第496話 うん

 ほどよい感じに新しい孤児院の微調整を終了させた。


 まあ、土台との位置や傾き、保存庫たる地下室の手直しなのでそんなに時間はかかってねー。台所や風呂はサプル監修のもと、サリネに任せたのでそのままだし、トイレは以前に造ってある。一時間もあれば充分である。


 外に出ると、近所のおばちゃん連中が集まっており、ドレミ……隊の指示のもと、バーベキューの用意に励んでいた。


「ご近所さんとは上手くやってそうだな」


「ベー。どこにいってたのよ」


 と、プリトラスの住人……ではなく、オシャレ同盟が一人、美容師にジョブチェンジしたサリバリがやってきた。


「新たな孤児院の中だよ。プリッつあんに聞いてなかったのかよ」


 神出鬼没なプリッつあん。コーリンを呼びにいったのに、いつの間にかオレの頭の上にいる不思議。誰も突っ込んでくれないからそーゆーこてにしておこう。うん。


「んで、どーした?」


「そんなことどーでもイイのよ。コーリン様が呼んでるわよ」


 コーリン様、ね。まあ、こいつらの関係はこいつらに任せてる。好きに呼び合えだ。


「なんだって?」


「領主夫人様が来たから来てくれってさ」


 おっ。随分と早かったな。やっぱ、できる女は違うな。


「おう、了ー解」


 サリバリの案内で修道院の前にやって来ると、豪奢な馬車……ではなく、お忍び用のシンプルな馬車が止まっていた。


 ……ほんと、どこまでもできるご婦人だよ……。


 ここまで配慮が行き届く領主夫人。世が世なら歴史に名を刻んでるかもな。


「おはよう、ベー」


 なにやら清々しいほどの笑顔を見せる領主夫人。なんか、はっちゃけたって感じだな。


「おう。おはよーさん。早かったな」


「はい。問題は直ぐに片付けたい性格なもので」


 えーと、それはつまり、一晩でお家騒動を片付けた、ってことですか?


 なんか、聞くのが怖いのでサラっと聞き流しておこう。うん。


「そ、そうかい。ま、まあ、それはなによりと言っておくよ」


 このご婦人を敵にしないよう心がけよう。うん。


「ま、まあ、来てくれてワリーが、いろいろ準備ややることがあんでな、まずはコーリンと話し合っててくれや。コーリン。領主夫人様の娘のことは任せる。コーリンの判断で決めてくれ。責任はオレがとるからよ」


 どうなるかはわからんが、責任くらいはこちらが請け負うさ。


「はい。お任せください」


 ファッション以外ダメな感じのコーリンが、なにやら頼もしく感じるのは気のせいだろうか?


 その辺は突っ込んでもしょうがねー。人は成長するもの。そう納得しとこう。うん。


 できる女同士、仲良くやってよと即行退散。オレ知らねー、だ。


「逃げたわね」


「ハイ、逃げましたが、なにか?」


 プリッつあんの突っ込みなど馬耳東風。あれに関わるくらいならオレは最強のチキンの称号すら喜んで賜るさ。


 いやまあ、半分は本気だが、孤児院を設置すればそれで終わりじゃねー。言ったように他にもやることはあるんだよ。


「兄貴!」


 そのうちの一つがやって来た。


「おう、来たな、カラエル」


 今日は、冒険者の出で立ちのようで、各自武器や荷物を携帯していた。


「仕事だったか?」


「採取の依頼を終えて来たところさ。トワの実が生り始めたんでな」


 トワの実とは、高級な油が取れる実であり、今の時期は結構依頼が出ているとか聞いたことがある。


「トワの油か。そー言や、サプルにあったら買っておいてと言われてたっけな」


 まあ、まだ出始めだし、そう慌てることもねーか。油を絞り、濾したりするのに時間がかかるしよ。


「そうか。それはご苦労さん。なら、時間はあるよな?」


「ああ。午後からは孤児院の手伝いをするよ。なにかあるかい?」


 ふふ。すっかり働くことに抵抗、どころか、楽しみになってきたようだな。


「いや、手伝いは大丈夫だよ。それよりカラエルたちに依頼を出してー。聞く気があるならこっちに来てくれや」


 ちょっとここでは騒がしいからな。


「兄貴の依頼ならなにを置いても引き受けるさ!」


「それは話を聞いてから、皆と相談して決めろ。軽々しく引き受けるなんて言うんじゃねーよ」


 まずは話を聞く。そして、判断する。


「考えることを放棄するな。常に考え、自ら判断しろ。それが一流の冒険者ってもんだ」


 まあ、親父殿の言葉だがよ。


「す、すまねぇ、兄貴……」


「今、失敗を糧にした。そう思えることも一流の冒険者。常に学べ、将来の一流冒険者諸君」


 オレは褒めて育てるタイプ。怒鳴り、否定する教育なんてアホのやることだぜ、うん。

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