第537話 聖女開放

 陽当たり山まで戻って来ると、七隻の飛空船がいた。


 どうも、まだ開拓民を乗せている感じはなく、桟橋に降りる順番待ちをしているようだ。


 まあ、指示を出してから三、四十分。そう簡単にはできないか。


「黒髪の乙女さん。桟橋の横にある空母に降りてくれるか」


「ベー様の護衛のために二機ほど降ろしても構いませんか?」


「任せる」


 言っても無駄だろうし、説得するのもメンドクセー。好きなようにしてくださいだ。


 二機に連絡をすると、竜機が降下してメルヘンの空母に着艦した。


 体を大きくしながら空母に下りるが、なにか大きくなるスピードが遅い。って、そー言やプリッつあんがいねーと伸縮能力が上手く働かなかったっけ。プリッつあん、カモーン!


「もー! いくんなら声をかけてよ!」


 なんて心の中で叫んだらプリッつあんが現れた。マジで!?


 ま、まあ、なんの奇跡(ご都合)かわからんけど、来たならそれでよし。深く考えるなだ。


「ワリーワリー。ほんじゃいくぞ」


 目の前でホバリングするプリッつあんをワシっとつかみ、開拓民を乗せている桟橋へと向かった。もちろん、黒髪の乙女さんらを大きくしてついてきてもらってます。


「アダガさん、順調かい?」


 指揮しているアダガさんに尋ねた。


「申し訳ありません。飛空船が珍しいようで立ち止まる者が多くて捗っておりません」


 見れば確かに開拓民の進みはよくねーようだ。


「まあ、そう慌てることねーさ。今日は移動と寝床確保が目標だしな。怪我人を出さないように頼むわ」


「わかりました」


 任せ、港にいく。


「つーか、結構な数だな」


 桟橋から港まで開拓民の行列を見ると、昼まで移動できるか不安になってくるな。


「ベー。上がった順にいけばいいんじゃないの。下りるのも時間がかかるんだしさ」


 いつの間にか頭の上に移動したメルヘンからのアドバイス。なるほどとは思うが、なんかムカつく。メルヘンのクセに生意気な。


「ドレミ。船団長に連絡して上がった順にクレイン湖に向かえと伝えてくれ。黒髪の乙女さんは、仲間に案内するように頼む」


「畏まりました」


「わかりました」


 面倒なことは他にお任せ。がんばって。


 んーと。先生はどこだ?


「おい、ベー」


 と、先生を探していたらあんちゃんに呼び止められた。どーしたい?


「時間かかるのか? 夜には戻りたいんだがよ」


「夜か? オレとしては泊まりでやろうとしてたんだがな」


「そんなにかかるのかよ?」


「開拓だぞ、一日二日はかかるだろうが」


「いや、一日二日でもできねーよ」


 と、親父殿からの突っ込み。や、やるじゃねーか、親父殿よ……。


「ま、まあ、開拓するのはそこに住むヤツら。オレはその手伝い。最初の拠点造りだけさ」


 そのくらいはしないとな。ジオフロント計画の発案者で総合指揮官なんだからな。まあ、メンドクセーこと他に回しますけどねっ!


「とは言え、あっちにも指示するヤツや店があったほうがイイか」


 オレの仕事も減るしな。


「んじゃ、あんちゃんらと青年団はあの船に乗れ。って言うか、先生はどこだ?」


 下僕たちの姿も見えねーが。


「あの美人さんならあの船で待ってるとさ。待つのは性分ではないってな」


 思い立ったら吉日の人。待てと言ったところで待つわけもねーか。


 あんちゃんらと青年団を船に乗せ、先生を探す――までもなく、甲板で血を飲みながら本を読んでいた。


「先生、開拓地にいくから中に入ってくれや」


「ん? もう順番か?」


「いや、先にいくことにした。この船ごと持っていくよ。寝泊まりする場所も欲しいしな」


「よくわからんが、ベーに任せるよ」


 先生に中に入ってもらい、合図するまで乗ってろと皆に言い含めて船から下りる。


 さてと。船を小さくしますか。


 やはり、プリッつあんがいるとスムーズに伸縮能力が働くな。どうなってんだろな、この不思議能力は?


 両手に乗せれるくらい小さくして結界で包み込む。これで中は揺れんだろう。


「黒髪の乙女さん。またクレイン湖に頼むわ」


 と、またまた開拓地へと戻り、クレイン湖に船を浮かべて大きくした。


 あんちゃんらと青年団を下ろし、それぞれの仕事に取りかからせた。


「先生。先生の住み処だが、人の多いところと人がいないところ、どっちがイイ?」


「そうだな。人のいないところで頼む。静かな方が研究が捗るからな」


 まあ、研究内容や扱うものがものだし、人のいないところに造るのは当然か。


「了解。なら、あそこでイイか。あ、建物に注文はあるかい?」


「任せる。あ、風呂はつけてくれ。ゆったりできるやつを」


「わかってるよ。任せな」


 人がいないところって注文なら、家族でバーベキューしたところにちょうどイイのがある。多少の追加や改造をすれば充分であり、時間もかからんだろう。


「お、そうだ。やる前に聖女を渡しておくよ」


「別にあとでも構わねーが?」


 今もらっても相手できねーよ。


「いや、住み処ができたらしばらく寝ようと思ってな。バカとアホのせいでゆっくりできんかったし、美味い血も飲めた。一月くらい養生して力を復活させたいのだ」


 吸血鬼の生態も謎に満ちている。なんで追求はしません。


「あいよ。なら、もらうよ」


 まあ、なんとかなるだろう。ならないときは誰かに丸投げデス。


「なら、開放するか。マギー。プラハ。解除準備をしろ」


 なにか不穏な言葉が出てきたが、先生が関わっている時点で普通な訳がない。覚悟はできてると、先生のあとに続き、船の倉庫にやって来た。


「……なかなか頑丈そうな棺桶だな……」


 なんか覚悟が揺らいできたんですけど。


「妾の魔力で支配できん上に、ちょっと改造し過ぎたものでな」


 覚悟の七割が崩れたんですけど。


「まあ、お前なら問題なかろう。用意はよいか?」


 なにか巨大な鍵を外す下僕さんたち。覚悟があとちょっとで崩壊しそうなんですけど。


「では、開けろ」


 先生の命令により、棺が開けられた。

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