第591話 ミュータント漁
「竜宮島、完成~!」
港から二キロほど離れたブララ島よりちょっと大きい島で、岩礁に囲まれているため、開拓しても人が住むには不便でしかねーが、ミュータント亀(的な)には、まったく問題なしっんぐ。
空気を纏うために上陸するだけなので、島の改造は滑走路を一本とゼルフィング商会の支部を創るだけで、だいたいは岩礁の改造だった。
通路を創り、家や広場を創り、島を管理する役所的な建物を創り、そんなことをしてたら三日が過ぎていた。
「我ながらイイ感じだぜい!」
いろいろ創ったりしたが、やはり土魔法での創作が一番楽しいな。
「今なら土の魔法使いの称号を名乗っても文句は言われないぜ」
まあ、やってることは土木業なんだけどね。
「おっと。黒髪の乙女さんに連絡しないと」
すっかり忘れてた。間に合うかな?
ピッポッパッと。
「あ、もしもし。オレ、ベー。黒髪の乙女さん? あ、よかった。ワリーけど、完全武装で出て来てくんねーかな? もちろん、竜機でよ。あと、長期で泊まれる用意と整備士を何人か頼むわ」
わかりましたと、なんの説明を求めず通信を切る黒髪の乙女さん。言っておいてなんだが、なにも聞かなくてイイのか? そう素直に従われっちまうと、逆に怖いんだが……。
付き合い方、ちょっと考え直そうと思いながらスマッグをポケットに戻し、ノットさんのところへと向かった。
ノットさんのために用意した店は、大通りの一等地で倉庫つきと言う破格な場所だ。
路上で物を売っていた行商人が次の日から店を持つ身になったことに驚いていたが、一日も過ぎたら慣れたようで、商品の買いつけに走っていた。
「それはこっちだ。それは店の棚に頼む。それは倉庫に積んでくれ。あ、そいつはまだ中身を見てないから広場に置いててくれ」
二日目には従業員三十名を率いる商会長になり、戸惑いで動けなかったが、三日目にはいっぱしの商会長として従業員を指揮していた。
「ノットさん、調子はどうだい?」
「見ての通り大忙しさ!」
働くことが本当に楽しいのが、全身から喜びとバイタリティーが溢れていた。
「にしても、よく物があったな?」
人魚は多くなったが、物は少ないはず。なのに、これだけの量をどっから集めてきたんだ?
「昨日、赤海亀族の隊商が来てな、それを言い値で買ったのさ!」
「隊商? そんなもん来たのか?」
まあ、商人がいて流通があるんだから隊商があっても不思議じゃねーが、随分と都合のイイ展開だな。
「ああ。本当ならここじゃなく、王都にいくはずだったんだが、海嵐にあってこの近くに流れてきたんだとよ。ここのことは前から有名だっし、せっかくだから寄ってみようってことになったらしいぜ!」
うん、本当に都合のイイ展開があったんだな。でもまあ、ここは天の采配と喜んでおこう。悪い方向にいってるわけじゃねーしな。
「食糧も運んで来たのかい?」
「量はそれほど多くはなかったが、また近いうちに大量に持って来てくれるそうだ。そのときは他の商人も誘って来るそうだぜ。人魚の町で地上のものが大量に出回っているそうだからな」
「海の中の商人も抜け目ねーんだな」
ここにいないと言うことは、人魚の町に行ったんだろう。海嵐に巻き込まれたその隊商も運がイイこった。
「当たり前だ。でなきゃ厳しい世を生きていけないからな!」
仕事に戻ったノットさんに資金と応援を渡し、マ〇ダムタイムをするべく滑走路に向かった。
今の時刻は午後三時をちょっと過ぎたくらい。午後のコーヒーを楽しむにはイイ時間だ。
「快晴でなにより」
夏とは言え、潮風が気持ちイイ。今日はレーコーと行きますか。
潮風を浴びながらレーコーを二杯飲んだ頃、向かいの席に座って同じレーコーを飲んでいたメイド型ドレミが顔を上げた。
「来たか?」
「はい。四匹、いえ、八匹来ました」
八匹か。予想以上の数だな。まあ、これだけの数の匂いがあれば当然か。
「竜機も来ました」
なんともタイミングのよろしい黒髪の乙女さんらだ。
空に目を向ければ八機の金色の竜機がこちらへと向かって来るのが見えた。
スマッグを取り出し、降りて来るように伝える。
今回は滑空で着陸し、車輪を使ってオレのところまで来た。
「あ、そのままで」
降りてこようとした黒髪の乙女さんらを止める。
「もう少しで火竜が八匹来る。竜機をデカくするんで火竜を逃がさないように、なるべく島へ追い込んでくれ。無理はするな。やられたら下がれ。これは狩りなんだからよ」
「畏まりました。皆、わかったわね?」
黒髪の乙女の声に他の乙女さんらが敬礼で応えた。
「では、出撃!」
と、なんとも見事な感じで空へと翔ていった。
しばらくしてオレの目でも火竜の姿を確認できた。
「まさに飛んで火に入る夏の虫――いや、竜か」
右のズボンのポケットから殺戮阿を抜き放ち、左手に結界球を生み出した。
「世はまさに弱肉強食時代。感謝を込めていただきます!」
射程内に火竜が入り、結界球を全力で打つ。
オレの力とコントロールで見事命中。だが、火竜の突進は止まらない。
「殺戮が技が一つ、五月雨ノック!」
夏なのに? とか言っちゃイヤ。命名したのが長雨のときなんだからしょうがないでしょう。
次々と結界球を打ち放つ。
黒髪の乙女さんらも火竜を上手く翻弄しながら島へと誘導してくれるので、なんの苦労もなく八匹全てに結界球を当てることができた。
「それじゃ、フィニッシュだ!」
発動結界球を打ち放ち、火竜を捕獲。羽ばたけず、次々と火竜が落ちて来る。
「大漁大漁」
火竜は鼻がイイ。ウソか真か知らんが、百キロ先の獲物のニオイでも嗅ぎわけるとか。なら、獲物がこれだけいれば、さぞやニオイは濃いだろう。まさにその読み通り、火竜がミュータント亀(的な)を嗅ぎわけやって来た。
クックックッ。ミュータント亀(的な)さんに感謝です。
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