第570話 本店一つください!

 アーベリアン王国初、飛空船の発着場――バリアル発着場と名づけられた。


 まんまだな、って突っ込みはノーサンキュー。初だからこそバリアルの冠を付けなければならんのだ。バリアル領と今後とも仲良くやって行くには、な。


 婦人を筆頭にバリアル発着場の管理運営法がだいたい整い、村に帰ることになった。


「随分時間がかかっちまったな」


 ここに来て十二日。まさかこんなにいるとは思わんかったよ。


「申し訳ありません。なにぶん初だったものですから」


「いや、婦人たちを責めてるわけじゃねーよ」


 つーか、オレ、なにもしてねー。そんな立場のもんが文句とか言ってたら、一年もしねーで謀反されるわ。


「婦人たちはよくやった。ゼルフィング商会の長として鼻が高いよ」


 マルっとサクっと任せられる従業員がいる。これほど幸せなことはねーよ。


「そう言ってもらえると誇らしく思います」


「十二分に誇ってくれ。明日村に、ゼルフィング商会の本拠地に行くんで残りも頼むわ」


「はい。お任せください」


 笑顔の婦人に見送られ、キャッスルへと向かった。


 マルっとサクっと任せたらお前いらなくね? とか言われそうだし、ほぼいらない子になっていたが、いざと言うとき、ゼルフィング商会の長がいなければ不味いと言われて、こうしているわけなのさ。


 まあ、ただいるだけなのも暇なので、プリッつあんのキャッスルの一室を工房化して暇を潰していたのだ。


 やりたいことには集中するオレなので、あっと言う間に次の日になり、呼びに来るまで帰ることをすっかり忘れていた。


「ワリーワリー。集中して忘れったわ」


 もうすっかり帰る準備が整っているゼルフィング商会の従業員に頭を下げた。


「プリッつあん、急いで片付けてくれや」


 オレの創作魂に触発されたのか、プリッつあんもオレの頭の上で編み物を始めた。


 なして編み物? とか思わなくもないが、人それぞれ。破壊に走られるよりは何倍もイイ。好きにしろだ。


「んー。わかった」


 編み物をしながらも器用にキャッスルを縮小させ、ドレミに頼んで収納鞄へと入れた。


 これと言った別れもなく、サクっと宿屋の前にジャンプ。従業員は一旦解散させ、婦人と娘、あと……なんて言ったっけ、このお目付け役のお姉さま? まあ、なんとかさんを連れて館へと向かった。


「あ、オカン。ただいま。親父殿は?」


 ゼルフィングと姓がつこうが、館に住もうが、我らがマザーの生活に変化はない。今日も今日とて畑仕事。秋に向けての仕込みをしてました。


「お帰り。旦那さまなら木を伐りにいってるよ」


 完全に家のことを親父殿に渡したので、伐採や薪運びがどうなってるかわからねー。って言うか、十二日も家にいねーといらない子からいない子になっちまうな。


「昼には帰って来るか?」


「用があるんなら呼びにいかせるよ」


「なら頼むわ」


 誰に? とか一瞬思ったが、まあ、ダークエルフのメイドさんに頼むんだろうと思っていたら、畑の端っこに生えるキノコに話しかけるマイマザー。はい?


「パプル。旦那さまを呼んで来ておくれ」


「ワカリマシタ」


 ヘイ、ブラザー。キノコがしゃべったように聞こえたんだが、気のせいかい?


 ブラザーって誰だよと、冷静な自分が突っ込むが、慌てる自分はなにもできずにしゃべるキノコを見送った。


「さすが、ベー様のご実家ですね」


 いや、なにがさすがなの? とか言えねーのが心苦しいデス。


 館の前にはモコモコガールやダークエルフのメイドさんに、ハーフエルフ、獣人とドワーフの幼女ズ。巨大化した花人と、なんだこれ状態。それを前に一切動じねー婦人がさすがだよ!


「あ、あんちゃんお帰り。お客さん?」


 動じないにかけては我が家でも一番のマイシスターが出迎えてくれた。


「今日から一緒に暮らす家族だよ」


「そうなんだ。なら、歓迎会しないとね」


 あっさり受け入れるマイシスターは、絶対女神だと思う。


「ベー様の妹様で?」


「ああ、我が家で最強にして最高の妹だ。家のことでなにか困ったらサプルに言いな。オレより頼りになるからよ」


 もはやこの家での地位は最下層なオレ。家のことに口出しできませんデス。


「まあ、まずは部屋に案内するよ」


 バリアル発着場ではいらない子に甘んじていたが、婦人を迎える準備は……サリネに任せてましたね。あ、サリネさん。婦人の部屋、どうなってます?


「四階を増築しておいたよ」


 サリネさまに感謝の敬礼!


「必要な家具や寝具は運んでおいたけど、あとは自分色に染めてくれ。あ、注文通り、ベーの部屋に通じるようにはしたが、ぷらいべーと、だっけ? 一応、鍵つきのドアはつけておいたから」


 再度、サリネさまに感謝の敬礼です!


 大きな欠伸をするサリネが消えるまで敬礼を続け、婦人のために造った部屋へと向かった。


 女の部屋なんてわからんので、サリネさまに任せたが、なかなかどうしてイイ部屋じゃねーの。ちょっとしたスイートルームじゃんか。


「……随分と立派なお部屋ですね……」


「そうだな。あとで本格的に礼を言わなくちゃな」


 ほんと、サリネと出会えたことな大感謝だぜ。


「えーと、婦人用のメイドさんは誰だっけ?」


 婦人たちの背後からついて来たメイド長さんに尋ねた。


「バルネットとサマラをつけさせていただきます」


 メイド長さんの両脇にいるダークエルフのメイドさんがお上品にお辞儀した。


「んじゃ、その二人に任せる。うちのルールと館の案内をそのうちとして、部屋を整えてやってくれ。あ、昼に紹介すっから食堂に連れて来てくれな」


 部屋は用意してもらったが、ゼルフィング商会の本店はオレが用意せねばならん。と言うか、忘れてました。至急用意して参ります。


「婦人。んじゃ、また昼にな」


 メイドさんらにマルっとサクっと任せ、大急ぎで部屋を出てカイナーズホームに向かった。


「すみません。本店一つください!」


「はい、これなどいかがですか?」


「売ってんのかい!」


 言っといてなんだが、突っ込まずにはいられなかった。


 カイナーズホーム、マジスゲー。 

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