第498話 我に死角なし

 腹一杯になって動けないカラエルたちを食堂に残し、イタリア~ンな店主――と、嫁さんとで孤児院へと向かった。


 イタリア~ンな店主もそうだが、嫁さんもイタリア~ンな感じ? があった。


「もしかして、だが、二人とも、クラニウド族か?」


 この周辺は、前世で言うところの西洋風の顔立ちだが、イタリア~ンな顔立ちはいねー。だが、見ないと言うことはねー。前に一度、イタリア~ンな顔立ちの集団と交流したことがたる。


「……ああ。クラニウドだが、なんか文句があるのか?」


 なぜか怒りを表すイタリア~ンな店主。なんだい、いったい?


「いや、別に文句はねーよ。ただ、前にクラニウドの集団がうちの村を通ってな、舞いを見せてもらったことがあんだよ。えーと、なんったっけな? トコ、トコナ、じゃねーな。トウラなんとかだったような……」


 ダメだ。思いだせん。信頼の証にとか見せてもらったのに、まったく思い出せねーよ。


「トナイドゥートゥを見たと言うのか!?」


「――あ、それそれ! トナイドゥートゥだわ! 族長の娘が舞ってくれたんだよ」


 独特な名前だったのは覚えてたんたが、名前そのものを覚えきれてなかったんだよな。ハイ、ごめんなさいネ!


「いや、あの舞いは凄かったぜ。なんつーの? 神秘的って言うのか幻想的って言うのか、とにかく凄かった。舞いであれだけできるなんてスゲーもんだよ」


 上手く表現できねーが、あれは直接心に響く力があった。聖なるとはあの舞いにこそ相応しいぜ。


「……お前、いったい何者なんだ……?」


「ただの村人だよ」


「ただの村人が、トナイドゥートゥなんて見れる訳ないだろう! あれは、一族の者でも滅多には見れない。しかも巫女の舞いは神事。一族以外が見るなどあり得ないわ!」


 あー、そんなこと言ってたな、族長さん。


「まあ、うちの村に来たとき、魔物の集団に襲われて怪我人が大量にいてな、その治療やら食糧をわけてやったら見せてくれたんだよ。感謝の印にってな」


 オレとしては旅の話を聞けただけで満足なんだが、それでは気がすまないと、族長さんがトナイドゥートゥ――聖なる月の舞いを見せてくれたんだよ。


「……クラニウドを、卑しいとは言わないんだな……」


「別に放浪の民ってだけで、卑しいことはないだろう。オレから言わせてもらえばクラニウド族は、芸術の民だな。舞いはもちろんのこと、楽器に歌に踊り、あれは世界に誇れる文化だ。もし、オレが国王なら、あの一族には是非とも来てもらいてーな。あれは、未来に残すべき芸術だ」


 芸術に疎いオレでもわかる。あれは、世界文化遺産級のものだ。


「……クラニウド、また来てくんねーかな。そしたら厚待遇で迎えんのによ……」


 もっと早くにエリナと出会ってたら土下座してでも迎え入れてたのに。まったく、タイミングワリーぜ。


「いや、遅くはねーか。族長、安住の地を求めて、とか言ってたし」


 クラニウドは、人類種で唯一魔王に仕えた国であり、その歴史はお伽噺として残り、あらゆるところで差別を受けているのだ。


 遠き過去より近い未来。誰もいらないと言うならオレがもらう。人生には芸術も必要だからな。


「クラニウド族、今どこにいるか知ってるかい?」


 放浪の民だけあって、なかなか情報が入ってこねーんだよな。まったく、どこをほっつき歩いてんだか。


「……いや、おれは放浪が嫌で冒険者になったから……」


 自分でも裏切ったと感じているんだろう。イタリア~ンな店主がオレから目を反らした。


「まあ、誰にも向き不向きがあるもんさ。その民だからって、その全てを受け入れられる方がどうかしてるよ。それに、やっぱ自分の居場所は欲しいもんさ。ましてや求めている歴史が長かったんだ、そう思うのも無理ねーさ」


 オレも前世じゃ放浪の人生だった。


 契約が終われば違う場所に飛ばされ、一年として同じ場所にいれなかった。だからこそ、オレは村に固執する。ここがオレの居場所だと誇れる世界にいたいのだ。


「料理を食ってからと言っておいてこれは反則だが、居場所が、国が欲しいならオレと来な。今、新しい、種族も人種も関係ねー国を創っている。自分たちの居場所をつくるなら今だぜ。まあ、店主にはオレの村に来てもらって、計画してる宿屋の料理長をやってもらいてーんだが、そこはあんたの決断に任せるよ。周りには結構商売敵が多いんでな、並みの努力じゃ勝てねーしよ」


 一番のライバルはカイナんとこ。あそこは、前世の食材やら調味料が豊富で、使うことに一ミリもの躊躇いもねーからな。


 けど、料理は料理人の腕で決まる。カイナにはワリーが、うちは料理人の質で勝負させてもらう。


「ワリーな、急かしちまって。ゆっくり……もしてらんねーで、今日明日中に答えが出せねーんなら、一年後くらいにまた声をかけるさ。料理人は随時募集してっからよ」


 タケルの補給地には料理人をおきてーし、世界各地の料理を食い歩くってのも人生には必要な娯楽だ。やれることらやっておかねーとな。


「取り合えず、クラニウドを捜さんといかんな。他に持っていかれる前にオレがいただくぜ」


 今は、アブリクト貿易連盟に世界貿易ギルドがあり、金もコネもある。なにより各地に放てる人材(小人族)がある。


「ふふ。我に死角なし!」

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