第543話 起業
カバとヘビが水辺で戯れている。
これを幻想的と言うべきが、それとも生命の冒涜と言うのか、三十分ほど考えてみたが、まったく答えが出なかった。
「楽しそうね、リリー」
いったい、この短い時間でなにが起こったか心の底から知りたくねーが、慈愛に満ちた目でリリーを見守るプリッつあん。
それを冷めた目で眺めるオレはなんなんだろうと自問自答しようとして、止めた。もうなんでもイイわ。
ゆったりまったりマ〇ダムタイムにつまらん思考は野暮。心穏やかにコーヒーを楽し――。
「――ぬわー!」
突然、体全体に衝撃を受け、吹き飛ばされた。
……な、なんなんだ、いったい……!?
「アハハ! ベーが吹き飛んだー!」
「ふふ。ベーってよく吹き飛ばされるわよね」
全身ずぶ濡れ状態で茫然としてたら、カバとヘビが大爆笑していた。
……テ、テメーらは……!
「上等だ、そんなに遊びてーんなら、オレが足腰立たなくなるまで遊んだるわっ!」
殺戮阿吽を抜き放ち、カバとヘビに向かったが、どちらも最強の水棲生物(?)。二十分もしないで土左衛門リターンになっていた。
「……大丈夫……?」
真っ先に逃げた薄情メルヘンが声をかけてくるが、知らんわ。もうなんでもイイわ!
「ほっといてください」
なんがもう立ち上がる気力もねー。しばらく土左衛門ライフを送らせていただきます。
今日は天気もイイし、集まるまで時間もかかる。ゆったりは土左衛門を楽しめだ。
何回かカバとヘビに踏まれたが、そんなもの効かんとばかりに無視……したが、我慢には限界がある。四度も吹き飛ばされたらさすがにキレるわ!
「今度こそ泣かしちゃる!」
殺戮阿を振り回し、殲滅技が一つ、千本ノックを披露するが、意外に俊敏なカバとヘビ。一発も当てることができず終了した。
「ベーって、結構凄かったのね」
「ベーは凄いんだよ~。ここにいた悪い水竜、ボコボコにして食べちゃったしね」
「化け物ね」
それはこっちのセリフだ。オレの千本ノックを全て交わすとか、カバ、どんだけ超戦士なんだよ。つーか、これで先生に負けるとか、先生もう魔王を名乗ってもイイじゃねーの!
「でも、なるほどね。道理であの吸血鬼に恐れない理由がわかったわ。あの吸血鬼以上に非常識だわ」
それもこっちのセリフだ。つーか、先生。あんた、どんだけ高スペックなカバに改造してんだよ。もう準魔王じゃねーかよ!
もう、カバとヘビを構う気力もなくなったので、将来の商会建築予定の場所へと向かった。ちなみにプリッつあんとドレミはついて来ましたから。カバとヘビは知らん。気の済むまで戯れてろ。
新たにテーブルと椅子を土魔法で作り出し、遠くに見える開拓に励む魔族らを眺めながらコーヒーと煎餅を楽しんだ。
「マスター。来ました」
ドレミの声で空に目を向けると、小人族の飛空船団と、オレの船団がこちらに向かって来るのが見えた。
「ドレミ。船団の誰かにスマッグ渡したか?」
「はい。創造主様より五十台いただきましたので、主要な方々には渡しております」
いつの間に!? とか、もう突っ込みも出てこねーよ。
つーか、よりよい環境でのスローライフを目指してんのに、なんか違う方向に進んでると思うのは気のせいデス。明るいスローライフに万歳デス。
「うちの船団にはクレイン湖に降りるように伝えてくれ。小人族の船団は空で待機。代表者だけ降りてきてくれと船団長から連絡してもらえ」
「畏まりました」
超役立つドレミさんは最高です。
連絡が届いたようで、船団が指示した通りに動き出した。
それから約一時間後、船団の主要メンバーと小人族の船団の代表者数名が集まった。
小人族は小さいままだと話し辛いんで大きくさせてもらい、土魔法で創った円卓についてもらった。
「ご託は省いて必要なことだけ述べる。買い出しにいくぞ」
「いや、省き過ぎでしょう!」
なんて、プリッつあんからの突っ込みが入りました。冗談だよ。
「まあ、買い出しにいくのはウソじゃねーが、まず皆に伝えておく。今日このときより、ゼルフィング商会を立ち上げる!」
ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。起業しました!
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