第502話 流れに身を任せる

 孤児院から宿に帰ると、もう九時を過ぎていた。


 今後の予定を婦人と話し合ってたらこんな時間になってしまったのだ。


 バーベキューで大量に食ったので、宿での夕食はなし。ただし、ちょっとしたデザートタイムはあったりする。


「このアイス、うまーい!」


 サプル作のブララアイスを食うタケル。もう今さらなんでスルーします。


「そうかい。そのうちルコ味も出てくんだろう。楽しみにしてろ」


 オレはアイスは夏に食う主義なので、今はコーヒーを飲んでいる。


 ちなみに部屋には、旅のメンバーぷらす……と言ってイイんだか謎だが、メルヘン隊のパイロットが二匹? 二人か? まあ、名前は知らんが、見たことがあるヤツらもいた。


 ……なんでいんだ……?


 と、疑問には思ったが、別に口にするほど興味があるわけじゃねーんで、これもスルーした。


「それで?」


 甘いものはキライじゃねーが、体重を気にする乙女なフェリエさんが、一杯だけ食べて話を促した。


 まあ、今後の予定を話すと集めたので、それだけの問いになったのだ。


「もうちょっといるつもりだったが、明日には村に帰ろうと思う」


「随分と急ね。買い物はいいの?」


「ああ。バリアルの街での買い物は小人族に譲る。さすがにうちからの供給だけでは追いつかねーし、独自のルート……供給源を確保しておかねーと、食料危機に陥るからな」


 まずはバリアルの街から食糧を仕入れるが、後々は帝国や東の大陸と伸ばして行きてー。


「そのためにも殿様と話を通さねーとならんし、婦人の受け入れをせんとならん。のんびりしてーが、そうもいかん。今やるべきことをやっておかんと後で苦労するからな」


 オレはゆっくりと生きてーが、だらだらと生きるつもりはねー。やるべきことはやるし、必要なら汗水流すことも厭わねー。ただし、やりたくねーことはやらん。なんと言われようが、それがオレの今生だ。


「で、だ。フェリエには王都に向かって欲しい」


「王都に?」


「ああ。バーボンド・バジバドルは知ってるよな?」


「え、ええ。話だけなら聞いてるわ」


 あ、そー言や、そんときいなかったっけな。


「そのバーボンド・バジバドルに手紙を渡してくれ。今日中に書いておくからよ」


「どう言うつもり? 王都なら簡単にいけるじゃない」


 こいつ、無駄に勘がイイときがあるから困るぜ。


「フェリエには今後、いろいろ依頼したいこともある。そのためにも経験を積んで、イッパシの、いや、超一流の冒険者になってもらわねーと困るんだよ。まあ、そこそこの冒険者でいたいのなら頼まんがよ」


 やるやらぬはフェリエ次第。ダメなら次を見つけるまでだ。


「……わかったわよ。経験も実績も得なくちゃならないしね……」


 なにを目指すにしてもその二つは必要だ。それなくして目指すところには辿り着けんからな。


「まあ、道順はフェリエに任す。あと、旅の途中で小麦やら野菜を買えるだけ買ってくれ。新しい保存庫に入れたいんでよ」


 サリネ作、博士ドクターの魔改造された無限鞄が、そろそろできるはず。それを第二の保存庫とする計画を立ててるのだ。


「ほんと、貯めるのが好きなんだから」


「別に貯めるのが好きなんじゃねーよ。辛い思いをしたくねーだけだ」


 飢饉で食えないとか、想像するだけで胃が痛くなってくるわ。小さい頃(今も小さいですけどねっ)、ひもじい思いをしただけに、食糧は常に確保しておきたいのだ。


「わかったわ。その依頼受けるわ」


「なら、依頼達成札を渡しておくよ」


 収納鞄から木札を出してフェリエに渡した。


「明日はオレも冒険者ギルドに行くわ。カラエルたちにも依頼出したいしな」


 バーベキューの途中でカラエルらが来たので、軽く説明しておいたのだ。


「随分と気に入ってるのね、その冒険者パーティー」


「まだまだ甘いところはあるが、将来性はある。今のうちにツバつけておかんとな」


 オレの代わりに動いてくれる人材はいくらいても困らねー。見付けたら即囲い込む。他にくれてやるかよ、だ。


「まったく、あの領主夫人といい、あんたはどこを目指してるねよ?」


「いつも言ってるだろうが、オレはスローライフを目指すってな」


 なってねーじゃん。とかの突っ込みはいらねーぜ。それは他人が決めるもんじゃねー。オレが決めることなんだからよ。


「まあ、そーゆーわけで準備が整い次第、出発しろ。馬でいくのも徒歩で行くのもフェリエに任すからよ」


「わかった。ならコユキといくわ。さすがに王都まで歩きたくないし」


「冒険者のセリフじゃねーな」


「いいでしょ別に。違うことで体を鍛えてるんだから」


 まあ、それも勝手にしろだ。実際、毎日鍛えているから体力はあるしな。


 肩を竦め、それでフェリエとの話は終わりにし、今度はタケルらを見た。


「タケルたちは、メルヘン機で帰れ。料理人候補の二人はプリトラスに乗せて村に送るからよ」


「わかりました。あ、帰ったら海に出てもいいですか? そろそろ海に出ないとターナたちがうるさいもんで」


「ターナ? まあ、好きにしろ。料理人候補の教育もあるし、問題ねーだろう」


 東や南にいく計画もあるが、急ぐ計画でもねー。なるようになったらいけばイイさ。


「じゃあ、何日か海に出ますね。ベーさんは、どうするんです? プリトラスで帰るんですか?」


「いや、冒険者ギルドに行ったあとに、挨拶回りをするからそれが終わったら帰るよ。なんで、ワリーがメルヘン隊の誰かを残してくんねーか?」


 メルヘン機って確か二人乗りだったような気がするし、ちょっと乗ってみてーと思ってたんだよ。


「わかりました。なら、アネム。お願いするよ」


 プリッつあんが出したテーブルでデザートタイムしていたメルヘンの一人(?)が立ち上がり、タケルに敬礼した。


「はっ、お任せください」


 なんだこれ? とは思ったが、口に出さぬのが礼儀。なんのだよ、との突っ込みはノーサンキュー。


 長い人生、流れに身を任せることも必要なんだよ。まあ、なんだかわからん流れだがよ……。

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