第615話 先駆者たち
「……壮観だな……」
後部座席に座る親父殿がなんか呟いた。
「あれ、船ですか、旦那様」
オカンの言葉でなんのことか理解した。
車体を傾けて眼下を見れば、クレイン湖に沢山の飛空船が浮かび、空にはバリアルの街から帰って来たと思われる船団が見える。
「ちょっとこない間に随分と発展したな」
「だな。人もなんか増えてるっぽいし」
完全無欠に丸投げしたオレが言うセリフじゃねーが、皆さんガンバってるよね~。ご苦労さんですっ。
ガンバった方々に敬礼!
「……なにかわからないけど、やっちゃいけないことをやってるわね……」
やってイイことをしてるので気にしまセーン。
食い入るように見下ろしている二人のためにゼロワンを緩やかに旋回させてから、純白のヴィアンサプレシア号へと降下した。
監視役の誰かがこちらを確認したのか、ヴィアンサプレシア号から船員やメイドズが出て来て整列した。
出迎えを無視するのもワリーので、その前にゼロワンを着陸させた。
いつの間にかメイドズの中に赤のドレミがいて、後部座席のドアを開いた。まったく、優秀なやっちゃ。
運転手たるオレは自分で開けて外へと出る。
「……この船だけ随分と派手だな……?」
「あれ? お披露目のとき親父殿いなかったっけ?」
「あるんなら呼べよ。そう言う重要なときは!」
オレの中ではいたんだが、次からは呼びますんで堪忍です。
プースカな親父殿を宥めすかし、ヴィアンサプレシア号へと乗り込ませた。
「親父殿とオカンの部屋の用意はどうなってる?」
メイド長さんに尋ねる。
「用意はできております。今、お嬢さまが最終確認をいっております」
「んじゃ、二人の案内を頼む。オレは船橋にいくからよ」
「畏まりました」
「お、おい、ベー!」
「心配すんな。ここは、サプルの船だ。サプルが仕切っている以上、館と変わらんよ。うちにいると思って寛いでろ。出発のときに呼びに行くからよ」
再度、メイド長さんに頼み、船橋へと向かう。
途中、船内の造りが変わっていて驚いたが、迷うことなく船橋へと到着した。
「おう、大老どの。船の調子はどうだい?」
「船長と呼べ。他に示しがつかんだろう」
型に収まるのが嫌いだと言ってたクセに、すっかり船長の型に収まりやがって。そんなに楽しいのか、船長って?
「ハイハイ。わかったよ、船長殿」
まあ、どっちでもイイさ。大老も船長もそう変わりはねーしな。
「うむ。それでよい。船はいつでも出発可能だ。出るか?」
「いや、今日は二人に飛空船に慣れてもらうために、夕暮れどきを眺めて小人族の港に入る。なんで、そう計画で頼むわ」
「わかった。なら、二時間後の出発でよいか?」
「ああ。それでイイよ。あ、行くのはヴィアンサプレシア号だけか?」
飛行計画やらなにやらは大老――じゃなくて船長に一任してある。ハイ、メンドクセーからですがなにか?
「お前のプロキオンと竜機の空母の二隻だ。もっと増やすか? 念のためにあと六隻は出発準備をさせたが」
さすが船長殿。用意周到だ。
「なら、その六隻も連れて行く。人魚からいろいろ買うかもしれんからな。そうだ。空荷でいくのもなんだし、野菜でも積んでいくか」
スマッグを取り出し、婦人に連絡を入れる。
「婦人。仕事中にワリー。バリアルから運んで来た野菜や小麦とか、人魚のところに持って行きてーんだが、飛空船六隻分回せるかな?」
そう聞くと、少しお待ちくださいと通信が切れた。
かかってくるまでにまた外へと出てゼロワンを無限鞄に仕舞い、ヴィアンサプレシア号の竜機格納庫に向かう。
「あ、ベー様」
その途中でフミさんと遭遇した。
「おう、フミさん。イイ仕事しているようだな。まさか通路が変わってるとか思わんかったよ」
あれは土魔法で鉄筋を外し、溶接で繋いで塞いでいたものだった。塗装も万全だし、とても最近まで溶接を知らない者とは思えない仕上がりだ。ほんと、優秀な技師だぜ、フミさんたちはよ。
「お叱りはなし、ですか?」
どうやら叱られると思ってたらしい。
「この船はサプルにあげたもんだ。サプルが許可したんならオレはなにも言わんし、反対もしねーよ。まあ、実験船として好きに改造してみな。そのうちヴィベルファクフィニー号とかヴィアンサプレシアⅡ世号とか頼むかもしれんしな」
素人のオレが造り、オレの結界術で成り立ってる船だ。とても真の飛空船とは言わねー。どうせなら誰にでもできる技術で、誰にでも扱える飛空船を造ってもらいてー。
それができてこその技術だ。そのためならヴィアンサプレシア号なんて実験船でイイ。躊躇うことなく踏み越えて行け、だ。
「はい! 初代ヴィアンサプレシア号より優れた船を造ってみせます!」
フミさんたちが一斉に敬礼をした。軍隊か!
「おう、ガンバんな。先駆者たちよ」
オレの健やかで楽しいスローライフを充実させるために、よ。
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