第592話 アーカイム隊
ぐっしっしっ。火竜を八匹も捕まえられるとか最高。しかも生け捕りとは笑いが止まらんですわ~。
火竜の討伐はA級冒険者でも難しく、生きたまた捕獲なんてA級冒険者が二十人はいないと不可能だろう。
親父殿ら、赤き迅雷も火竜を倒すのには苦労したが、一番の苦労は倒した火竜の回収だそうだ。
言ったように火竜は海の上で生活をし、獲物を狙っているときに討伐しなくちゃならん。
船の上で空を自由自在に飛び回る火竜を倒す方が大変じゃね? とか思うだろうが、翼人族で魔術師のバリラがいて、弓の名手だるカーチェもいる。あとは、オレが渡した結界武器があれば問題はねー。
ただ、倒したあとのことを考えてなかったので、回収するのに苦労したそーだ。
海に落ち、半ば沈みかけてる巨体を沈まないようにしながら解体し、収納鞄に詰めるだけで戦いの三倍はかかったそうだ。
それを踏まえての結界で、拘束しながら海に沈まないようにする作戦を行い、プリッつあんの伸縮能力でサクっと回収する。
「まったく、プリッつあん様々だぜ」
伸縮能力がなければこの作戦は思いつかなかった。帰ったら優しくしてあげましょう。
「さて。火竜をどうするかな?」
生きた火竜なんて幾らになるかわからんが、素材丸ごと回収なんてねーから金貨八百枚は固いだろう。下手したら金貨千枚もありえるかもな。
「半分はエリナのエサにして、素材は売る、だな」
火竜も海竜に負けねーほど生命力に溢れた生き物だ。オーク五百匹にも勝るだろう。いや、よー知らんけどさ。
「残りは、どーすっぺ?」
さすがに八匹も市場に出したら値崩れする。つーか、市場を暴落させっちまうよ。
どうしましょうと、グルグル歩き回りながら考えていると、黒髪の乙女さんらが降りて来た。
「竜機、な」
竜機のことはよくわからんが、あれは竜を改造した生きた兵器。だったら、火竜も改造とかできんじゃねーのか? ってまあ、火竜のことは暇なときに考えよう。小魚とかやっておけば死なんだろうしな。
「ご苦労さん。ありがとな、助かったよ」
デカくなったとは言え、感覚も慣れねーうちに火竜八匹に挑ませるなど無茶ぶりもイイところ。感謝しても感謝し切れねーよ。
「いえ、よい空戦ができました!」
なにやらやりきった充実感を満面の笑みにする黒髪の乙女さん。いや、他の乙女さんらもだった。なんですのん?
「我ら竜機乗りとして空戦は誇りであり名誉でもあります。ですが、最近は空を飛ぶだけの毎日。竜機乗りとしては不満でしかありませんでした」
その感覚はよーわからんけど、つまり、欲求不満ってわけね。
「模擬戦とかしねーの?」
竜機が国防の要。そーゆーのして腕を磨くんじゃねぇのかい?
「新たに農場島ができたことにより、その防衛で訓練生まで出すことになり、模擬戦どころか飛行訓練もままならない状況です」
「まあ、一藩領の竜機なんて二百もあれば大藩領扱いらしいからな、殿様のように三百も集めるとか立派だよ」
三百もあれば充分かと思われがちだが、一メートルくらいの竜機が三百いたところで火竜一匹に匹敵するくらい。とてもじゃないが防衛力としては少なすぎる。飛空戦艦が二十隻も出てやっと防衛できるそーだ。
「ですが、人手不足で乗り手がおりません。今、稼働できるのは百五十機です。整備もしなければなりませんから」
「なら、黒髪の乙女さんらや整備士を連れ出したのはマズかったかい?」
「いえ、我々はベー様に仕える隊ですので数には入っておりません。それどころかこんな少人数しか回せないと、父が謝罪しておりました」
「そうなのかい。まあ、黒髪の乙女さんらで充分だから問題ないよ」
別に戦争するわけじゃねーし、やってもらうのは護衛だ。七機もいれば充分だよ。新しい飛空船にも防衛手段は搭載したからな。
「ありがとうございます。誠心誠意、ベー様に仕えさせていただきます!」
黒髪の乙女さんの敬礼に他の乙女さんも敬礼を見せた。
「まあ、よろしく頼むわ」
仕える仕えねーとかどうでもイイが、断ったところで聞くわけねーし、飛空船団には護衛は必須だ。ここは、ありがたく受け入れよう。
「だが、黒髪の乙女さんらは、ゼルフィング商会の船団護衛部隊――そうだな、名前がねーのもなんだし、小人族の守護天女の名をもらって、アーカイム隊と名づけよう」
オレの趣味としては和名をつけたいところだが、小人族に由来のある名前の方が黒髪の乙女さんらにもウケはイイだろう。
「はい! アーカイムの名に恥じぬよう、ベー様の守護天女となることを誓います!」
よかった。どうやら気に入ってくれたよーだ。さすがに嫌な顔されたらショックだわ。
「んじゃ、今日からここがアーカイム隊の基地になる。ってまあ、まだ滑走路と小屋しかねーが、これから徐々に増やしていく。あ、整備士もここに頼むわ。作業艇って、確かあったよな?」
なんかそんなのが飛んでるの見たぞ。
「はい。用意はさせておりますので、呼びにいきます」
「なら、各自の荷物もその中かい?」
と言うか、あんな短時間で用意できたんか?
「いえ、出撃を優先したため、時間が空いたら交代で取りにいこうかと思ってました」
だよな。できたらスゲーわ。
「よし。黒髪の乙女さんらには、これからいっぱい働いてもらうし、長期で着いて来てもらうからな、服や生活用品、身の回りのものを用意してやるよ」
あと、家具や寝具、食糧もか。まあ、カイナーズホームに行ってからだ。ロイヤルメンバーズカードの他に九億円ほどのキャッシュがある。困りはしねーさ。
「そ、そんな、これ以上ベー様にしていただくわけには……」
「イイんだよ。ゼルフィング商会は働く者に優しい商会。それに、キレイでいてもらわんとサプルに、いや、妹に叱られるんでな、なるべく身も格好もキレイでいてくれ。あ、いや、黒髪の乙女さんらが汚いってわけじゃねーよ。ただ、妹が妙にキレイ好きってだけで、オレから見たら全然キレイさ!」
生きてりゃ汗もかくし、竜機に乗るには飛行服を纏わなければならない。ニオってもなんら不思議ではねー。仕事をした女のニオイ。そう言う趣味がなくてもイイニオイだと思うぜ。
「わかりました。では、遠慮なくいただきます」
なにか、スッゴい笑顔を浮かべる乙女さんたち。なんなの?
「実は、前からベー様たちの綺麗さに疑問に思ってたのです。失礼ながらあんな田舎にいて、なぜこんなに綺麗でいられるのかと。女ならぜひとも知りたいところですし、それができるのなら願ってもないことです」
「あ、うん、そうなの。ま、まあ、キレイでいてくれんなら願ったり叶ったりだ。十二分に用意させてもらうよ」
全員でとはいかねーので、まずは四人を連れてカイナーズホームへと向かった。
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