にはいません。先程の工房に現れました。おそらくシュンパネを使用したと思われます」


 シュンパネか。なら、ここを知るプリッつあんがいれば可能か。クソ! もうシュンパネはねーはずなのにどこで手に入れやがった?


「婦人から入手したかと。婦人を守る緑が数時間前にお二方を視認しております」


 チッ。婦人か。つーか、ドレミさん。あなたの目はどこにでもあるんですね。ちょっと怖いです。


「わかった。船橋にいくぞ」


 認識阻害に結界を纏い、格納庫を出て船橋へと向かう。


 途中、メイドさんや船員と遭遇したが、基本回避で接触(認識阻害するだけで実体はある。ぶつかればバレるのだ)を避け、船橋に来る。


「おう、調子はどうだい?」


 当然のような顔で船橋の皆さんに声をかけた。


「ベー!? お前どこにいっていた!」


「はぁ? なんだいいったい? オレはどこにもいってねーぞ」


 なに言っちゃってんのあなたは? 的な顔で船長を見る。


「うそをつけ。ヴィアンサプレシア号中捜したが、どこにもいなかったではないか!」


「あん? ……あ、ああ、そうか。ワリー。秘密工房のこと言ってなかったっけ。ヴィアンサプレシア号はサプルのだから場所を取ったらワリーと思って亜空間に工房造ったんだわ。今度からは通信手段をつけておくよ」


 そんなもんねーが、あると思えばある。強く思い込め、だ。


「なんか不都合でもあったのか?」


 ちなみにオルグンと再会してから三日目。まだ待機中だ。忘れてました的な顔を見せなければ今現れても不思議じゃない状況である。


「いや、なにもないが、なにかあるときのために居場所だけは伝えておけ」


「別に船のことは船長に任せてあるし、不測の事態が起こったら船員でなんとかしろよ。それだけの人材を揃えてんだからよ」


 オレは総責任者的立場だが、現場レベルのことは現場でなんとかしろ。でなきゃ現場が育たねーだろうが。


「……なんだろうな、もっともなこと言われているのに、この納得できない感は……」


「知らんよ。それより出発予定は明日の朝。問題ねーんだろう?」


「あ、ああ。人魚の国までの道はアーカイム隊が確認した。ヴィアンサプレシア号及び、船員とご夫妻に異常なし。予定通り出発できる」


「それはなにより。なら予定通りに頼むよ」


 手を上げて船橋を出る。


 今度は認識阻害の結界を纏わず、堂々と食堂へと向かう。


 メイドさんや船員にご苦労さんと声をかけ、さも最初からいましたよ的な態度を見せる。


 なにか違いがあるんかい? と言われそうだが、オレを捜している状況で格納庫から船橋へ行くより、船橋から食堂に向かう方が最初からいた感が強くなる。


 まあ、微々たるものだが、その微々たることを疎かにするとミタさん辺りに見抜かれるのだ。


「ベー様、どこにいらっしゃったんですか?」


 食堂に入るなりメイド長さんに睨まれた。


「ん? ああ、秘密工房にいたんだよ。出発まで時間はあるし、ただ海を眺めてるのもつまらんからな。なんかあったのかい?」


 顔色一つ変えずにメイド長に尋ねた。


「あ、いえ、なにもありませんが、居場所だけはお伝えください。ミタレッティーがいるのですから」


「ミタさん? あれ、そー言やいねーな。どこいった?」


 今気づいたとばかりに辺りを見回した。


 まあ、雇い主を気にかけるのがメイドの仕事だし、最初にいなくなったのはミタさんの方。オレに罪はない。


「ベー様を捜しています」


「そうなの? なら、そのうち見つけんだろう。ミタさんのことだからよ。それより、腹減ったんで軽い料理を頼むわ」


 アリザの横に座り、射程内から外れたところにあるソーセージをつまみ食い。二日ぶりの食事は胃に染みますね。あ、ブララジュースをください。


「アリザ、まだ腹は膨れねーのか?」


「前よりはちょっと膨れた」


 ちょっとはマシになったってことは、繰り返せばなんとかなるってことかな?


「――ベー!」


 と、プリッつあんの声が食堂に響き渡る。どーしたん?


「どこにいってたのよ! 捜したじゃないっ!」


 なぜか顔面にパイル〇ーオン。いや、そこじゃないでしょう。


「秘密工房にいたが、なんかしたのか?」


 顔面から強制脱着させ、正規の場所にパ〇ルダーオンさせる。ちなみに問うたのはミタさんにね。


「秘密の工房ですか?」


「ああ。暇ができたとき用に造ってたのさ」


「プリッシュ様は知らなかったようですが?」


「だろうな。プリッつあん、ヴィアンサプレシア号に興味ないし」


 ミニ造船所で作業しているとき、興味ないと一度も訪れなかったのだ、知る訳ねーだろう。


 納得できない顔をするミタさんに構わず、メイドさんが持ってきてくれたブララジュースをいただく。


「サプル。あれからアリザはモコモコ獣になったか?」


 料理を運んできたマイシスターに尋ねる。


「ううん。してないよ。結構食べてるんだけどさ」


「そうか。となると容量が増えたか、制御できるようになったかのどちらかだな」


 そうなのかは知りません。勘で言ってます。これは、さもアリザのことを考えてましたよアピールです。


「なら、検証するか」


 無限鞄から世界樹の種を皿に盛った。


 さて。これでオレがいなかったことは誤魔化せるだろう。


 つーか、なんでそんなウソつくの? と言う疑問に答えましょう。


 それはオレの立場を守るため。主導権を渡さないためだ。


 イイかい、男子諸君。女に一度でも主導権を握られたら一生取り返すことは不可能だ。一生下僕だぞ。


 それが嫌なら油断するな。弱味を見せるな。ウソでも信じれば真実になると思えるくらいの強い意志を持て。


 男の最大の敵は女だぞ。ガンバれ、男子諸君! 君たちの健闘を祈る。そして、オレに皆の力をわけてくれっ!

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