第517話 勇者ちゃん捕獲
「アハハ!」
どこからかバカ笑いが聞こえてきた。
「初めて聞いたわ」
子どもの笑い声。それはありそうでない村の現実であった。
村で同じ年に生まれるなんてなかなかねーし、あったとしても集落が違ったりして、幼なじみと言うのは希である。
まあ、フェリエ、サリバリ、トアラの幼なじみは別として、その希がバンたちやシバダたちであるが、弱肉強食な世界では遊ぶ暇があるなら働けな日々。バカ笑いなんて起きる訳もないのだ。
しばらくして、山羊に跨がった勇者ちゃんと、集落のチビっ子引き連れて現れた。
もちろん、やや離れたところには女騎士さんがいた。
「あ、村人さんだ!」
この村にいる全ての人が村人ではあるが、勇者ちゃんからしたら村人がオレの名なんだろう。まあ、どう認識されようがオレはオレ。ご勝手に、だ。
「おう、元気に遊んでるようだな」
「うん! 元気いっぱい遊んでるよ!」
いや、遊んでねーで村を守れよと突っ込みが頭をよぎるが、直ぐにそりゃよかったと受け流した。
「勇者ちゃん、今日からうちで預かることになったからよ」
「え、村人さんちに? なんで?」
「王都の冒険者ギルドに頼まれたんだよ。勇者ちゃんに勉強させてくれ――」
言葉途中で勇者ちゃんが逃亡した。
……なかなかイイ判断をする。さすが勇者だ……。
「だが、たかだか初心者勇者がS級村人に勝てると思うなよ」
勇者ちゃんがオレの結界使用能力内に入ったときには捕縛してある。年季が違うのだよ年季が。フハハハハ!
「んじゃ、いくぞ~」
結界で封じた勇者ちゃんを担ぎ、ライオウに乗せた。
「チビっ子ども、勇者ちゃんと遊んでくれてありがとな。ほら、駄賃だ」
ポケットからクッキーを渡した。
シバダたちの手伝いでクッキーを渡しているので、その威力は絶大。大興奮してクッキーを貪り始めた。
「ほんじゃな~」
一心不乱に貪るチビっ子どもに別れを告げ、ライオウに跨がり速やかに退散した。
「ほんと、えげつないわね」
頭の上の住人さんが非難するが、そんなもん我の心には届かぬわ!
……あと、いたんかいって突っ込みはノーサンキューだよ。常にいる、そう理解しててくださいな……。
あ、これもついでにだが、女騎士さんはちゃんとついて来ます。つーか、馬に負けぬ走りとか、女騎士さんスゲーな。
「ただいま~」
ライオウを牧草地に離し、勇者ちゃんを担いで館へと入る。
「「お帰りなさいませ、ぼっちゃま」」
玄関にいたダークエルフのメイドがそんなことを言った。
後ろにトータでもいんのかと振り向いたら誰もいぬ。え? オレに見えねーのがいんの!?
「いや、ベーのこと言ってるって気づこうよ」
「え、オレ!?」
まさかの真実にびっくらこいた。
「ぼっちゃまってなんだよ。恥ずかしいわ!」
苛めか!
「ぼっちゃま禁止。ベーと呼べ。呼べなきゃクビだ!」
そんな権限ねーが、ぼっちゃまと呼ばれるくらいなら親父殿とケンカしてでもクビにしてやるわ!
「「はい。ベー様」」
ったく。誰だよ、そんな呼び名にしやがったのは。そーゆーのは事前通告しろや!
「で、サプルはどこにいる?」
「厨房にいます」
あ、そー言や料理教室するとか言ってたっけ。
「わかった。あとワリーが風呂を沸かしてくれ。勇者ちゃんの着替え――はねーか。プリッつあん、勇者ちゃんに合う服ってあるか?」
服持ちのメルヘンに尋ねる。
「合わせられるけど、このお転婆さんが好むようなものはないわよ」
「まずは形から。可愛いの着せてやれ」
「わかった。それなら任せて。あ、なら着せ替えしてもいい? やっぱり着せてみないとわからないしぃ」
「プリッつあんに任すよ」
「うん、任された!」
バビュンと部屋にある自分の家に向かって翔んでいった。
その目はオモチャを見つけたオシャレ星人の目だったが、これも勇者ちゃんの教育。全力全開でプリッつあんに任せましょう。
「えーと、サラベラとアナレアか。勇者ちゃんを風呂にいれてキレイにしてくれ。抵抗できねーようにしてあるから念入りにな」
二人の胸についた名札を見ながらお願いした。
「「畏まりました」」
勇者ちゃんを二人に預け、厨房へと向かった。
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